たった10秒で新人が成長する! ソフトバンク2万人の社員教育に関わったプロが明かす新人教育術
公開日:2020/3/5
2020年も春になった。会社の将来を担う期待の新人社員がやってくる。彼らにみっちり社員教育を行うべく先輩や上司が意欲に燃えている…というのは、一昔前の光景だろうか。
ちょっと前の日本企業は、新人をたっぷりと時間をかけて育てた。しかし短時間で結果を出さなくてはいけない今では、「プレイングマネージャー」として新人を育てながら自分の結果を出さなくてはいけない。
そのため先輩や上司は新人に「教える時間はかけられないけど、早く一人前になってほしい」というムチャに近い願望を持っている。現実はなかなか新人が育たず、互いに軋轢を生んでいる現状がありそうだ。
そこでぜひ新人教育の参考にしてほしいのが、『10秒で新人を伸ばす質問術』(島村公俊/東洋経済新報社)だ。著者は、ソフトバンクで「新人育成のプロ」として2万人以上の社員教育に関わってきた島村公俊さん。
本書では、「10秒で新人を伸ばす質問術」をはじめ、最速で新人を一人前にする驚異的メソッドを紹介している。
■「10秒で新人を伸ばす」アプローチ
島村さんによると、ソフトバンクには「初動の速さを求める」社風があるようだ。企画書の作成やアポイントメントの連絡など、できることは即座に動く。できていなければ、先輩や上司からすぐ行動するようつつかれる。ソフトバンクが世界的な企業になるべくしてなった理由が本書に垣間見える。
そのため島村さんは苛烈ともいえる仕事量を抱えていた。自分の仕事をさばきながら、新人の育成もしなくてはいけない。そこで導き出したのが、「10秒で新人を伸ばす」というアプローチだ。
たとえば新人と一緒に取引先の営業に向かうシチュエーション。お客様のオフィスに着いてロビーで担当者を待っている、その短い空き時間で、新人に質問してみよう。
今日の商談のゴールはどこに置いているのかな?
この質問にかかる所要時間は、せいぜい3秒ほど。
えっと、今日のゴールは、お客様のご要望を明確に引き出すことです。
新人が答えを導き出す時間はまちまちだが、たいていは数十秒もかからないだろう。もし答えが間違っていたり、そもそも出せなかったりする場合は、「今日のゴールは○○にしておくといいよ」と伝えよう。そして、また得意先の営業に向かうシチュエーションがあれば、同じ質問を投げかけるのだ。次は数秒で正しく答えられるかもしれない。
■新人に自分で考える訓練をさせる
「10秒で新人を伸ばす質問術」の本質は、「新人に自分で考える訓練をさせる」ことだ。島村さんによると、たいていの上司は、指示命令は得意だが、質問は苦手だそうだ。業務の指示命令を繰り返していると、新人は自分で考える機会に恵まれず、仕事に受動的な社員として育ってしまう。大量の業務を抱える上司は指示命令したほうがラクだが、ここは粘り強く社員と向き合おう。
新人を一人前にさせる方法のひとつは、自分で考えるきっかけを作ってあげること。精度の高い質問を投げてあげるのだ。
「営業の調子はどう?」とあいまいな質問をするより、「新規営業先のアポイントメント獲得率はどれくらい?」と聞いたほうが具体的で、新人の現状を探る会話に発展しやすい。
「どうして新規契約ができないんだ!」と感情的に怒るより、「いつもどこで商談につまずいているのかな?」と理由を聞いたほうが、新人も自分で問題点を探ることができる。
精度の高い質問を投げることができれば、わずか10秒で新人は一人前に育っていくのだ。
■新人には強制的に質問させる
本書では「10秒で新人を伸ばす質問術」をたっぷりと解説しているが、本稿では別の新人教育術も取り上げたい。
新人に仕事を教えるとき、先輩や上司は丁寧で分かりやすく指導しているつもりだが、ときには伝わらないこともある。教える側と教えられる側の“認識のズレ”をなくすには、新人側から質問してもらうことが一番だ。そこで島村さんオススメのアプローチが、「強制的に質問させる」こと。依頼したい仕事を教えた後、新人にこう聞いてみよう。
「確認したいことを最低3つ言ってもらえるかな?」
入社して間もない新人ほど、想像以上に先輩や上司に委縮している。分からないところがあるのに、「分かりません」の一言が言えなくて、仕事を効率的に進められず悶々とすることがありがちだ。
そこで先輩や上司から強制的に質問を促すことで、新人に仕事の理解を深めさせよう。また素っとん狂な質問を3つ聞いてくる場合もあるので、新人の仕事の素質を確認する意味合いもあるかもしれない。
本書では、ソフトバンクで2万人以上の社員教育に関わってきた「新人育成のプロ」島村さんによる、最速で新人を一人前にする驚異的メソッドを紹介している。
個人的な印象としては、新人指導を初めて行う「先輩・上司デビューした人のための1冊」でもあると感じた。この本を読めば、新人教育のイロハがしっかり理解できる。
私たちにとって会社は、人生の大半を過ごす大事な場所。好きになることは難しくても、快適に過ごすための工夫はできる。本書がそれを築くための最適なメソッドとして機能してくれるだろう。
文=いのうえゆきひろ