読書好きのヤンキーたちが大暴れ? 異色の読書マンガ『どくヤン』が面白すぎる件

マンガ

公開日:2020/3/9

『どくヤン』(左近洋一郎:原作、カミムラ晋作:漫画/講談社)

 本は真面目な人が読む難しいものという先入観を、読書好きなヤンキーが破壊する。そんな異色のヤンキーマンガが登場した。

 舞台は私立毘武輪鳳(ビブリオ)高校、通称ビブ高。教育理念は「読書上等」、授業科目はすべて読書。本を読めば誰でも在籍が許される。

 生徒はヤンキーばかりだが、全員の手元に本がある。それぞれ好きな本のジャンルによって、「SF小説ヤンキー」「探偵小説ヤンキー」「官能小説ヤンキー」と自称している。けんかの理由はいつも本。時には人情味あふれる姿を見せる。

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『ドクヤン』は、これまでにない読書体験をさせてくれるギャグマンガである。

 主人公は授業料が無料だと聞き、何も知らずにビブ高に入った少年、野辺雷蔵(のべ・らいぞう)だ。

 おとなしい彼こそ読書好きに見えるが、実は本に興味がない。『ドクヤン』は彼目線の物語なので、読書が苦手な人でもスムーズに読み進められる。

 ビブ高ではカツアゲされるのは本で「ブッカツ(ブックカツアゲ)」と呼ばれる。転入早々野辺はブッカツに遭い、「私小説ヤンキー」獅翔雪太(ししょう・せつた)に助けられる。病に倒れることの多い私小説作家の生き方に傾倒しすぎて、病弱になった男だ。

 野辺はヤンキーでも読書好きでもなく、ツッコミ役になることを余儀なくされる。

 ビブ高の授業風景は、野辺と共に読み手である私たちも圧倒される。ヤンキーが純文学の名作を暗唱したり、組体操しながら読書したりするのだ。異様な姿なのに見入ってしまう。

 また、ビブ高では本を愛しながらも授業についていけず、袋に本を入れてそのインクや紙の匂いを嗅ぐ「本パン(本アンパン)」行為に及ぶ生徒もいる。他のドクヤンたちは彼らを「最底辺」と呼んで哀れんでいる。

 それを聞いた直後、野辺は心の中でつっこむ。

“ていうか この学校自体が最底辺なんじゃ”

 この言葉は、ビブ高の世界観を受け入れ始めていた私たちを我に返らせてくれる。同時にドクヤンの読書に対する一途な愛情に、笑いと愛しさがこみあげてくる。

 一つひとつの話が終わるごとに、作中で登場した本の詳細がショートエッセイと共に掲載されている。『ドクヤン』を通じて、読者はこれまで知らなかった作家や本と出会うこともできるだろう。

 本を読む人が増える可能性を秘めたマンガ『ドクヤン』。若者が本を読まなくなったと言われている今の時代すら、超越していくかもしれない。

 ちなみに、第1巻ラストでは、ある人気ジャンルのドクヤンが登場する。

 今後、彼らと私小説ヤンキーたちとの間で抗争が始まりそうだ。予測不能な事態が第2巻でも待ち受けていることだろう。

文=若林理央