【監禁】“一生出られない”閉鎖病棟に入院!/『マンガでわかるうつ病のリアル㉗』
公開日:2020/1/20
重度のうつ病に5年以上苦しむも「メンヘラマッスル作家」として奇跡の復活を遂げた錦山まるが、あなたの知らないうつ病のリアルを教えます!
精神病院 閉鎖病棟の実態をレポート!
精神病院には「アブない人だらけ」という誤ったイメージが付きまとっている!
『薬漬けにされて廃人にされる』『一度入院したらそのまま一生出られない』『頭のおかしい犯罪者予備軍が集まっている』『狭い部屋に閉じ込められて実験動物のように扱われる』…など、精神病院の閉鎖病棟をまるでバイオ◯ザードの舞台みたいな怖ろしい世界かのように考えている人がいるようです。
そのようなイメージからか、医師から入院をすすめられた患者さんが周りの人から「あんな怖いところに入れられない!」「ご近所さんからどんな目で見られるかわからない!」などと強く言われ、入院を止められてしまうケースも。
筆者も何となく『閉鎖病棟はヤバい場所』というイメージがあったため、入院が決まったとき「僕はそこまで落ちぶれたんだ…」と、絶望感や屈辱感でいっぱいでした。ですが、入院して時間が経つにつれ「閉鎖病棟は怖いところじゃない」ということがよくわかりました。
入院して最初の数日は、うつ病以上につらいかもしれない。
筆者は閉鎖病棟に入院したとき、最初の数日間は非常ドアみたいな重い鉄のドアの個室に閉じ込められていました。部屋の中にはベッドとプラスチックのイスが1つあるだけ。そのイスは座るところに穴があり、穴の中にバケツが入っていて、トイレはそこにするというシステム。個室から出してもらえないのでお風呂に入ることもできず、2日に一度看護師さんが持ってきてくれる温かいタオルがお風呂の代わり。基本的に自分以外の生物と関われるのはそのタオルや検温や薬の時間に看護師さんが来てくれたときだけ。
とにかく寂しくて、人間の生活をしているように思えなくて、閉鎖病棟のこの数日間は人生でトップ3に入るつらい時間でした。
その後、個室から出て病棟内だけ歩き回れるようになってからは、叫び声を上げる人、病棟の時計を割る人、机を蹴り飛ばす人(筆者もやりました。ホントにごめんなさい)、お金を盗む人、女性患者専用部屋に侵入する男性患者など、色んなトラブルを目にしました。
…ここまで読んでくださった皆さんは「いや、やっぱ怖い場所なんじゃん」と思うかもしれません。ですが、筆者は入院を経験した今、「閉鎖病棟はヤバい場所だ」などとは全く思いません。
決して自死をさせないために、徹底した安全管理を行っているんだ。
確かにつらい時間もありました。屈辱的な生活もしました。トラブルになることもありました。事件も目の当たりにしました。ですが、あくまで“そういうこともあった”のであって“それが全て”でも“そんなことばかり”でもありません。
そもそも筆者が個室に閉じ込められたのは自死のリスクが高いと判断されたためです。簡易トイレ以外は何もない、窓も開かない、ヒモなどを引っ掛ける出っぱりすらない文字通り『何もない部屋』なのは自死のリスクを減らすためです。しかもこの部屋は、看護師さんが監視カメラやドアについた小窓から患者がどう過ごしているかを伺い、異変があれば24時間いつでも駆け付けられるようになっていました。
個室以外にも、病棟内の食堂やロビーや廊下など色んな場所に監視カメラがありました。物を壊したり他の患者に迷惑行為をしたりする人がいたらすぐに看護師さんがかけつけ、落ち着くまで個室に入れたり、あまりに悪質な場合は別の病棟への転院や強制退院などの対処をし、入院患者の安全を守っていました。
そして僕を含め入院患者は、入院するときに自死に利用できそうなものはすべて没収されました。靴ヒモやズボンのヒモはもちろん、小説についているヒモやメガネが落ちないようにするためのヒモ、金属やガラス製品や先の尖ったものなど、本当にどんなものでも病棟に入る前に没収でした。外出の許可を得られるようになり少しだけ病院の外に出たときも、毎回必ず金属探知機で全身をチェックされ、やはりNGなものは没収されました。この安全管理の徹底ぶりには本当に驚きました。
人のやさしさにふれたときの感情、魂が救済されたような感覚は忘れられない。
前述の通り、個室に閉じ込められていた数日間はとてもつらかったです。ですが、寂しいことを伝えると看護師さんは検温などの時間以外にも、時間を見つけて僕の部屋に会いにきてくれました。「時間を見つけて私たちが会いに来ますから」「今ちょっとならおしゃべり付き合えますよ」と言われたときの嬉しさを、退院から5年近くたった今でもハッキリ覚えています。
僕が「僕はどうせまた自殺する。それが成功して終わるか、失敗してまたここに閉じ込められるか… 一生それの繰り返しだ。」と訴えたときに「ずっと繰り返されるわけじゃない。いつかそうじゃなくなる日が必ず来ます。」と言われたときの、暗闇の中にたった1つロウソクの灯りが見えたような救われる感覚を、今でもハッキリ覚えています。絶望感や屈辱感でいっぱいだった筆者がこのときはじめて『きっと元気になれる』と希望を持てました。そして自死を図って入院した筆者から、やっと『死にたい』という思いが消えました。
個室の数日間は人生でトップ3に入るつらさでしたが、この数日間ほど人の温かさを感じたことはありませんでした。
偏見にとらわれず、回復の手段として入院も検討してほしい。
このように、閉鎖病棟はつらい病気に苦しむ人たちが少しでも早く元気になれるように、たくさんの工夫や配慮がされています。つらいこともイヤなこともありましたが、トータルではとても過ごしやすい環境でした。
筆者は入院してよかったと思っていますし、筆者のうつ病が治るのに絶対必要だった過程だと思っています。もしうつ病が再発したらきっと早めに入院を選びますし、身近な人がうつ病になったら『入院』という選択肢を頭の中に入れておくように言うと思います。
もちろん筆者が入院したような病院だけではなく、『怖い』『ヤバい』という印象を受ける病院もあるでしょう。目の前で見たら『虐待』というワードが頭をよぎるようなことを患者にしている病院もあるでしょう。実際に刑事事件も起きていますし、検索すればゾワッと鳥肌が立ってしまうような衝撃的な話もあります。家族が受け入れてくれないから、本人が退院したがらないからなど、色んな理由で一生入院する人もいます。
ですが、“そういう例もある”からといって閉鎖病棟がすべて怖い場所ということにはなりません。
入院したほうがいい状態なのに、イメージのせいで入院を選択できない。そもそも入院という選択肢が浮かばない。あるいは本人が入院してきちんと治したくても周りが止めてしまう。そのせいで、もし入院していれば防げたかもしれない問題が起きてしまう…こんなもどかしい話はないのではないでしょうか?
閉鎖病棟への入院は治療の手段。言い換えれば、患者さんが望む“普通の毎日”に戻るための手段です。どうか閉鎖病棟はヤバい場所ではなく、治療の選択肢の1つなのだと覚えておいてください。いつかあなたや、あるいはあなたの大切な人を助けることになるかもしれません。
錦山まる=2009年にプロ漫画家デビュー。月刊誌で連載を持ち単行本を出すも2013年に重度のうつ病と診断され、5年近く自宅療養の日々を送る。病気が回復するにつれ、同じようにうつ病に苦しむ方を1人でも楽にしたいと著書出版やSNSによる啓蒙活動に取り組む。著書に『「うつ」は甘え?ググれカス。』『きっと元気になれるから』他
Twitter:@nishikiyamamaru
錦山まる公認bot:@marurunzmemo