「ポスト東野圭吾」! 医療ミステリーの旗手・知念実希人作品おすすめ11選&インタビューまとめ

文芸・カルチャー

公開日:2020/3/22

 今もっとも勢いのあるミステリー作家といえば、知念実希人をおいて他にいないだろう。その勢いは「ポスト東野圭吾」と称されるほど。累計発行部数100万部突破の『仮面病棟』は今年坂口健太郎主演で映画化。最新作『ムゲンのi』は「本屋大賞2020」にノミネートされ、『ひとつむぎの手』に続き、2年連続で本屋大賞ノミネートを果たした。知念実希人の魅力は、現役の医師として培った医療知識とミステリーを巧みに融合させたストーリー展開にある。ここでは知念実希人の作品のレビュー・インタビューをご紹介するとしよう。

【本屋大賞ノミネート】史上空前の読書体験! ユタの力を手に入れた女医の医療×ミステリー×ファンタジー『ムゲンのi』

『ムゲンのi』(知念実希人/双葉社)

 医療ミステリーとファンタジーの世界が融合した「新感覚」の物語が今大きな話題を集めている。それは、『ムゲンのi』(知念実希人/双葉社)。累計14万部突破。2020年本屋大賞にもノミネートされた作品だ。

 主人公は28歳の女医・識名愛衣。彼女が勤務する病院で、4人の患者が奇病を発症した。ひたすら眠り続ける特発性嗜眠症候群、通称「イレス」。ここ数年日本では発症例がない極めて稀な疾患が4人同時、しかも東京西部で局地的に発症したのだ。愛衣が担当する3人の患者には、発症前に心に傷を負い、人生に絶望していたという共通点があった。ユタとしての力を手にいれた愛衣は、患者を救うため、夢幻の世界に入り込み、彼らの魂を救うことになる。

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 現役医師としての医療知識とミステリーの世界に、ファンタジーが織り交ぜられたこの作品は、読む人を今まで味わったことのない読書体験へといざなう感動作だ。

眠り続ける患者、猟奇殺人、少年Xの正体──予測不能の結末が待つ夢幻のミステリー『ムゲンのi』知念実希人インタビュー

 上下巻、約700ページに及ぶ『ムゲンのi』は、いくつもの謎が連鎖し、驚きの結末に着地する大作ミステリー。これまで医療ミステリー、多層構造の連作ミステリー、ファンタジックなハートフルストーリー、ヒューマンドラマなど多岐にわたる小説を執筆してきた知念の集大成とも言える作品に仕上がっている。知念は語る。

「これまで培ってきたものをすべて注ぎ込んで執筆しました。今までの作品の数倍の労力をこの一冊に費やし、現時点でできる最高の作品を書いたつもりです。全身全霊を込めて最後までしっかり書き上げたので、達成感もひとしお。伏線を緻密に張りめぐらせ、ミステリーとしての驚きを大切にしていますが、ほかにはない世界観も楽しんでいただけたらうれしいです。ミステリーファンに限らず、多くの方に読んでいただきたいですね」

 読後に感じるのは、大きな愛。最後のページをめくる頃には、『ムゲンのi』というタイトルに込められた幾重もの意味にも気づくに違いない。

一気読み必死の医療サスペンス! 増刷が止まらない大ヒット小説『仮面病棟』とは?

『仮面病棟(実業之日本社文庫)』(知念実希人/実業之日本社)

 深夜の病院を舞台にした密室ミステリー『仮面病棟(実業之日本社文庫)』(知念実希人/実業之日本社)。謎が謎を呼ぶストーリー、息をつかせぬ怒涛の展開、最後に待ち受けるどんでん返し。そして、現役医師の著者だからこそ描ける精緻な描写が、読者の想像と緊張をかき立てる。読後感もよく、圧倒的なエンターテインメント作品だ。

 物語は、主人公の医師・速水秀悟が、身元不明の患者を収容する田所病院にアルバイトの宿直位として夜勤になったことから動き出す。突然、不気味なピエロの仮面をかぶったコンビニ強盗犯の男が病院へと押し入ってきたのだ。人質として連れてこられた女子大生・愛美は、脇腹を銃で撃たれているようだ。ピエロは病院に朝まで立てこもることを要求するだけでなく、なぜか秀悟に愛美を治療するよう指示するのだ。

 謎が謎を呼ぶ疑心暗鬼の密室空間で明らかになり始める、この病院に隠された驚くべき秘密とは…。物語中に散りばめられた謎がひとつの事実に集結するラストは、鳥肌なしでは読めないだろう。

とびきりキュートな童顔女医がキャラノベ界を席巻中!新感覚の医療ミステリーとは?

『天久鷹央の推理カルテ』(知念実希人/新潮文庫)

「天才女医」というと、何故かアダルトな魅力あふれるクールビューティを想像しがちだが、今、キャラノベ界を席巻しているのは、女子高生にしか見えないとびきりキュートな童顔女医だ。頭脳明晰。好奇心旺盛。他の医師が気付けない疾患をも見抜くずば抜けた診断力。知念実希人氏著の「天久鷹央の推理カルテ」シリーズ(新潮文庫)はそんな天才女医とその部下の成長を描いた新感覚の医療ミステリーだ。

 日本最高峰の頭脳を持つ天才女医の前に集まるのは「診断困難」とは名ばかりの、おかしな患者ばかり。シリーズ第1巻『天久鷹央の推理カルテ』(知念 実希人/新潮文庫)では、「河童に会った」と語る少年や「人魂を見た」と怯える看護師、「突然赤ちゃんを身籠った」と言い張る女子高生など、不可解な患者ばかりが現れる。医学とはまったく無関係のただの面倒な患者たちかと思いきや、摩訶不思議な“事件”には思いもよらぬ“病”が隠されていた……?愛らしい女医の鋭い視線に、あなたも射止められてしまうこと間違いない。

手術室という“密室”で殺人事件が発生! 天久鷹央シリーズは、不可能犯罪と人間ドラマが融合した唯一無二の医療ミステリー

『幻影の手術室  天久鷹央の事件カルテ』

 病気の診断は、推理に似ている。患者が訴える症状や検査結果をもとに、不調の原因を突き止め、病名を探り当てる。そんな“病院の名探偵”を主役にしたのが、知念実希人の「天久鷹央」シリーズだ。

 彼女の事件簿の中でも、特にインパクトが強いのが長編第2弾『幻影の手術室  天久鷹央の事件カルテ』。手術室という密室で起きた、“透明人間”による殺人事件の謎に鷹央が挑んでいくものだ。手術室には、全身麻酔で身動きできない患者と麻酔科医のふたりしかいなかった。だが、監視カメラに映し出されたのは、麻酔科医が「見えない誰か」と格闘した末、絶命するシーン。容疑をかけられた患者が知人だったことから、鷹央は事件解決へと乗り出すことになる。他人の気持ちを読むことが苦手な鷹央の変化にも是非とも注目してほしい。

 密室殺人に挑む本格医療ミステリーとして、ダイイングメッセージをめぐる人間ドラマとして、登場人物の成長を追うキャラクターものとして。一冊でいろいろな味を楽しめる、贅沢な作品。

医局内の争いの中、理想の医師を目指す… 現役医師が描く、究極のヒューマンドラマ

『ひとつむぎの手』(知念実希人/新潮社)

 医は仁術。医術は単なる技術ではなく、人を救う道であるべきはずだ。知念実希人による『ひとつむぎの手』は医局内の争いの中で、患者を救うために奮闘する医師の姿を描いた作品。残念ながら医師にとって正しい道を常に進み続けることは簡単なことではないのかもしれない。

 心臓外科の執刀医を志しながら、大学病院の過酷な勤務に耐えている平良祐介は医局の最高権力者・赤石教授から3人の研修医の指導を命じられた。赤石教授曰く、研修医の3人のうち2人以上を心臓外科に入局させたら、祐介が望んできた関連病院への出向を考えてくれるという。そんななか、医局内で赤石が論文データを捏造したと告発する怪文書が出回る。祐介は赤石教授からさらに「怪文書を流した犯人を探せ」と命じられるのだが…。

 現役医師だからこそありありと描かれる、医師としての日常と権力争い。怪文書をめぐるミステリー。誰よりも努力家でまっすぐな主人公があらゆるしがらみの中で自分の道を見出していく姿は何だか読者まで勇気づけられる、心あたたまる物語だ。

現代版「ブラック・ジャック」!? どんな手術も受ける天才美容外科医とワケあり患者

『リアルフェイス』(知念実希人/実業之日本社)

 美しくになるために、健康な身体にメスを入れることは間違っているのだろうか。『リアルフェイス』(実業之日本社)は天才美容外科医の周囲で巻き起こる事件を描き出した医療サスペンスミステリー。美容整形には批判がつきものだが、手術によって、患者が新しい人生をいきいきと生きられるのならば、それは悪いことではないのかもしれない。

 主人公は、麻酔科医・朝霧明日香。彼女は、恩師の紹介で、天才美容外科医・柊貴之のクリニックで働くことになる。金さえ積めばどんな手術でも引き受ける柊の姿に反発を覚えていた朝霧だが、次第に柊の行う手技の鮮やかさに惹き込まれていく。だが、柊のもとで働くのにも慣れてきたある日、彼女に1人のジャーナリストが声をかけてくる。なんでも、柊は、4年前に起きた整形美女連続殺人事件に関係しているようで…。

 物語にちりばめられた数々のピースが最後に1つの像を結んでいくのは、この小説だからこそ味わえる快感。あなたもこの新感覚の医療ミステリーをぜひ味わってみてほしい。

感涙必至の連作医療ミステリー! 2018年本屋大賞でも注目の知念実希人が、研修医の日常と患者の謎を描く

『祈りのカルテ』(知念実希人/KADOKAWA)

 世の中には気が遠くなるほど多くの病があるが、医者は目の前の患者一人ひとりと向き合い、それぞれへの適切な治療を選択せねばならない。知念実希人による『祈りのカルテ』(KADOKAWA)は、新米医師が患者の抱える問題を解き明かす連作医療ミステリー。人の心に寄り添うのを得意とする新米医師とおかしな患者たちの交流、そして、その謎解き明かしに、読者は爽快感を覚えるにちがいない。

 主人公は、研修医・諏訪野良太。2年間の初期臨床研修を受ける良太は、2カ月ごとに、内科、外科、小児科など、様々な科を回って、医師としての基礎力を身につけようとしていた。そして、あらゆる科で様々な患者たちと関わりながら、どの科を自分の専門とすべきなのか悩む日々を過ごしていた。

 医者はこんなに大変な思いをして患者と向き合っているのか。病の謎が明かされた時の爽快感と安堵感。そして、心に染み渡るような感動。感涙必至の連作医療ミステリーをぜひとも手にとってみてほしい。

睡眠薬の過剰摂取で搬送される女性、ヤケドが“異常な”シングルマザー。研修医視点で明かされる“病の真実”

 研修医・諏訪野良太の2年間を描き出した連作医療ミステリ『祈りのカルテ』。大半の医大で取り入れられているという、2年の間に2カ月ずつ様々な科を回り、実地で学んでゆく研修医のカリキュラム。ふた月ごとに診療科を移っていくテンポは、連作短編という物語の形に心地よく寄り添っていく。作家活動とともに、医師として活躍する知念も、かつてはその道を歩んできたという。この作品に込められた、知念自身の思いとは。

「この連作は、医師としての彼と、人としての彼の成長の話でもあります。そして、研修医はこの2年のうちに、どの診療科の医師として生きていくか、ということを決めなければならない、その逡巡の物語でもあります。ここに出てくる人たちは、フィクションの世界の人たちではありますが、抱えている想いは、実際の医療現場のものと通じている。それを感じ取り、疑似体験のようにストーリーを楽しんでいただけたら」。

ツンデレわんこの正体は死神?! テーマは「死」。現役内科医が描く末期患者の未練と克服

『優しい死神の飼い方』(知念実希人/光文社文庫)

 この世への未練など尽きる気がしない。だが、死を避けられないのだとしたら、どうせならば、自分の人生に満足し、安らかに死を迎い入れたいものだ。

『優しい死神の飼い方』(光文社文庫)は、人の残された時間に優しくそっと寄り添おうとする作品。死期が迫った患者たちが入院するホスピスを舞台としながらも、この物語には死に対する悲愴感はない。患者たちを見守る周囲からの視線の優しさに胸があつくなるのだ。また、この物語の主人公が、犬の姿を借りて人間界に現れた「死神」というのも、物語をコミカルに描き出す大きな要因だろう。死をテーマとした作品であるはずなのに、ゴールデンレトリバーの姿をした「死神」のツンデレさ、愛らしさに、自然と笑みがこぼれてしまう。

「死神」レオは、末期患者の未練を断ち切り、魂を救っていく。死をただ恐れるだけではいけないのだろう。充実した人生を送るためにも、ぜひとも読んでほしい作品。

死神が「黒猫」の姿で降臨!? 現役医師による、死とあたたかにむきあうファンタジックミステリー

『黒猫の小夜曲』(知念実希人/光文社)

 思い残すことがないままあの世にいける人などどこにいるのだろうか。『黒猫の小夜曲』(光文社)は、人の死とあたたかに向き合うファンタジックミステリーだ。

 主人公は、この世に未練を残し地縛した魂を「我が主様」のところへ導くのを生業とする「死神」だ。「死神」というと、当然誰もがおどろおどろしい存在を想像してしまうだろう。だが、この物語に登場する死神は、黒猫の姿でこの世に降臨する。クロと名付けられた「死神」本人にとっては不本意らしいが、その猫らしいふるまいは、「死神」とわかっていても、愛くるしい。

 この本の姉妹本『優しい死神の飼い方』では、ゴールデンレトリバーの姿になった「死神」が描かれたが、その可愛さは甲乙つけがたい…。犬派には『優しい死神の飼い方』、猫派には『黒猫の小夜曲』がオススメといえばいいだろうか。「死神」でありながらどうにも憎めない愛らしさに、ときに笑わせられたり、泣かされたり。ミステリーとしてもファンタジーとしても楽しめるこの本を読まないことほど、もったいないことはないだろう。

愛した女性は幻だったのか? 現役医師が描き出す、恋愛×ミステリーの究極の融合作品

『崩れる脳を抱きしめて』(知念実希人/実業之日本社)

 あなたは「本当の恋」に落ちたことがあるだろうか。特別な恋に落ちた男女を描いた恋愛小説は数あれど、『崩れる脳を抱きしめて』(実業之日本社)のように恋愛とミステリーが巧みに融合した作品は未だかつてないだろう。

 主人公である研修医の碓氷は、脳腫瘍を患う28歳の女性ユカリと出会う。心に傷を持つふたりは次第に心を通わせていくのだが、実習を終えた碓氷の元に届いたのは、ユカリの死の知らせだった。彼女の死の真相を追い求めた彼は、自分が出会った女性が実際には存在しないと告げられる。愛した女性は幻だったのか。衝撃の展開から目が離せない。

 この物語は単なる恋愛小説ではない。もちろん余命わずかのユカリとの恋の行方にも胸がぎゅっと締めつけられる。だが、この物語は、碓氷の医師としての成長の物語であり、碓氷家の家族の物語であり、そして、ユカリという一人の女性をめぐるミステリーでもある。それらすべての要素が巧みに絡み合い、今までなかったエンターテイメント小説を生み出している。恋愛小説好きも、ミステリー好きも、楽しめるに違いない作品だ。

“日本がポツダム宣言を受諾しなかった場合”の恐ろしい未来を描く! 女子高生が企てた壮大なテロ計画とは?

『屋上のテロリスト』(知念実希人/光文社)

「平和」は目には見えにくいが、今、確かに存在している。だが、もし、現代日本が“平和の国”でなかったとしたら…?『屋上のテロリスト』(光文社)は、“1945年に日本がポツダム宣言を受諾しなかった場合”の現代日本の姿を描き出した作品だ。

 舞台は、太平洋戦争を境に東西に分断された日本。西日本共和国と東日本連邦皇国の間には高い“壁”が築かれている。高校生の酒井彰人は、同級生・佐々木沙希の誘いにまんまと引っかかり、彼女の仕組んだ壮大なテロ計画に加担することになる。

 核爆弾、ミサイル、生物兵器…。飛び出す物騒な言葉の数々に、女子高生テロリスト・佐々木沙希に恐怖を感じることだろう。だが、物語が進めば進むほど、自分が彼女の手のひらのなかで踊らされていたことに気づかされる。この小説は何回読者をだますつもりだろう。平和ボケしているすべての人の心を振るわせる緊張感エンターテイメントは、今後大きな話題を呼ぶに違いない。

文=アサトーミナミ