「ポラロイドカメラ」のポラロイド社はなぜ倒産したのか。「倒産」に見る、企業の生き残り戦略
公開日:2020/1/17
『世界「倒産」図鑑 波乱万丈25社でわかる失敗の理由』(荒木博行/日経BP)は、前向きな本だ。決して人々の営みを「倒産」という切り口で茶化そうというものではない。本書では25社の倒産事例が掲載されていて、全ての事例は「私たちへのメッセージ」と「◯◯倒産に学ぶ3つのポイント」で締めくくられる。
さまざまな時代や地域の倒産事例から、現代を生きる私たちが学び取れるものをイラストやグラフ付きでわかりやすく示してくれるのが、本書の特徴だ。
ポラロイド社の事例を紹介しよう。
創業者のエドウィン・ハーバート・ランドは、あのスティーブ・ジョブズをして「国宝」と言わしめた天才発明家だ。ポラロイド社はご存じの通り、撮った写真がすぐ手元に出てくる「ポラロイドカメラ」を開発して実用化し、市場全体を拡大したイノベーティブな企業だ。
しかし一時代を築いた後、デジタル技術の台頭によって企業は窮地に追い込まれることになる。そこでポラロイド社は、ある皮肉な「成功」を収める。それはアナログのインスタントカメラ「スペクトラ」の大ヒットだ。デジタル化の波を察知し、デジタル製品の開発を進めていたものの、過去の成功パターンにとらわれて会社は「スペクトラ」に進んでいってしまったため、直後に市場が一気にデジタル化された際には時すでに遅し。技術の蓄積がないポラロイド社は波に飲み込まれてしまった。社内で行われていたデジタル製品の開発は、ランドから経営を引き継いでいたマキューンらによって最終段階で否決されていたのだった。
いわゆる「イノベーションのジレンマ」の典型事例だと著者・荒木博行さんは指摘する。既存のアナログ技術の延長線上でデジタル市場を分析しようとして意思決定を誤り、ポラロイド社は倒産した。
なお、会長兼研究所長となっていたランドは、企業が拡大していく段階で自らの置かれた立場を認識し、会社を去っていた。その後、設立したローランド研究所では、「1日1実験」という研究中毒の生活を送っていたという。
ポラロイド社の事例では、“既存事業と同じ尺度で、新規事業を測る危険性を理解しよう”とポイントが挙げられている。
他の事例では、「焦りとリスク管理の関係性をどう考えるか?」「目の前にあるルーティン業務から離れて、未来から、異業種から、過去事例から、といった高い視座で自分たちを俯瞰するには?」といった問いかけを読み取ることができる。
経営に携わる人だけでなく、ビジネスパーソンも、倒産に至るまでの人間ドラマを楽しみたい人も。さまざまな人が学べる1冊だ。
文=えんどーこーた