「私は人じゃない…?」事故で家族を失った少女と陰陽師の少年の運命が交錯して――高橋留美子『MAO』

マンガ

公開日:2020/3/8

『MAO』(高橋留美子/小学館)

「私は死んだ事がある」。謎の事故で両親を亡くした少女が、運命に立ち向かう物語が高橋留美子氏の最新作『MAO』(小学館)だ。

 本作は『うる星やつら』や『らんま1/2』などのコメディ路線とは異なる、シリアスな怪奇もので、高橋氏の得意ジャンルのひとつである。

 高橋氏の怪奇ものといえば、アニメ化もされた「人魚」シリーズ。そして先日放送された「全るーみっくアニメ大投票」というTV番組で、作品とキャラクター部門で共に1位に輝いた『犬夜叉』が頭に浮かぶ。

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『MAO』はシリアスな高橋作品を好む方におすすめだし、さらに非常に多くの謎や巧みな伏線により、純粋なミステリーとしても楽しめるはずだ。

 ここでは2019年に発売された1巻、2巻を中心にレビューしていく。

「私は人じゃない…?」現代と100年前の世界を行き来する少女の運命とは

 主人公の黄葉菜花(きば なのか)は中学3年生。7歳だった8年前の9月1日正午頃、謎の陥没事故に巻き込まれて両親を亡くしていた。自身は血だらけで息が止まった状態で発見され、のちに祖父に引き取られて、不思議な雰囲気の家政婦・魚住と共に暮らしていた。

 菜花は運動音痴なくらいで、とりたてて何事もなく平穏に生活していたが、ある日、彼女がその事故現場を通りかかったところ、現代とは思えないレトロな街に迷い込んだ。そこで突如現れた妖(あやかし)に襲われる。危機一髪、菜花は偶然自分の血を浴びせて妖を撃退する。

 その時に出会ったのが陰陽師の少年、摩緒(まお)。顔に大きな傷をもち、長刀をふるう彼は、その身に受けた呪いの元凶である妖を探していた。そして摩緒は菜花にこう言いはなつ。「おまえ妖だろう」。

 わけもわからず元の世界に戻った菜花は、けがが傷ひとつなく治っていることに気づく。さらに人間離れした運動能力を発揮するようになるなど、体に変調をきたしていた。

 気になって再び事故現場に行ってみた菜花は、またあのレトロな街にたどりつく。そこは実は“大正12年の東京”だった。

 菜花は、自分が妖なのかどうか、陥没事故の謎、今までのあいまいな記憶、これらの謎を解きたいと決意。菜花は現代と過去を行き来し、摩緒と行動を共にするようになる。

 やがて摩緒の呪いと菜花の謎が一点で結びつき、単行本2巻のラストで運命の時がやってくる…。

およそ千年の時を超えて出会ったふたりが宿命に立ち向かう

 高橋留美子作品といえば魅力的なキャラクター。ここではメインのふたりを簡単に紹介する。

 菜花は事故当時の記憶を失っており、悲しい過去をもつものの基本的には明るい性格。友達も多く、男子にも好意をよせられている。傷つく摩緒を優しく気遣うことができ、妖と戦う勇気もあり、運命と謎に立ち向かっていく。高橋氏の描くヒロインらしい強い少女である。

 クールというと聞こえはいいが、傲岸不遜な態度で菜花をイラつかせることもある摩緒。菜花の秘密がおよそ100年前の大正12年にあるとすれば、摩緒の運命が変わったのは大正時代からさかのぼること900年前のことである。

 呪いによりほぼ不老不死となった摩緒は、その元凶である妖を追い求めて生きてきた。ただ摩緒は自分がなぜ呪われたのかを知らず、900年前に起きた全てを思い出すこともできないでいる。

 また、ふたりを助けるのが摩緒の式神、乙弥(おとや)。彼もまた高橋氏の作品にはかかせない、かわいいマスコット的なキャラクターだ。ハードな雰囲気のなかで、一服の清涼剤的な存在になっている。

 お互い一度は死にかけたふたりが時を超えて出会い、共闘していく。2巻まではほぼ彼らだけのストーリーだったが、これから摩緒の過去にかかわる新キャラクターたちも登場してくる。物語は一気に、大きく動き出すのだ(ちなみにコメディ要素も増えてくる)。もちろん伏線も回収され、謎が次々と明らかになっていく。

 高橋氏のファンに高い支持を受ける『犬夜叉』との近似性もあり、今後の展開も大いに期待できる。ただ本稿のライターがここまで読んで、作りこまれた設定や世界観は『犬夜叉』以上のスケールだと感じた。高橋氏が描いてきた数々の名作と、肩を並べる作品になる予感も大アリなのだ。

 単行本は2020年1月に3巻が発売されたところ。ぜひ最新の“るーみっくわーるど”を楽しんでみてほしい。

文=古林恭