死にゆく場所じゃなく、ともに生きたい。日本で遅れる「こどもホスピス」の現在
公開日:2020/2/29
「ホスピス」と聞いてどんなことを思い浮かべるだろう? 終末期医療を行う施設、末期がん患者が最期に過ごす場所といった、「死」をイメージする言葉だろうか。
では「こどものためのホスピス」と聞いたらどうだろう? そもそもその存在を知らない、イメージすらできない人も多いかもしれない。
「こどもホスピス」とは、生命を脅かされた子どもとその家族のための施設。そこは決して命をあきらめる場所ではなく、「病児の遊びや学び、発達を支援する専門施設」だという。『こどもホスピス 限りある小さな命が輝く場所』(田川尚登/新泉社)は、その必要性をさまざまな視点から訴える1冊だ。
著者の現在の肩書はNPO法人横浜こどもホスピスプロジェクト代表理事。かつてはまったく関連のない仕事をしていたが、次女のはるかさんを6歳で亡くしたことが、人生を大きく変えた。元気に幼稚園に通っていたはるかさんを襲ったのは、脳腫瘍。医師からは「手術で摘出できず、有効な治療法はない。余命半年…」と告知される。その突然の宣告からはるかさんが息を引きとるまでは、たった5カ月だった。本書には当時の状況や家族の心の内が綴られており、不安や苦悩、葛藤など、複雑でやりきれない思いがひしひしと伝わってくると同時に、サポート体制の不足にも気づかされる。
愛娘を亡くした後、同じように苦しむ子どもたちや家族の支援をしたいという思いが生まれた著者は、NPO法人を立ち上げる。治療が困難な病気や障害と闘う多くの子どもと家族に寄り添い、院内コンサートを企画したり、患者家族のための宿泊施設を作ったりするなど、さまざまな活動を続けてきた。その後、新たなNPO法人を立ち上げて、現在はこどもホスピスの設立準備を進めている。
医療の進歩で乳児死亡率は非常に低くなった日本だが、治療や医療的ケアを必要とする子どもは増えているという。にもかかわらず、成人緩和医療は最高水準レベルであるのに、小児緩和ケア医療は世界からまだ大きく遅れているのが現実だそう。
著者は、子どもの病気や医療の現状、また、子どもの病気と闘ってきた家族たちの実話、海外のこどもホスピス事情などを紹介しながら、日本でなぜ、こどもホスピスや小児緩和ケアが必要なのかを説いている。
健康な子も、病気の子も、一人ひとりが「子どもらしく」生きていいはずです。
子どもは楽しく遊びたいし、成長したいし、学校に行きたいし、家族や友達と楽しい時間を過ごしたいのです。
病気だからといってその機会が奪われていいはずがない。
はるかさんをはじめ、本書で紹介されている子どもたちの写真を見ると、この言葉の意味は自然とわかるだろう。
一見難しいテーマについて論じる本書だが、家族に関わる身近な問題なので、詳しい知識のない読み手にも理解しやすく、すっと心に響く。もう一息のところまで進んでいるという「こどもホスピス」の設立によって、ひとりでも多くの子ども、家族が救われることを願いたい。
同じような悩みを抱える人や医療関係者でなくとも、自分の住む国でこういう現実があるということを知り、考えさせられる1冊だ。
文=水元 詩