ブラック企業を卒業した“プロ社畜”は、どんな人生を歩み始めたのか。会社員でぶどりの物語は、ますます濃い展開に

マンガ

公開日:2020/3/13

『会社員でぶどり3』(橋本ナオキ/産業編集センター)

 まん丸のフォルムでかわいらしいニワトリの〈でぶどり〉と、その後輩であるヒヨコの〈ひよ〉。この2羽を主人公に描かれるマンガが『会社員でぶどり』(橋本ナオキ/産業編集センター)だ。

 しかし、愛らしいタッチのイラストと相反して、そこで描かれているのは現代を風刺するような物語。なにを隠そう、この〈でぶどり〉は自他ともに認める“プロ社畜”なのである。休日出勤やサービス残業は当たり前、パワハラやセクハラも横行するブラック企業で働いている。本作はそんな「会社員あるある」をモチーフにしており、ときには身に覚えがありすぎるような発言も飛び交う。実際、本作に共感する人は続出しており、橋本さんがマンガを投稿しているInstagramのフォロワー数は33万人、Twitterのフォロワー数は21万人を記録。毎回、読者からの熱いコメントが寄せられている。

 第1巻では〈でぶどり〉の社畜っぷりと、そんな風潮に物申す〈ひよ〉の姿が描かれた。読者は〈でぶどり〉に共感しつつ、まるでぼくらの心の声を代弁してくれているかのような〈ひよ〉に爽快感すら覚えただろう。結果、第1巻のラストで、〈でぶどり〉は見事ブラック企業を退職することになる。

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 続く第2巻では〈でぶどり〉の転職活動と、再就職先での出会いが描かれた。しかも、そこは先に転職した〈ひよ〉が勤める会社。気のいい先輩も多く、〈でぶどり〉は社畜からの脱却を目指すのである。

 そしてついに発売された第3巻。本巻では〈でぶどり〉の周囲にいる鳥たちのキャラクター性が深掘りされており、より物語としての読み応えを増す仕上がりになっている。後輩と仲良くしたいのに、なかなか声をかけられない〈ジャック〉、やる気に満ち溢れているインターン生の〈ビル〉、社員のことを常に気にかけている〈ズメ社長〉…。いずれも濃いキャラクターばかりで、「会社員あるあるマンガ」としてスタートした本作が、いつの間にかドラマに彩られた作品へと進化していることが感じられるだろう。

 また、鳥たちによる「物事の本質」を鋭く突くようなひと言も満載だ。

 どの発言も「なるほど、たしかに…」と唸らされるものばかり。ただし、どれも説教臭くなっていないのは、やはり鳥たちがみなかわいらしく描かれているから。ゆるふわな表情で、ズバッと本質へと切り込む。そのギャップのおもしろさこそが、本作がこんなにも支持されている理由なのだ。

 プロ社畜としてスタートした〈でぶどり〉の物語。ブラック企業を卒業し、自分の人生をちゃんと歩み始めた彼の姿を追いかけてもらいたい。

文=五十嵐 大