昨日の美人は今日のブス!? 人生訓も詰め込まれた高須克弥院長の独白本

ビジネス

公開日:2020/1/13

『全身美容外科医 道なき先にカネはある』(高須克弥/講談社)

 とっさに「イエス!」と言われたら、十中八九「高須クリニック!」と返したくなるのではないか。それほどまでに浸透しているであろう同クリニックの、日本屈指の美容外科医である高須克弥院長の自伝が出版された。

 タイトルからして『全身美容外科医 道なき先にカネはある』(講談社)とかなりのパンチがきいた本書。みずからについて「『医者を引退した、目立ちたがり屋の変なおじさん』というイメージを持つ方もいるかもしれません」と読者へ語りかける高須院長が、これまでの歩みを独白した貴重な1冊となっている。

■西ドイツで美容外科のおもしろさと出会う

 太平洋戦争の末期である1945年1月、高須院長は愛知県で生まれた。代々、医者を生業としていた地元の名家で、父は内科医、一人娘だった母親も産婦人科医で、両親の親族も医者だったという。

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 そんな環境からか、必然的に医師の道を志した高須院長であったが、転機となったのは、医師免許取得後に交換留学生として訪れていた西ドイツ(当時)での体験だった。

 最先端の医療を学んでいた高須院長が目にしたのは、大きな鼻にコンプレックスを持っていたある大学教授の手術だった。その教授は、いわゆる“ユダヤ鼻”と呼ばれるカギ鼻を小さめなゲルマン風の鼻にするべく、弟子たちに指導してみずからの手術を試行していた。

 はじめこそ「ずいぶんおもしろそうな手術だな」と軽い好奇心で見ていたと振り返る高須院長であるが、その体験により「自分が認識していた医療の枠を大きく超えるその光景は、それまでの価値観を根本から揺さぶるものでした」と思うほどの衝撃を味わったという。

 それ以来、えらを削る、あごを短くする、歯のかみ合わせを整えるなど、できる限り美容外科の手術を見学したという高須院長。日本では「病気でもないのに身体を傷つけるなんて犯罪だ」といった風潮があった時代に見た光景のどれもが「まるで魔法のように思えた」と述べている。

■代名詞のテレビCMで風習を打破

 世間に対する「逆張り」こそが、成功への近道だと思いをにじませる高須院長。今でこそ美容外科によるテレビCMを頻繁にみかけるようになったが、じつは、その流れを生み出したのは自分が「元祖」であるという。

 今や、高須クリニックのテレビCMはみかけない日がないほどに定着しているようにみえるが、広告を出稿しようと思いはじめた当時は、医者に対して「露出を高めるのは売名行為であり、悪い医者だ」とする風潮があったと語る高須院長。加えて、テレビ局も自主規制の流れに乗っていたため、みずから「そんな風習を打破してやろう」と行動へ移したという。

 千載一遇の機会となったのは、深夜枠のある歌番組から「協賛してほしい」という依頼があったことだった。すでに実験的にテレビCMを作っていた高須院長は、全国20局以上のローカル局でオンエアされていたその番組内で、映像を流すことに成功した。

 既成事実をつくってからは、高須院長が「僕の顔を出すCMを出稿したい」と願ってもつっぱねていたテレビ局側の態度も一変し、なし崩し的にさまざまな番組で流れるようになった。

 この経験を振り返りながら「日本人は子供の頃から『あれをしてはいけない。これをしてはダメだ』という教育を受けているので、枠からはみ出すことを嫌い、『ダメだ』と言われると簡単に引き下がってしまう」と述べる高須院長。大切なのは壁を突破することだと、読者へと訴えかける。

■流行に乗るな「昨日の美人は今日のブス」

 美容外科で思い浮かぶのは“キレイになりたい”や“カッコよくなりたい”といったキーワードだ。その真髄には多かれ少なかれ“今の自分を変えたい”という気持ちがにじむが、高須院長は「◯◯のようになりたい」は失敗のもとだと述べる。

 これまで多くの手術を経験してきたなかで、患者からさまざまな要望を受けてきたという。しかし、いわゆる“美”にも流行がある。「美的感覚もまた時代によって変わってしまう」と憂う高須院長は「誰かのようになりたいという考えは嫌いです」と断言する。

 例えば、八重歯とえくぼをチャームポイントとする時代があっても、年月が過ぎればすたれてしまう。実際、その時点での美的感覚をもって美容整形に臨んだ患者の中には、流行が変わってしまったことで、あとになってさらになおす人も数多くいたという。

 美を探求する専門家として「昨日の美人は今日のブス」と投げかける高須院長。ひとりの美容外科医として、コンプレックスをなくし、美しさのブームをつくらないことこそがみずからの本分であると語っている。

 テレビやSNSを通したイメージとは異なる、高須院長の言葉が凝縮されているのも本書の魅力。人生訓もふんだんに盛り込まれているので、私たちの背中を押してくれる1冊となっている。

文=カネコシュウヘイ