「貧困専業主婦3人に1人が幸せ」その理由は…/『2億円と専業主婦』⑤

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公開日:2020/2/8

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『2億円と専業主婦』(橘玲/マガジンハウス)

「貧困」でも専業主婦が幸福な理由

 次に、「炎上」のもうひとつの理由になった「好きで専業主婦をやってるわけじゃない」を考えてみましょう。

 これまでの日本では、「専業主婦こそが女のもっとも幸福な生き方だ」とされてきました。そしてこれは、いまでもまちがっているとはいえません。驚くべきことに、専業主婦は貧しい暮らしをしていても幸福度が高いのです。

 この興味深い事実を指摘したのは労働経済学者の周燕飛さんで、『貧困専業主婦』(新潮選書)からすこし詳しく紹介してみましょう。

◉貧困専業主婦の3人に1人が「とても幸せ」

 周さんは、労働政策研究・研修機構が2011年に行なった「子育て世帯全国調査」のビッグデータを分析して、専業主婦のうち約8人に1人が貧困に陥っていることを発見しました。貧困の定義は「世帯所得が全世帯の所得の中央値の半分に達していない」ことで、(「貧しいから妻がパートに出ている」と思われている)共働き世帯の貧困率が9%なのに対し、専業主婦世帯の貧困率はそれを上回る12%に達していたのです。

 私たちは当たり前のように、「専業主婦家庭は(相対的に)ゆたかで、収入が少ないから仕方なく共働きになる」と思っています。ところが実際には、「貧しいのに働かない」専業主婦がかなりいるらしいのです。

 もちろん、働くことができないやむを得ない事情があるひともいるでしょう。本人や子どもが病気だったり、親の介護をしていたり……という困難のなかで貧困に陥っていく女性の話は巷(ちまた)にあふれています。

 これなら、「世の中には大変なひともいる」で終わる話でしょう。しかし、ほんとうの驚きはここからです。

 この調査では、「この1年を振り返って、あなたは幸せでしたか」の質問に、「とても幸せ」を10点、「とても不幸」を0点として11段階で評価してもらっています。その結果が36ページの図ですが、貧困層の専業主婦の3人に1人(35.8%)が8点以上の「高幸福度」だったのです。

 3人に1人が幸福ということは、3人のうちの2人は「不幸」なのかというと、そうではありません。4点から7点の「中幸福度」を合わせると、その合計はほぼ9割に達します。貧困専業主婦の大半は、自分のことを「それなりに幸福」と思っているのです。

 もっとも、全世帯の「高幸福」の割合は63.9%なので、「貧困専業主婦(35.8%)は平均的な世帯の半分程度しか幸福ではない」ということはできます。働く女性の「高幸福」の割合は53.6%ですから、こちらも「貧困専業主婦」よりずいぶん高くなっています。当たり前の話ですが、収入が多ければ幸福度は高くなります。

 この結果についてもっとも説得力のある説明は、「貧困専業主婦のまわりには同じような経済的困難を抱える家庭が多い」でしょう。幸福は相対的なものですから、「あそこに比べればウチはまだマシ」と思えば生活の満足度は上がります。

◉2億円損して、家事・育児を楽しんでいる?

 この図を見てより興味深いのは、貧困層以外は、世帯収入による幸福度のちがいがほとんどないことです。800万円以上の高収入の世帯の専業主婦の7割(69.2%)が「高幸福」なのはわかりますが、800万円未満の世帯で65.6%、500万円未満の世帯でも60.5%と、6割を超える専業主婦が「幸せ」と回答しています。

 調査対象はいずれも子育て中の家庭で、年収500万円というと手取りでは月35万円前後でしょうから、それ以下でも「貧困」とはいえませんが、家賃などを考えれば余裕のある暮らしというわけでもないでしょう。それでも家計が苦しい専業主婦の幸福度は高収入の世帯とあまり変わらず、「中幸福度」を合わせるとほぼ100%が「それなりに幸福」と回答しているのです。

 こうしたデータを見るかぎり、専業主婦は収入の多寡にかかわらず幸福で、自らの意思で1~2億円の生涯賃金を放棄し、家事・育児を楽しんでいるということになります。だとすれば、病気などで苦しんでいるケースを除けば、貧しい専業主婦世帯を税金で支援する理由もなくなります。好きで貧乏しているひとのことは放っておいて、国民の「血税」は減税で納税者に返還するか、もっと支援を必要とするひとたちに回すべきでしょう。

 さて、このような結論でほんとうにいいのでしょうか。

<第6回に続く>