“ひきこもり”は時代を映す鏡である。“ひきこもり”当事者のリアルに迫る、渾身のルポ
公開日:2020/2/21
ひきこもりといえば“若者がなるもの”と思われていた時期があった。
しかし、2019年3月に発表された内閣府の調査によって、常識は覆った。中高年(40~64歳)のひきこもりは推計61万3000人。不登校の延長とは限らないのが実情だったのだ。ひきこもりは、世間のイメージと実態とが乖離している場合が多い。
『扉を開けて』(共同通信ひきこもり取材班:編集/かもがわ出版)は、ひきこもりの現場を追ったルポルタージュである。
ひきこもりの人々を取り巻く環境は複雑だ。バブル経済の崩壊、就職氷河期の到来、派遣やパートなどの非正規労働の増加、かつては当たり前だった企業の新卒一括採用、終身雇用の揺らぎ、そしていじめの件数は増え、非婚化・晩婚化の流れはいっそう進み、地域社会のつながりは薄れた。
共同通信ひきこもり取材班は「本人に必ず会いに行く。会えなくても、せめて扉の前までは」と決め、実情に迫った。
キーワードは「孤立」だ。つながりが希薄になっていて、助言を求める相手がみつからない当事者もいるかもしれない。家族のなかには、恥ずかしいと感じてしまい、周囲の人に助けを求めづらい人もいるかもしれない。ひきこもりに対して、行政の支援が行き届いていないかもしれない。
とあるひきこもり当事者の母親が、本人に発した言葉が印象的だ。
“私が世間一般の考え方だと思う”
その当事者は、中学校でいじめの対象となり、ひきこもりになった。大人になり、就職したもののうまく適応できず、母から「適応できないあなたが悪い」などと否定的に言われた上で、投げつけられた言葉がそれだった。その当事者はきっと、孤立を深めたことだろう。
“ひきこもりは「時代を映す鏡」だと言われる。ひきこもりを生み出す背景を探ることは、すなわち、私たちが生きる社会のひずみを浮かび上がらせることに他ならない”
コンパクトでありながら、非常に迫力のあるルポルタージュだ。当事者たちのことを本書で知るにつけ、「ひきこもり」と括っただけでは知れない多様さを実感させられる。
本書に重みを持たせるのは、当事者会や家族会、当事者発のメディア、支援者活動といった、ひきこもりを取り巻く人々が積み上げてきた営みだろう。また、これだけ踏み込んだ取材を敢行した共同通信ひきこもり取材班に拍手を送りたくなる。
決して他人事ではない。ひきこもりを問題とするのなら、それは「私たち」の問題だ。
ひきこもりの当事者も、そうでない人も、「時代を映す鏡」に向き合ってみよう。
文=えんどーこーた