人気BLコミック『ポルノグラファー』『インディゴの気分』のドラマ化から公式ファンブックができるまで【前編】
公開日:2020/1/12
ヒットコンテンツが生まれる背景にはSNSコミュニケーションが欠かせないと言われる昨今。BL漫画原作としては初の“連続ドラマ化&地上波放送”という快挙を成し遂げたコミック『ポルノグラファー』とその続編『インディゴの気分』(丸木戸マキ/祥伝社)の場合も、熱烈なファンのリクエストに応えるようにさまざまなコンテンツが派生しました。
そこで原作コミックの担当編集者小林 愛さん、ドラマの企画・プロデュースを担当した清水一幸さん、『ドラマ「ポルノグラファー」「ポルノグラファー~インディゴの気分~」公式ファンブック』担当編集者の飽浦 怜さんに制作裏話を直撃。“今どきのヒットの図式”を探ってみました。
■始まりはひとつのオリジナルBL同人作品から
――まずは2015年に原作コミックの『ポルノグラファー』の連載が始まったいきさつから教えてください。
小林 愛さん(以下、小林) 実は『ポルノグラファー』の第1話にあたるお話は、原作者の丸木戸マキ先生が同人誌のイベントでオリジナルBL作品として自費出版されていたものなんです。これから何かが始まりそうという非常に印象的なところで終わっていたので、“もっとこの話が読みたい!”と思って、会場ですぐに「この続きを描きませんか」とお声がけをさせてもらいました。
――実際に連載が始まってどのくらいで手ごたえを感じましたか?
小林 作品の人気に最初に気づいたのは連載終了後、2016年に単行本として発売した翌週にすぐ重版がかかったときです。その翌々週には3刷りが決定。新人作家の中では大変好成績でした。読者の方の口コミでも「イロモノ作品かと思いきや、すごい感動作だった」という声が多く、みなさんのレビューで興味をもち手にとってくださった方も多かったのではと思います。
――これまでBLものを読んだことがなかったのですが、『ポルノグラファー』はいきなり斜め上をいく予想外のストーリー展開が面白かったです。
小林 設定自体も、ちょっと変わっていて面白いですよね。年上の官能小説家が大学生に口述筆記のバイトを頼んで自分の官能小説を書き取らせるというイロモノっぽいシチュエーションで始まるのに、読後感は爽やかで、でもどこかセンチメンタルな感じもあって。恋愛劇にスランプに陥ってしまった作家の苦悩を混ぜたことで、キャラクターの人生をのぞき見たようなドラマティックさが生まれて「読み応えがあった」と感じていただけたのかなと思っています。
――確かに、わかりやすいハッピーエンドではない終わり方にも品が感じられて小説のような読後感がありました。
小林 実はBL作品は2人の男性が完全にくっつく、イコール恋が成就する物語のほうが圧倒的に多いんですね。定石からすれば、ふたりが再会してちゃんと恋人になったところまで描いたほうがよかったのかもしれないのですが、そこは丸木戸先生も「ここで終わらせて、余韻も楽しんでもらえれば」とこだわってらっしゃいました。私もこの物語はこのエンディングだからこそ美しいと感じていたので、連載時はその形で。単行本化の際には、“ふたりがちゃんと恋人関係になっているところが見られたらうれしいよね”と思って、最後におまけという形で、その後のふたりを描きおろしていただきました。
■元カレとのバッドエンド的な続編が支持されたその理由
――そしてその半年後に続編の『インディゴの気分』の連載がスタートしていますが、やはり1作目の反響を受けて始まった感じでしょうか。
小林 はい。『ポルノグラファー』は官能小説家の木島先生と大学生の久住くんの恋愛でしたが、丸木戸先生とご相談をする中で“当て馬で出てきた編集者の城戸をもっと見たいね”という話になって。先生から「『ポルノグラファー』で意味深に描いた城戸と木島の過去の関係を題材に展開してみたい」と提案があり、そこに落ち着きました。
悩みどころだったのは、主役が“くっつかないふたり”であることでした。BL読者の方は特にバッドエンドというか、別れてしまうふたりの話はつらいから苦手だと感じる方が多い傾向にあるんですね。でも丸木戸先生の力量なら十分エンタメとして成立すると思えたのでふみきることにしました。
――『インディゴの気分』では城戸の木島に対する憧れや嫉妬も明かされていて、ふたりの物語を静かに完結させるあたりも印象的でした。
小林 筆舌に尽くしがたいラストで、お読みでない方にもぜひあの感情を体験してほしいです。丸木戸先生のストーリテリングの巧みさには唸らされます。
実は単行本の売り上げという面では『ポルノグラファー』のほうがやや上なのですが、感想をのぞいてみると『インディゴの気分』のほうが熱心に語ってくれている方が多く見受けられる印象なんですよね。
――“売れる”と“好き”が違う。なぜなんでしょう。
小林 おそらく『インディゴの気分』のほうは、“失恋した元カレとの過去の話”というふだんBLを好む方があまり見たことのないタイプの関係性が描かれたことで、誰もが好きな物語にはならなかったのかもしれません。そのぶん、思わず声に出して伝えたくなる作品といいますか、「これ私本当に大好きでした」「記憶に残る本になりました」って人に紹介したくなるタイプの本になったんじゃないかなと思います。
木島の官能小説の師である蒲生田先生の登場も、木島の人生を描くという点で、物語に奥行きを出していました。それらがかもし出す深みのようなものを受け取って、感想を語りたくなった方が多かったのかもしれません。
――確かに、木島に影響を与えた蒲生田先生の存在はインパクトがありました。この2作がBL漫画としては初めて連続ドラマの原作に選ばれた理由についてはどうとらえていますか。
小林 BLのストーリーって、少し非日常的というか「ありえないな、現実では」というファンタジーっぽいところがあるんです。でもこの2作は恋愛関係に落ちていくふたりの感情が納得できるというか、「こういうこともあるかも?」というレベルで描かれていたり、男だからとか女だからではなく“この人のことを好きになった人の話”として描かれていたことも大きかったのではないでしょうか。
BLコミックを実写化する際にネックとなる要因のひとつに、演者さんが男性同士の恋愛に感情移入しにくいという点があると思うのです。その点では、『ポルノグラファー』は寄り添いやすい現実的なキャラクター像やストーリー展開だったと思っています。
■配信ドラマ枠だったからBLにチャレンジできた
――『ポルノグラファー』や『インディゴの気分』のドラマ化はどのように企画されたのでしょうか。
清水一幸さん(以下、清水) たまたま知り合いから「面白い本ありますよ」と勧めていただいたのが『ポルノグラファー』だったんです。2018年の初めごろでした。僕もBL作品を読むのは初めてでしたが、このストーリーだったらラブストーリーとして成立していると感じたので映像化してみようと思ったんです。
ドラマ原作として検討する作品の中には、これはこのまま映像化できそうだなと感じるものもあれば、原作の骨はいいんだけど肉付きがよくないから少し脚色しないといけないものと両方あるんですね。
『ポルノグラファー』の場合はまさに前者で、しかも5~6話で完結できそうだった。それでこれはチャレンジする価値があるなと。
――ドラマのほうは2作品とも映画のような空気感がありました。キャスティングもとても新鮮な顔ぶれで。
清水 映像については三木康一郎監督が作品を具現化するためにいろいろと考えてくれた部分で、キャストは制作スタッフみんなで決めました。
あれから2年たった今だったら、役者は「BLをやってみたい」と思うと思うんですよ。『おっさんずラブ』の成功もありますし。でも『ポルノグラファー』の映像化の話が出たときにはまだ連ドラの『おっさんずラブ』は始まっていなかったし、みんな一瞬及び腰になりますよね。やっぱり初手って難しいので。
そんな中で、主人公の木島理生を演じてくれた竹財輝之助くん、久住春彦役の猪塚健太くん、城戸士郎役の吉田宗洋くん、蒲生田郁夫先生を演じられた大石吾朗さんも、監督の三木康一郎という存在の大きさや、作品を読んで純粋に演じてみたいと思ってチャレンジしてくれたのだと思います。
今や“いい”と感じたものはいち早く届けないとすぐに旬を過ぎて腐ってしまう時代です。今回は配信ドラマだからすぐやれたし、結果的にとてもいいタイミングで制作できたと思っています。
――実際に2018年7月の『ポルノグラファー』配信後にFOD(フジテレビオンデマンド)のオリジナルドラマ史上最速で視聴数100万回を突破。“今すぐ感”は正解だったんですね。
清水 数字のことを言うのは難しいのですが、配信業界では再生回数が評価基準のひとつになります。さらにユーザーがどのドラマを目的にFODに加入したかも評価の目安になるわけです。確かに『ポルノグラファー』や『ポルノグラファー~インディゴの気分~』の配信開始月にはそれが見たいから加入したと思われる人が多かったのか、FOD加入者数が1位になったりしました。
またこの作品が評価されるべき点は、BL好きな方も含めて大勢の人たちがSNSで盛り上がってくれたことにあると思っています。BLって基本、秘めごととしてひっそり見るものじゃないかと思っていたのですが、「みんなで騒いでいいんだ」とどんどん表に出ていった作品になったのはほめられてもいいんじゃないかなって思っています。(後編に続く)
★公式サイトはこちら!
・『ポルノグラファー』
・『ポルノグラファー~インディゴの気分~』
撮影=編集部
取材・文=タニハタ マユミ