どうして声筋を鍛えると足腰が強くなるの? そのメカニズム、解説します/『声筋のすごい力』②
公開日:2020/3/23
最近、つまずくことが増えていませんか? 実はそれ、喉の筋肉=声筋の衰えが原因かもしれません。来たる人生100年時代、なるべく健康寿命を延ばすためには、声筋を鍛えることが大事です。誰でも簡単に始められる「声筋トレ」の方法をご紹介します!
のどと足腰の知られざる関係性
年齢を重ねてからも、できる範囲で筋力トレーニングを行い、健康増進に努めている人は多いもの。とはいえ、その意識の多くは足腰など「大きな筋肉を鍛えること」に向いているはずです。
確かに「のど」は非常に小さな部位ですし、それが筋肉でできているとご存じの方は少ないことでしょう。ましてや「声筋を鍛える必要がある」とお伝えしても、違和感ばかりが残る、という方が多数派かもしれません。
ですが、ここまで見てきた通り、のどを適度に鍛えていると、「踏ん張り力」が発揮され、つまずきや転倒の危険性をうんと減らすことができるのです。
ひとりで生活を営む力も衰えにくくなりますし、行動範囲を狭めることなく、人生の後半戦を楽しむことができるはずです。
「不安なく、安全に歩けること」は、それほど深く「生活の質」に影響してきます。何歳になっても「自分の足で歩けること」は、大事なことです。
もし歩行が難しくなったり、億劫になったりしてしまうと、外出の機会は減り、社会とのつながりも失ってしまいがちです。それでは人生の楽しみも、半減してしまうことでしょう。
近年、高齢者は健常な状態から要介護状態になるまでに、「フレイル」という中間的な段階を経ていると考えられるようになってきました。
「フレイル」とは英語の「frailty」をもとにした造語であり、従来の老年医学では「虚弱」などと訳されてきました。
具体的にいうと、加齢に伴って筋力が衰え、疲れやすくなったり、家に閉じこもりがちになったりなど、加齢で生じやすい衰えの全般を指した言葉です。
脳疾患などの大病や転倒などの事故により、健常な状態から突然、要介護状態に移行することもありますが、ほとんどの高齢者の場合、フレイルの時期を経て、徐々に要介護状態に陥ると考えられています。
また、詳しく見ると「フレイル」の中でもいくつかの段階に分かれています。
歩行が難しくなったり、億劫になったりすることで、外出の機会が減り、社会とのつながりが希薄になる「社会的フレイル」。
記憶力の低下や気分的なうつ状態にさいなまれる「精神的フレイル」。
「飲み込みにくい」「口が渇く」「むせやすい」「食べこぼす」など、口腔機能が衰える「オーラル(口)フレイル」。
そして筋肉の減少により活動量が低下する「身体的フレイル」……。
このような負のスパイラルを、東京大学高齢社会総合研究機構教授の飯島勝矢先生は「フレイル・ドミノ」と名付けています。
また、高齢者のみならず、若い世代の方も、予防の大切さを理解する必要があると、警鐘を鳴らし続けています。私もこの考え方には、賛成です。
「のどこそが、フレイル連鎖を予防する鍵ではないか」と、常日頃から感じています。
健康寿命を延ばし、フレイルの時期をなるべく先送りするためにも、現状を把握することは重要です。
まずは次ページに挙げたセルフチェックシートで、自己診断をしてみましょう。
思い当たる項目がひとつでもあったら、トレーニングやケアを始める時期だと受け止めてください。
声治療の現場では、専門的に発声やのど全体の状態を調べる検査を行い、のどを細かく診断します。ですから、そのような診断と比べるとこのリストは科学的根拠という点では足りないところがあるともいえます。
しかし、セルフチェックを行うことで、のどの働きや、のどの状態が健康や生活にどんな影響を与えるかを、一般的な感覚で理解していただきやすくなるはずです。
あなたの大切な人にも、セルフチェックをぜひすすめてあげてください。