心理学者が解き明かす「脳みそ筋肉な人」「体育会系上司」の正体。上手な付き合い方は?

ビジネス

公開日:2020/1/31

『体育会系上司 「脳みそ筋肉」な人の取扱説明書』(榎本博明/ワニブックス)

 組織や集団に属していることがしんどい…。筆者は学生の頃から、そんな思いにかられるようになった。何でも“みんなで”成し遂げようとしたり、上の人を立てる暗黙のルールに従ったりすることに息苦しさを感じたため、体育会系な人との関わりをなるべく避けてきたつもりだ。
 
 しかし、社会に出て仕事をしていると、そうとばかりもいっていられない。上司や同僚、取引先にも体育会系の人はいるものだし、うまく付き合う必要があるからだ。だから、自分から一番遠くにいるような気がする体育会系との付き合い方を知りたくなった。そんな時に目に飛び込んできたのが『体育会系上司 「脳みそ筋肉」な人の取扱説明書』(榎本博明/ワニブックス)だ。

 本書は、心理学的考察を交えながら、体育会系の人の長所や短所、体育会系組織の特徴を解説。筆者のように、体育会系と上手に付き合いたいと思っている人にはきっと役立つ処世術が詰まっている。

■衝撃の事実!? 日本社会全体が「体育会系組織」

「体育会系」と聞くと、あなたの頭にはどんなイメージが浮かぶだろうか? 近年は、日本大学アメフト部の悪質タックル問題や日本ボクシング連盟のパワハラ問題など、スポーツ界での不祥事が相次いだため、もしかしたら体育会系に対してあまり良い印象を抱いていない方もいるかもしれない。しかし、著者いわく、体育会系は本来、社会適応や組織適応に有利だという。

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 体育会系の世界では、上に絶対服従という「上意下達」が常識。厳しい規律の中で身についた礼儀正しさや人当たりの良さは、企業にも好まれやすい。実際に体育会系の学生は業界トップ企業の内定獲得において有利といった調査結果もあるそう。

 さらに、体育会系は協調性やコミュニケーション能力、忍耐力、粘り強さなども身についているため、就職だけでなく昇進にも有利だという調査結果もあるそうだ。

 だが、その一方で、こうした体育会系の強みは不祥事を生み出すタネになることもある。例えば、権威主義的傾向はパワハラの容認につながったり、長所である気配り力が行き過ぎた忖度となってしまうと、判断を歪ませる可能性もある。

 本来ならば、体育会系組織は相手の要求や気持ちを汲み取ることができる“温かい集団”だが、団結力が強過ぎると排他的になったり、上意下達によって事なかれ主義に陥ってしまったりする危険性も孕んでいる。こうした病理構造は、私たちの身近にもよくあるだろう。

 著者いわく、日本人は相手の思いや状況を配慮しようという意識が強いため、他者の期待に応えなければと考えてしまいがちだ。「言葉の裏を読む」という日本人にありがちな思考は、美徳であると同時に、組織を病ませる元凶にもなり得るのだ。

 もしかしたら日本社会そのものが体育会系組織なのでは…と考えさせられる。だからこそ、本書は体育会系組織だけでなく、学校や会社、地域コミュニティなど日本社会のあらゆる組織の中で“生きづらさ”を感じている人に響くだろう。

 暗黙の了解のように慣例化してしまったサービス残業や、上司の理不尽な意見がまかり通る職場、会議での同調圧力――そうやって言葉よりも「空気」によって物事が決定されることに嫌気や恐怖を感じている人は、本書を通じて組織で上手に立ち回る処世術を学んでみてほしい。

文=古川諭香