「結婚しない」「結婚できない」独身中年男たちがハマる“ひとりぼっち沼”の現実
公開日:2020/2/25
現在、日本の男性の生涯未婚率は23%を超えている。男性のおよそ4人に1人は、一生結婚しないということだ。「厚生労働白書」によれば、男性の生涯未婚率は2030年には27.6%、2035年には29%になると予想されている。つまり、近い将来、男性の3人に1人は結婚をせずに生涯を終えるのが当たり前になる。当然、そうなれば独身高齢男性の孤独死や介護問題などは、いまよりさらに深刻になるだろう。
なぜ、男たちは結婚しないのか、あるいはできないのかという問題を、豊富なデータと当事者たちへの深掘りしたインタビューの両面から解き明かそうとしているのが『未婚中年ひとりぼっち社会』(能勢桂介、小倉敏彦/イースト・プレス)である。
著者の能勢氏は移民研究、地域社会学などを専門とする社会学者、小倉氏は近代日本の恋愛文化と男性文化を研究している社会学者だ。そして、彼らが取材対象とした既婚・未婚の男性たちは、おもに60年~80年生まれの中堅大学卒業者で、著者たちと世代的にも環境的にも共有しているものが多いため、自然とインタビューは赤裸々なものとなっている。
「結婚できない」「結婚しない」それぞれの理由
男性が「結婚しない/できない理由」は、社会の変化による面と、個人の内面の問題との両側面がある。社会の変化のほうは、終身雇用制度の崩壊による収入の不安定さ、正規・非正規の格差が大きい。そして、社会構造がこのように変化したにもかかわらず、「結婚は一人前になって経済力がついてから」と考える男性はいまだに多く、その結果、女性に対して引っ込み思案になってしまう。
さらに、結婚がコミュニケーション能力の優劣で決まる自由競争になったことも大きい。昔から女性と話すのが苦手という男性は一定数いた。しかし、そのような男性でも、昔なら親族や会社の上司、近所の世話焼きおばさんなどがお見合いをセッティングしてくれ、なんとなく結婚できていたのである。
だが、社会の変質により、そういった風習が激減したため、女性とのコミュニケーションが苦手な男性も自力で結婚相手を探さなければならなくなってしまった。加えて、見合いよりも恋愛結婚を上位に見る風潮に多くの男性自身が囚われていることで、女性とのやり取りが苦手な男性でも見合い話に二の足を踏むことが少なくない。
いっぽう、女性とのコミュニケーションが苦手でなく、しかも大手企業の正社員など社会的ステイタスも高く、収入が安定していても「結婚しない男」たちがいる。彼らは付き合う女性に不自由しているわけではないため、結婚相手にはつねに高い理想を求めている。それゆえ、なかなか結婚しない。そして、そうやって「自由」を満喫しているうちに、いつしか男性としての賞味期限が切れてしまい、結婚したくてもできなくなってしまうという…。
いつまでも結婚できないのは「過去の幻想」に囚われた男
では、どうすれば男性たちの結婚は増加するのだろうか? 本書では、社会が事実婚など多様な結婚の形を認めるようになり、少しでも結婚の障壁を減らすとともに、男性個人としては「結婚は一人前になってから」「恋愛結婚至上主義」「理想の女性」などといったさまざまな「過去の幻想」を捨てることから始めるしかないとしている。
本書に登場する、40歳で結婚にこぎつけたという男性のひとりは、水商売の女性に手痛い幻滅を味わい、また婚活サイトでふられまくった結果、異性と自分に関する期待値が下がり現実を味わったことで、結婚できたという。ある種の諦観と割り切りが、結婚に結びついたのだ。あるいは、これは本書では数少ない女性の事例だが、彼女は「生理的に嫌いでない」ことを最低条件にしたことで、結婚できたと語っている。
だが、行政と民間の婚活サービスの相談員がともに、「男は若くてきれいな女を、女は年収のあるステイタスのある男を選ぶ」と全体的傾向について口をそろえて言っている以上、「旧来の結婚観」を捨てるのは容易ではないのだろう。そして、結婚はけっしてバラ色のゴールではなく、長く厳しい「異文化コミュニケーション」の始まりでもある。
それでも本書は、結婚したくてもできない男性が自己を客観的に見つめようと思うときに多くの示唆を与えてくれることは確かだ。結婚したいと考えている女性にとっても、男性を理解するうえでの多くのヒントが秘められている。
最後になるが、本書における「結婚」とは、いわゆる法律上の婚姻のことだけではなく、男女の「持続的な親密性」のことである。人生において、それが非常に大切であることは間違いない。
文=奈落一騎/バーネット