【ネタバレあり】『鬼滅の刃 19』“上弦の弐”を追い詰める伊之助とカナヲ…胡蝶しのぶの命を賭した復讐の全貌が明らかに
更新日:2020/2/5
鬼舞辻無惨を倒すため、無限城で死闘を繰り広げる鬼殺隊たち。竈門炭治郎と水柱の冨岡義勇は命懸けで“上弦の参”猗窩座を撃破。しかし上弦の鬼はまだ行く手に立ちはだかる。1000年も追い続けてきた鬼舞辻の背中は、まだ遠い。
『鬼滅の刃 19』(吾峠呼世晴/集英社)は、“上弦の弐”童磨と激突するシーンから始まる。対するのは伊之助と栗花落カナヲ。2人にとって童磨は、是が非でも討ち取りたい敵だ。伊之助はまだ赤子の頃、童磨に母親を喰われてしまった。カナヲも、師範である胡蝶しのぶが喰われてしまった。それもカナヲの目の前で。なにより許せないのは、童磨の不快な言動だ。
この世界には天国も地獄も存在しない
悪人は死後 地獄に行くって
そうでも思わなきゃ
精神の弱い人たちはやってられないでしょ?
つくづく思う
人間って気の毒だよねぇ
憎悪をぶつける2人の気持ちをわざと踏みにじって、怒りをたきつける振る舞いに、伊之助は激怒。「俺の母親を不幸みたいに言うなボケェ!!」と突進するが、ヒラリとかわされる。さらに血鬼術で童磨本人と同じくらい強い氷の人形を、なんと複数も生み出されてしまい、防戦一方。いくらなんでもこんなのアリか? “上弦の弐”の実力に思わず息を飲んでしまう。
氷の人形で楽に勝負を終わらせ、ほかの鬼殺隊を始末しようと目論む童磨。しかしここで驚くべき展開が。なんと突如童磨の顔がドロリと崩れていく。今までの攻勢がウソのようだ。いったい何が起きたのか。ここで少し時をさかのぼる。
私は鬼に喰われて死ななければなりません
これは胡蝶しのぶの言葉だ。それを聞いて動揺するのは、継子のカナヲ。しのぶには、どうしても童磨を自らの手で討ちたい理由があった。しのぶの姉カナエもまた、童磨に殺されていたのだ。壮絶な因果である。
しかし童磨は強い。蟲柱の力をもってしても敵うかどうか分からない。だからしのぶは一計を案じていた。たとえ童磨に敗けて喰われても、いや、それすらも勘定に入れて確実に仕留めるための罠だ。鬼滅ファンでも、そうでなくても、もう一度17巻に収録されているしのぶの戦いを読んでほしい。しのぶはどんな思いで戦っていたのか。童磨に何を仕掛けたのか。一時の安息や未来すらかなぐり捨てて、命を賭した復讐の全貌が19巻で明らかになる。
本作の後半では、ついに上弦の鬼“肆”と“壱”が登場する。特に目を見張るのが、“上弦の壱”黒死牟との戦いだ。対するのは4人。霧柱の時透無一郎、鬼を喰らう不死川玄弥、玄弥の兄であり風柱の不死川実弥、そして岩柱であり鬼殺隊最強の悲鳴嶼行冥。
驚くべきは、黒死牟の正体だ。奴は鬼であるのに刀を差している。はじめに黒死牟と遭遇した時透は、その威圧感に恐怖を覚えた。互いに刀を抜くと…時透の片腕が飛んでいった。なんと黒死牟は“呼吸”術を使う剣士だったのだ。
時透は片腕を失い、刀で体を刺されて磔にされてしまう。隠れて隙を狙っていた玄弥は、あっという間に胴体を両断されてしまった。絶体絶命の大ピンチ。そのとき現れたのが、風柱の不死川実弥。少し遅れて鬼殺隊員最強の悲鳴嶼行冥だった。
19巻もアツい展開が目白押しだ。なにより命を懸けて戦う彼らの、痛いほどわかる心理描写が胸を締めつける。カナヲはしのぶを想って涙を流し、実弥は瀕死の弟を前に激高する。
彼らはただ鬼を殺すマシーンじゃない。大切な人を失くし、鬼殺隊に入ってからも、誰かと関わりながら生きてきた。不器用で、悲しくて、けれども時には笑顔を見せながら、必死に生きてきた。非道な鬼と向き合うことで、ほとばしる感情がひしひしと伝わってくる。
鬼殺隊の死闘によって、鬼舞辻の背中が少しずつ見えてきた。しかし黒死牟の想像を絶する強さを目の当たりにしただけ、絶望も深みを増す。鬼舞辻無惨の強さはどれほどなのか。鬼殺隊の勝利するイメージがまるで湧かない。
文=いのうえゆきひろ