「ぎゃあああああっ!」――2月に映画公開、全米を震わせた「ホラー短編集」が本当に怖い!

文芸・カルチャー

公開日:2020/1/15

『スケアリーストーリーズ 怖い本1 いばりんぼうをつかまえた』(アルビン・シュワルツ:編、関麻衣子:訳、カワズミ:絵/岩崎書店)

「ぎゃあああああっ!」とおびえながらも楽しい“怖い話”。実際にあったら怖いけれど、友だちや家族で語り合いながら、夜な夜な楽しむには絶好のエンターテインメントだ。

 怖い話が大好きなのは世界共通。アメリカの作家・シュワルツの『スケアリーストーリーズ 怖い本1 いばりんぼうをつかまえた』(アルビン・シュワルツ:編、関麻衣子:訳、カワズミ:絵/岩崎書店)によれば、古くはヨーロッパからアメリカ大陸に上陸した大人たちが、誰の話がいちばん怖いのかを競いながら楽しんできた。アメリカでは今でも、子どもたちが誰かの家に集まっては、明かりを消してポップコーンを食べながら、とびあがるほど怖い話を楽しんでいる。

 本書は、全米でシリーズ累計発行部数が700万部を突破したティーン向けホラー短編集。あまりのおそろしさに全米では学校図書館への納本に対する反対論争が巻き起こったとか。2月28日(金)には、この本の大ファンだったというホラー映画の名手、ギレルモ・デル・トロ氏がストーリー原案・製作を手がけた映画が公開されることも決定している。そんな本書の内容をすこしだけ紹介したい。

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●世界のどこかで語り継がれた29の短編

 29のふしぎで怖いお話には、幽霊、ゾンビ、悪魔、魔女などのほかに、想像を絶するような姿の怪物も登場。目をつぶるのが怖くなるような話もあれば、怖すぎてなぜだか笑っちゃうお話もあり、ホラー入門者から上級者までじっくりと楽しめる。

 注目は、どのお話も、どこかの誰かが実際に見たり聞いたり、感じたりして(あるいはそうだと思い込んで)語り継がれていること。今この時、誰かが世界のどこかでこの恐怖を本当に味わっているかもしれないのだ。つまり、次は本を読んでいるあなたが物語の主人公になるかもしれない…!

●煙突から血まみれの生首が…

「いばりんぼうを つかまえた」は、本のタイトルにもなっている短編。「煙突から血まみれの生首が毎晩落ちてくると言われる家」で、ひと晩過ごせたら200ドルが支払われることになり、ひとりの男の子が犬と一緒に挑戦するところから物語は始まる。

外の森のほうから、かなしげな歌声がかすかに聞こえてきました。「いばりんぼうをつかまえた」
すると、なんと犬が歌いはじめたではありませんか。小さなかなしげな声で——「なぐって けって ころがして 暖炉のなかに すてちまえ」信じられません。この犬が言葉を話したことなんて、いちどもないのです。

 このあと、悲しく歌う人の声はどんどん男の子に近づき、その声が聞こえるたびに犬は話しつづけるのだが…。唯一の味方であるはずの犬が、何者かに操作されているようにしゃべりはじめるところにゾクゾク。さらに、この男の子と犬には衝撃の運命が待ちかまえている。

●右手にフックをつけた殺人犯が…

 もうひとつ紹介する「フック」は、ほかのお話に比べると新しく、若い人たちがふだんの生活のなかで経験するような身近な話。ドライブで丘のてっぺんまで来たドナルドとサラは、近くの刑務所から右手に大きなフックを身につけたおそろしい殺人犯が逃亡したことをラジオで知り、家に帰ろうとするが…。

「女の子って、ほんとうに怖がりだなあ」車を出すとき、ドアをひっかくような音がサラの耳に聞こえました。「いまの、聞こえた?」走り出す車のなかで、サラが言います。「あの音、まるでだれかがドアをあけようとしたみたい」

 やがて2人はサラの家に到着。ドナルドがサラのいる助手席のドアに手をかけると…。右手のかわりにフックをはめた殺人犯の姿は、想像するに怪物のよう。だが、現実に存在する人物のようにも思える。非日常とリアルが交錯したような世界観に、夜も眠れなくなりそうだ。

●物語の背景とともに味わうと怖さ倍増!

 挿絵はすべて日本語版のために描き下ろされたもの。見たことがないような怪物の造形や登場人物たちの表情が絶妙なタッチで描かれており、本当に怖い!!!

 29の物語にはそれぞれ歴史がある。カナダやアメリカの最北端にいる先住民たちの間で語り継がれる悪霊の話、戦地に向かう軍人が死をおそれる気持ちを乗り越えるために伝えられた話など。日本の怪談とはちょっと違った考え方もあって、とても興味深い。

 民話がもとになっているからこそ、物語の背景とともに楽しめるのが本書の魅力。その怖さは本当にトラウマ級なので、くれぐれもお気をつけて。寒い冬にあたたかい部屋の中で、ゾクッとおそろしいひとときを楽しもう。

文=吉田有希