顔をスタンプで隠せば大丈夫…じゃない!「いいね!」だけで個人特定は可能/『あなたのスマホがとにかく危ない』⑤
公開日:2020/3/21
スマホ・SNSの犯罪はどんどん巧妙になり、デジタルに不慣れな人であっても無知ではいられない時代となりました。ではどうすればよいのか――。元埼玉県警捜査一課 デジタル捜査班班長が、スマホ・SNS、デジタル犯罪から身を守る方法をお伝えします。
情報を隠したつもり……でも危険はまだある
つい先頃、アイドル活動をしている女性を襲って逮捕された男が、SNSに投稿された自撮り写真の瞳に映った景色を手がかりに女性の住所を特定していたことがわかり世間に衝撃が走りました。
最近のスマホはカメラの性能がものすごくいいですから、驚くほど高解像度で写ります。動画を撮影した場合も、たとえば隅に一瞬写った電信柱やマンホールなどから住所を特定されてしまうこともあるわけです。
自撮りでよくやるピースサインも写った指の指紋を画像処理し、凹凸を再現すれば、偽の指紋を作ることが技術的には可能であると、新聞でも報道されています(『東京新聞』2019年10月10日朝刊「特報面」)。
SNSを安心して利用するには、自分のみならず家族まで含めて、プライベートな情報はみだりに発信しないことです。
「本人とわからないように顔をスタンプで隠せば大丈夫なのでは?」
そう言う人もいますが、答えは「NO!」。
悪意を持った人は、わずかな痕跡からでも対象者のプライバシーに近づく情報がないかとくまなく探っています。いくらスタンプで顔を隠していても、自分が気づかないだけで、鏡や窓、磨き上げられたテーブルから鍋料理の水面に至るまで、さまざまな情報が反射したり写り込んだりしている可能性はあるわけです。
ですから、リスク回避のために最低限、
①画質やサイズを落とす
②背景にぼかしを入れる
などの安全対策を行ない、たとえ個人の特定につながるような情報が写っていたとしても読み取れないようにするのが大事なポイントです。
「いいね!」までチェックされていると思ったほうがいい
特に学生のSNS投稿について、さらに一つ付け加えておきたいことがあります。それが「いいね!」に潜んでいる危険性についてです。
たとえば、かわいい女の子を探しているような男が、ある女子高生の写真をInstagramで見つけてかわいいと思ったとします。その子はアカウントに鍵をかけておらず、アップされている写真は自由に見られます。
しばらくすると、男はただ写真を見るだけでは飽き足らず、どんな子でどこに住んでいる子なのかなど、プロフィール欄を見始めました。
しかし、多くの人に見てほしいものの、用心深さも併せ持っていたその女の子のプロフィールには、傍から見て何かがわかるような書き方はしていません。
投稿されている写真も、制服や学校の写真はなく、私服のプリクラ写真のみ。
その子発信で個人を特定していけるような情報はありませんでした。
ところが、男はまだあきらめません。
女の子がアップした写真には「いいね!」がたくさんついていました。その「いいね!」をした一人ひとりのページに飛んではプロフィールを確認し始めたのです。
次第に制服や学校指定のジャージ写真をアップしている子、学校の略称を投稿文に入れている子などが複数見つかり、その子に「いいね!」をした人の多くが同じ高校の生徒であることがわかりました。ここで男は、対象の女の子の高校を把握します。
そのうえ、その友達の多くは投稿に「#sjk」と入れていました。ネットで検索をすればすぐわかりますが、「s」はセカンドを表わし、高校2年の女子高生を意味します。これで学年まで判明します。
続けて、男はもっとヒントはないかと対象の女の子のページに戻り、過去の写真を遡っていくと、友達からの「まなみはほんといつもかわいい♥」というコメントを見つけました。これで下の名前までわかりました。
――いかがでしょうか。自分ではコントロールしきれないことであるのはもちろんですが、自分自身が個人情報の流出を気にかけていても、周りの友人知人のセキュリティが甘ければ、ある程度の情報は部外者でもつかめてしまいます。
特に「いいね!」をする人の層が単一なものになりやすく、学校の場所と自宅の場所がそれほど離れていない中高生は、どうしても特定しやすい。
だからこそ、これまでも繰り返していますが、まずはアカウントに鍵をかけて非公開にしていただきたい。そうすれば、男がその女の子の投稿を見ることはできず、「いいね!」から友達のページにたどりつくこともなかったのです。
また、SNSには若者の間だけで通じるような隠語がハッシュタグを付けて多く使われていますが、中には先ほどの「#sjk」のように検索をすればすぐわかり、結果的に個人情報を公開しているのと変わらないものも見られます。
自分たちだけの共通語のつもりが、悪意ある人間へのおいしい情報提供になっている可能性がある――その点も親は子どもに教えてあげてほしいと思います。