「子どもがいない」という罪悪感は昭和の価値観で育った呪縛/『誰も教えてくれなかった子どものいない女性の生き方』①

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更新日:2020/3/22

知人の子どもの写真入り年賀状を見て嫌な気持ちになるのは私だけ? 子どもをあきらめた先にはどんな未来があるの? 多様性の理念が浸透しつつある社会で、理想の家族像は旧態依然としている現代。子どものいない女性300人以上に話を聞いた『誰も教えてくれなかった子どものいない女性の生き方』(くどうみやこ/主婦の友社)から、全6回のエピソードをご紹介します。

『誰も教えてくれなかった子どものいない女性の生き方』(くどうみやこ/主婦の友社)

昭和の価値観で育った私たちの呪縛

 現在40代以上のかたの多くは、結婚して子どもを持つことは、誰もが望めば実現できる普通の生き方だと思っていたのではないでしょうか。親たちも娘には、結婚して母親になり家庭を築くことを望み、それが娘の幸せだと願っていました。そのため一般的な適齢期が近づいてくると、誰かいい人はいないのか、子どもは早くつくったほうがいいんじゃないのと、本人より親のほうがそわそわし始める。当の本人はのんびり構えているうちに、いつの間にやら……といったパターンもあるでしょう。平成生まれの若い世代のかたは早くから婚活や妊活を意識していて、すごいなと感心するばかりです。

 自分たちが生まれた頃は、景気が悪くなかったため危機感がなく、なんとかなるさ精神で進んできたところがあります。とにかく、将来のライフプランなんて真剣に考えていなくて、目の前のことをただ一生懸命こなしているだけでした。そのため、昭和に生まれ、平成に社会に出て働き出した女性たちは、親世代とは違う女性の生き方が待ち受けていると、すぐには気づきませんでした。

 前著に掲載した「子どもがいない女性の意識調査」(平均年齢42・2歳)で「子どもを持たなかった理由」の1位は「タイミングを逃した」でしたが、意図して子どもを産まなかった人は少数派。あのときにあの選択をしていたら、私にも子どもがいたかもしれないと悔やんでも、40代半ばにもなれば産むことをあきらめざるをえない。昭和の価値観で育った女性は、理想と現実のギャップを感じているかたが多いようです。

「家族の形は、子どもがいて両親がいることが素晴らしいとずっと思い込んでいました。だから、他人から子どもがいたほうがいいと言われると、落ち込んで自分を責めてしまう。そうならなかったことにすごく嫌悪感を持っています」(44歳・既婚・会社員)

「結婚して子どものいる家庭に一番の幸せがあると信じていました。今は子どもがいなくても幸せな家庭は築けると思っていますが、どうしても子どもがいたらと考えてしまう自分がまだいます。親に孫を見せられなかったことも親不孝だと感じてしまいます」(45歳・既婚・会社員)

「私自身は子どもがいないことは事実として受け止めていますが、日本では私のような未婚で子どものいない40代の女性は、問題のある人間だと見られているような気がして肩身が狭いです」(47歳・独身・会社員)

「親になって一人前という言葉は、一般的に偏った、ともすれば差別的な考えだと頭ではわかりますが、自分が一番そう思っているので手に負えないです」(43歳・独身・会社員)

 結婚して子どもを持つのが普通だと言われ続けてきた昭和生まれの世代は、ずっとそのジレンマと闘いながらこれまで生きてきました。長年信じてきた価値観と現実のズレをうまく調整するのは難しい。なかにはいまだに呪縛から解放されず、思い悩み続けている人もいます。それは小さい頃から、子どもを持つことが大人になる条件として聞かされてきた影響があることは否めません。

少子化が進み女性たちは罪悪感を背負わされた

 昭和の家族像が更新されないまま少子化が加速したことで、シングルや子どものいない夫婦は、わがままで自分勝手、生産性がないと矢面に立たされる。人口減と労働力不足の深刻化で、女性は産んで働くことを国から推奨されるようになり、子どものいない女性は持たなくてもいい罪悪感を背負わされています。

「子どものいない女性の意識調査」で集計した「子どもがいないことで罪悪感を持ったことはあるか」の設問(上図参照)には、76%の人が「ある」と答えています。「ない」と答えた人は15%なので、大半のかたは子どもがいないことで何かしらの罪悪感を抱えていることになります。産めよ、育てよ、働けよと外的プレッシャーが強くなるほど、産む性を持った女性は男性以上に子どものことに対して過敏になってしまいます。「子どもがいないことで肩身が狭いと感じることはあるか」の設問には、81%の人が「ある」と回答。子どものいない女性たちの口からは、本当によく「肩身が狭い」との言葉が出ます。

 ダイバーシティや多様性は理念として社会に浸透しつつあるのに、現実にはまだ旧態依然とした家族像が根底にあり、そのギャップに生きづらさを感じてしまう。きっと世の中だけでなく、昭和の価値観で育った私たちの潜在意識にも残っているのでしょう。心は昭和、体は平成のように、2つの価値観をまたいで立っているのが、40代、50代のミドルエイジ層。時代のエアポケットに入ってしまい、想定していた人生の方向性とは違う道を歩むことになった女性は多いのではないでしょうか。

 時代と女性の生き方はリンクしていて、個々の力だけで抵抗するのは困難です。ですが、そろそろ社会も私たちも生き方の変容を受け入れるべき時期に入ったといえるでしょう。

<第2回に続く>