体調が悪い? それならカレーを食べればいいじゃない。食べなれたカレーの知られざる側面

暮らし

公開日:2020/3/1

『カレーの世界史』(井上岳久/SBクリエイティブ)

 ターメリック、クミン、コリアンダー、トウガラシ、コショウなど、数十種類にも及ぶスパイスから作りだされるインド発祥の料理・カレー。カレーがメニューに並べば給食で子どもが喜び、街を歩けばカレー専門店が至るところで営業している。まさにカレーは日本の国民食と言っても過言ではない。
 
 日本人が愛して止まないカレー。しかし、私が知っているカレーの“知識”といえば、「インド生まれの料理」「辛い」「家のカレーは2日目が美味しい」くらいしかない。そう、私たちはカレーについてあまりにも知らないのではないだろうか。
 
「もっとカレーを知ろうぜ!」――そんなカレー愛あふれる1冊が、『カレーの世界史』(井上岳久/SBクリエイティブ)。カレーのコンサルティングなどを行う「カレー総合研究所」の代表取締役を務める井上岳久氏が、満を持して著した本書。カレーの歴史や世界各国のカレー、日本人とカレーの関係など、まさにカレー尽くし。本稿ではその一端を紹介したい。

カレーは薬になる!?

 カレーの味の決め手となる“スパイス”。このスパイスの多くは、日本で古くから漢方薬として扱われてきたものが多いという。例えば、ターメリックは風邪薬や止血薬、クミンは下痢止め、コリアンダーは胃薬、コショウは食欲増進と冷え性対策に効くなど。カレーは美味しいだけでなく、薬にもなるということだ。

 実際にインドでは「アーユルヴェーダ」という古典医学があり、症状によって摂るべきスパイスが学問として広まっているという。「胃の調子が悪いときは、このスパイスを使おう」「頭痛のときは、このスパイス」…と、さまざまなスパイスを調合して日々それを食す。このスパイスの調合が各家庭で行われているというから驚きだ。日本でいえば「風邪のときはネギを食べる」のようなおばあちゃんの知恵袋のようなものだろうか。

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カレーが世界に広まったのは植民地支配がきっかけ!?

 インドの郷土料理であるカレーが世界に広まったのは、奇しくもイギリスによる植民地支配がきっかけだという。細かな経緯は省くが、イギリスがインドに進出した際、現地で暮らしたイギリス人がスパイシーなカレーを気に入り、スパイスを調合したカレー粉を開発して持ち帰ると、国内で人気を博したのだとか。

 さらにイギリスは、他のイギリスの植民地にも労働力としてインド人を送り込んだ。そこで定住したインド人たちは母国の料理であるカレーを広め、世界中に広まったと考えられている。そこで生まれたのは本来のインドカレーと異なる特徴をもつ、タイカレーやスリランカカレーなど。このような歴史を知ったうえで世界各国のカレー料理を食べ比べてみると、また違った発見がありそうだ。

カレー日本初上陸の地はオシャレなあの場所?

 文明開化の風潮が高まり多種多様な洋風文化がもたらされた明治時代。その時期に日本にカレーが伝わったと考えられている。カレーが初上陸した地には諸説ある。神戸、横須賀、北海道、そして最有力とされているのが横浜だ。

 いずれも幕末に締結された条約によって開港された土地だ。多くの外国人や外国製品などと共に、カレーも伝来したようだ。その中でも横浜が最有力とされている理由は、ビールやアイスクリーム、食パンなど、多くの西洋料理や文化が横浜から全国に発信されたから。これらと同じようにカレーも横浜から広まったのかもしれない。

 横浜に訪れた際には、中華料理もいいが、カレーを食べて文明開化の時代に思いを馳せてみてもいいだろう。

 本書では、このほか東南アジアやアフリカで食べられているカレーの特徴などについても詳しく紹介されている。気になるカレーを見つけたら、その専門店を探して食べてみるのも楽しいだろう。カレー好きはもちろんのこと、「カレー? 別に…」と思っていたアナタもぜひ本書を手に取ってみてほしい。食べなれたはずのカレーの知られざる側面にきっと驚くはずだ。

文=冴島友貴