“内側から見る”激動の香港デモ… 参加した日本人留学生が渦中で見たもの

マンガ

公開日:2020/3/24

『漫画香港デモ激動! 200日』(秋田浩史:原作、TOA:漫画、倉田徹:解説/扶桑社)

 現在、中国に関する話題といえば「新型コロナウイルス」となるのだろうが、目を転じて2019年の後半はといえば、どうだったか。それはおそらく「香港デモ」ではないだろうか。一時は「第二の天安門になるのでは」と危惧されるほどであった香港デモ。しかし私自身もそうであるが、新型コロナの騒ぎが大きすぎて忘れがちになっているところがあるので、ここは『漫画香港デモ激動! 200日』(秋田浩史:原作、TOA:漫画、倉田徹:解説/扶桑社)で事態のあらましをおさらいしておくべきであろう。

 本書は香港に留学する大学生・秋田浩史氏が香港のデモに参加し、そこで実際に体験したことを漫画化したもの。漫画と解説コラムで構成されており、デモの流れが非常に理解しやすく描かれている。

 まず秋田氏が留学した香港は正式名称を「中華人民共和国香港特別行政区」という。香港はイギリスの租借地だったが、1997年に中国へ返還されたという経緯を持つ。そのためこの地は「一国二制度」という一定の自治などが「特別に」認められているのだ。しかし2019年2月に香港政府が「逃亡犯条例改正案」を提出。これは香港の犯罪者を中国に引き渡すことが可能となる制度で、中国当局の取り締まりが香港市民に及ぶ恐れもあった。これに反発した香港市民によって、デモは行なわれたのである。

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 2018年に秋田氏が留学したとき、香港はまだ平穏だった。しかし「逃亡犯条例改正案」が審議され始めると、香港市民たちによる抗議のデモが始まる。2019年4月には14万人、6月9日には103万人もの市民が参加したという。しかしそれでも審議の継続を発表した香港政府に対し、6月16日のデモ参加者はついに香港史上最大の200万人に及んだ。このデモには秋田氏も参加していたのだが、暴動などは目撃せず、ゴミを片付けたり急病人を介護したりと香港市民は非常に理性的に行動していたことを述べている。

 このデモを受けてキャリー・ラム(林鄭月娥)行政長官は改正案の審議停止を発表したが、完全撤回は否定したためデモは以後も続くことになる。そんな中、7月の香港返還記念日デモで「勇武派」と呼ばれる実力行使も厭わないグループが、建物に対して破壊活動を行なってしまった。この行動を香港政府は非難し、中国のマスコミも一斉に非難報道を流し始めたのだ。一説には香港政府が勇武派の破壊活動を誘ったともいわれるが、この事件を境に、香港デモは一層の過激さをはらむことになる。

 秋田氏の住居の近くにある元朗駅もデモと無関係ではいられなかった。駅は封鎖され、秋田氏や彼の友人たちは急いで避難することに。氏も催涙弾に苦しさを覚える体験を味わうなど、まさに街は戦場さながらであったという。この後もデモ隊と警察の衝突は続き、ついには警官が拳銃を発砲して高校生が重傷を負うという事件も起こった。秋田氏の友人も連絡がつかない状態になったという。キャリー・ラム行政長官はすでに改正案の完全撤廃を発表していたが、もはやそれだけで事態が収まることはなかった。デモ隊は普通選挙の実現など「五大要求」を掲げてデモを継続。それに対し、香港政府も強硬にデモを鎮圧するという状況が続く。

 そんな中、11月24日に区議会議員選挙が実施され、民主派が388議席を獲得。親中派である建制派は62議席と大敗した。香港市民は一国二制度により保障された民主主義を守りたいという民意を示したが、香港政府は五大要求に対して何の回答も示していない。

 これが「香港デモ」の簡単な推移であるが、事態は決着したわけではない。もちろん新型コロナウイルスのことも重要だが、香港の現状に対しても、どのようになっているか知りたいと私などは思うのである。

文=木谷誠