感動の名曲、劇場版『SHIROBAKO』主題歌“星をあつめて”が生まれるまで――fhána×林英樹(作詞)インタビュー
更新日:2020/4/30
2月29日に公開された、劇場版『SHIROBAKO』。TVシリーズの4年後を舞台に、苦境に立たされた武蔵野アニメーションが再びアニメづくりへの情熱を取り戻していく物語は、観る者の心を動かす。そんな劇場版『SHIROBAKO』のエンディングを飾る主題歌が、fhánaの15枚目のシングル『星をあつめて』(発売中)だ。アニメ音楽のフィールドにおいて、fhánaはさまざまな作品と出会い、自らの音楽性を拡張し深めながら、あらゆる物語に答えを出してきた。そのきっかけのひとつが、実は『SHIROBAKO』と同じ水島努監督によるTVアニメ『ウィッチクラフトワークス』の主題歌“divine intervention”だったりするのだが、再び邂逅を果たした『星をあつめて』は、どのように生み出されたのか。リーダーで作曲を担当した佐藤純一、TVシリーズから『SHIROBAKO』が大好きと語るボーカル・towana、そして多くのfhána楽曲で作詞を手掛けてきた林英樹。三者による鼎談で、その背景を探る。
『SHIROBAKO』はクリエイターの群像劇で、「魂を削って作品を作るってこういうことだよ」みたいな話(佐藤)
――劇場版『SHIROBAKO』の主題歌“星をあつめて”、素晴らしい曲ですね。映画を観て、エンドロールで聴いてさらに感動したんですけど、まずは主題歌の依頼が来てから曲が完成するまでの一連の流れを教えてください。
佐藤純一:急遽、劇場版『SHIROBAKO』の主題歌をfhánaで、というオファーをいただいて、僕もメンバーもみんなびっくりして。僕もtowanaも『SHIROBAKO』が好きだったので、ほんと嬉しかったです。ただ、時間があまりないということで、早急に水島努監督と打ち合わせをさせていただいて、その場で「今回はこういうストーリーで、最後にホッとするような曲にしてほしい」というお話を伺って。林くんには、「とりあえず今から曲を作るから、その間に『SHIROBAKO』を観てくれ」と。
林英樹:お恥ずかしながら、タイトルは知っていたんですけど『SHIROBAKO』は観たことがなくて。なので、音源が来るまでの間になるべく詰めよう、ということで観始めました。
佐藤:映画の主題歌をやること自体、fhánaにとっては初めてなんですけど、今回はTVアニメの主題歌を作るときよりも時間が短かったんですね。もう、曲作りの過程自体が、『SHIROBAKO』的なドタバタというか。「ヤバいヤバい」みたいな、万策尽きた感がありました(笑)。
――(笑)しかし、万策尽きずになんとか無事収まった、と。
佐藤:なんとか収まりました。
towana:去年のツアーと並行して作ってた感じですよね。
――そういえば、昨年12月の舞浜アンフィシアターのライブで、少しだけ披露してましたね。
佐藤:そうなんです。種明かしをすると、順調に曲やアレンジができていたら、普通に披露しようと思ってたんですよ。でも、できなかった(笑)。だけどやっぱり曲は聴いてもらいたかったから、ピアノと歌でワンコーラスだけという、ちょっとレアな感じで演奏させてもらいました。
――佐藤さんはよく、「いい歌詞は全部を読まなくても、文字をざっと見ただけでよさがわかる」という話をしているじゃないですか。“星をあつめて”はどうでしたか?
佐藤:確か、初稿は全然違う感じだったんですよね。星というワードは、最初はかけらもなかった。「その旗を振れ」みたいな――。
林:劇場版『SHIROBAKO』のビジュアルに旗を持っている絵があったので、安直に「旗を振れ」みたいなサビの歌詞を作ったんですよ。で、まあ、「それは……」っていう(笑)。
佐藤:ぱっと見た瞬間に「あ、これじゃない」と(笑)。
towana:あははは!
林:(笑)おそるおそる、そーっと出したら、すぐに返ってきた。
――佐藤さんから戻しがあって、その後林さん的には何が『SHIROBAKO』のキモ、今回の楽曲のキモであると考えたんでしょう。
林:そもそも、星っていうキーワードが出てきたのはなんでだったんでしょうね。突然?
佐藤:突然ですかね。この曲の作詞をしてもらう前から、(前作シングルの)“僕を見つけて”や、提供曲ですけど(『けものフレンズ2』の主題歌)“きみは帰る場所”からの流れがあって、去年のツアーパンフレットで対談をしたときに、「クリエイターがものを作るとはどういうことか」みたいな話を林くんとしていて。で、『SHIROBAKO』はクリエイターの群像劇で、「魂を削って作品を作るってこういうことだよ」みたいな話ですよね。創作するときに何かきらめきみたいなものがあって、それを形あるものとして残すのが作品を作ることだと思うんですけど、それ自体についての曲がいい、という話はしてました。プラス「何か大切なものを失ってそこから再生していく」みたいな流れがあったらいいよね、と。
林:『SHIROBAKO』の話をもらって観始めたら、ほんとに面白くて。一気に全部観ちゃいました。観終わった後に、まさにクリエイターの群像というか、自分の中ではfhánaの最近のモードとそのままリンクしていて。ほんとに写し取ったような物語だと思ったし、『SHIROBAKO』でも、創作における本質をみんなが追い求めて、登場人物の考えもバラバラだし、目指しているものもバラバラなんだけど、作品を作るときだけはひとつの固まりになって、必死に働いたり、駆けずり回ったりしている。でも、作品を作り終わったら、それぞれ違うところにばらけつつ、でもまた集まったりする。そういう、集合と離散を繰り返すところが、集まっては別れる星座に近いのかな、と思った気がします。星座のきらめきって、一瞬なんですよね。パッと見て、目を離してもう一回見たら、そのきらめきが終わっている。作品も、そういう部分があるのかな、と。儚いというか。
佐藤:儚いし、歌詞や曲を作っていても、そういうきらめきみたいなものってすぐに逃げていっちゃうんですよね。「あっ」と思った時に写し取っておかないといけない。忘れないようにやらないと、次の瞬間にはもうなくなっちゃうから。それはひとりで作っていてもそうだし、みんなで作ってるものでも、やっぱりそうなのかなって思ったりしますね。
《働く》という歌詞は、普段のfhánaの曲だったら絶対に出てこないワード。『SHIROBAKO』があったから出来上がった歌詞だなって思う(towana)
――大の『SHIROBAKO』ファンであるtowanaさん的には、自分が歌う歌詞を見てどう感じたんですか?
towana:『SHIROBAKO』という作品に、ほんとに寄り添ってるなって思いました。ここ1年くらいのおふたりのモードも反映されていると思うんですけど、たとえば《働く》という歌詞は、普段のfhánaの曲だったら絶対に出てこないワードなので、『SHIROBAKO』っていう作品があったから出来上がった歌詞なんだなって思います。
――『SHIROBAKO』のメインキャラクターの5人って、仲はいいけど実は資質や個性はバラバラなんですよね。ただ、ものをつくるためにひとつの場所に集まると、力を発揮する感じがあるというか。『SHIROBAKO』全体もそういう作品で、武蔵野アニメーションのみんなが1箇所に集まって同じ方向を向いたときに、力が出ますよね。で、fhánaもそういうバンドだと思うんですけども。
佐藤:集まったとき、同じ方向を向けてるかな?(笑)。メンバーとある程度親しい人は「みんなバラバラなんですね」みたいなことを言うんですけど、傍から見たイメージは、人間性や趣味も近い人たちだと思われてるらしいんですね。でも実際、バラバラだと思います。
――林さん的にも、外から見ているとfhánaという箱はそう見えるんじゃないですか。
林:個性が豊かというか、バラバラというか(笑)。でもバンドって、バラバラのほうが面白いですよね。僕も、作詞に関わらせてもらっておきながら、集まる場にもいないし、佐藤さんくらいしかやりとりもないし。でも、fhánaがひとつのクリエイティブな何かをするときの感じは、ちょっと『SHIROBAKO』のに似てるな、と思います。
――さっき話に出た佐藤さんと林さんのここ1年くらいのモードというのは、どう見えてるんですか。
towana:創作というか、ものをつくることに対する考え方が変わったのか、深まったのか、そういう話をされている気がします。「本質とは何か」みたいな話をしてますよね。
林:それはやっぱりアニサマ(Animelo Summer Live)を観てからですよ。アニサマのfhánaのステージで、すごいものを目撃してしまったことが、僕の中で大きくて。佐藤さんに聞くと、ステージ上中にいながら同じものを垣間見たところがあって、そこでまた共通項が生まれましたね。
佐藤:fhánaのバンドとしてのパフォーマンスはもちろんだけど、アニサマのステージ上のtowanaのパフォーマンスを観て、林くんはそういうことを考えるようになったんですね。だから、towanaがきっかけなんです(笑)。
towana:(笑)。
佐藤:アニサマでのtowanaのパフォーマンスは、現実の向こう側にある何か本質的なものとつながってしまっている感じがあって。僕もステージ上でピアノを弾きながら「towana、すごいきてる」と思ったし、その感じがお客さんにも伝わったことで会場全体が別の空間につながって、本質的なキラキラしたものに一瞬触れているような感覚があったんですね。まわりに聞いても、ありがたいことに「すごかった」と言ってもらったりして。それがあったから、「本質とは」みたいな話をするようになったというか。
林:あのときは、自分で作って書いた歌詞が、自分で書いたもの以上のものとして届いてると思ったので、本当に感動しました。「こういうことができるんだ?」って。「ものづくりって楽しい」みたいな気持ちをいい意味で取り戻した、というか。純粋にワクワクしました。
佐藤:いろんなクリエイターやアーティストの方が「なんで自分は作品を作ってるんだろう」みたいなことを語ったりしますけど、最近思うのは、作ること自体が目的だし、作ること自体が楽しいし、「こういうメッセージを伝えたくて」とか、あまり余計なことを考えずに作ることだけに集中して産み出したものが、かえって人の心を動かすこともあるな、と思ったりします。
林:曲や歌詞って、変に背景を持たせちゃうと、たとえば政治とか実際の事件にしても、具体的なことを背景にしちゃうと、そこに留まっちゃってそれ以上に広がらないことがあるんですね。でも、普遍的なものは、背景を持たなくても、誰にでも伝わる。本質をつかむためには、実はなるべく背景はないほうがいいんじゃないか、と思ったりします。
佐藤:歌詞にせよ音にせよ、背景の表面的なことだけに捕らわれると射程が短くなってしまう。とはいえ、個人的なことを深くぶつけたものが、その背景を超えて広く伝わったりすることもあって。本当に優れた表現は超えて行くんです。背景がないほうがいいというよりは、背景を超えて届く本質的な表現かどうかが大事かなって。
林:その先へ行かないといけないなって思います。
――『SHIROBAKO』のTVシリーズは「みんなよかったね、わ~」って終わる感じではなくて、彼らの生活や人生が続いていく感じがとてもよかったな、と思うんですけど、それもまた普遍的な物語であるのかな、と思うんです。“星をあつめて”の歌詞も、そういうことを描いているというか。
林:その続いていく感じも、集合と離散ですよね。ひとつの作品のために集まって、それが終わったら「ああ、よかった」となる。でも彼らはサラリーマンだから、また働くために次の作品に行かないといけない。プロデューサーが次の案件をもらってきて、「この製作期間で、このスケジュールで、この予算で」って話もすごくリアルだと思います。それこそ、動画を作ってる人と脚本を作ってる人って、同時進行ではあるけど、やってることは全然バラバラですよね。それが、ひとつの作品の中に集まっていく。それぞれのスピードは違うと思うんですけど、一瞬重なるところがある。その感じがクリエイティブそのものというか。続いていくし、終わりでもないし。でも働くために、生きるためにやっていく。そこが、『SHIROBAKO』を観て一番感動した部分です。
――彼らは会社員であり、労働をしているわけですけど、同時に表現の中のきらっとしたものを見つけたくて、アニメの制作をしていたりもする。だからこそクリエイターに共感される作品であるし、あまねく働いている人に共感をもたらす作品が『SHIROBAKO』で、“星をあつめて”もそういう曲になっていると思います。
林:歌詞を書いていると、自分では一定期間置かないと客観的に見られないので、そう言っていただけるのは嬉しいし、次もまた頑張ろう、と思ったりします。(towanaに)最近歌詞を書いているけど、どうですか? 自分が書いたものに対して「いいフレーズだな」って思ったりする?
towana:うーん。全部「いいフレーズ」って思えるように、自分で納得できる言葉を書くようにはしているんですけど、自分ではいいと思っていても、他人からみたらどう思われるかはわからないです。
佐藤:towanaの歌詞は、言葉のチョイスがいいんですね。それこそ林くんの歌詞は、“星をあつめて”も含めて、リテイクをお願いすることもあるんですけど、towanaの歌詞は今のところリテイクがない。上がってきた瞬間に全部が研ぎ澄まされていて、「これはこうでなければいけない」という形に洗練されてる状態であがってくるんですね。ちゃんと本質をとらえた歌詞になっていると思います。
林:(3rdアルバム『World Atlas』収録の)“ユーレカ”の歌詞を最初に見たとき、「もう仕事が取られるんじゃないか」と思った(笑)。
towana:あははは。
林:「バンドの中でこれだけ書ける人がいたら、十分じゃないか」と。
towana:でも林さんほどの速さはわたしにはないし、まだ書き始めなので。わたしはまだ使ってない言葉もたくさんあるし。これからどんどん書いていくと「これ使ったな」ってなることもありますよね。自分の好みの言葉とか、言い回しってあるじゃないですか。本棚じゃないし、限られているものだと思うから。だからたくさん書いていくとどうなるのか、ちょっと不安はあるし、だから林さんはすごいなって思います。
林:まだまだ深淵というか、何か出てきそうな期待をさせてくれる歌詞を書いてると思いますよ。
歌詞は頭から書きます。まずは楽曲のデモを聴く期間があって、何十時間もひたすら聴き続ける(林)
――いい機会なので、作詞の先輩である林さんに、歌詞を書くときの疑問などをぶつけてみてはどうでしょう。
towana:歌詞はどこから書きますか?
林:頭から書きます。まずは楽曲のデモを聴く期間があって、何十時間もひたすら聴き続けます。言葉を当てはめる前に、とにかく聴き続ける期間があって、言葉を実際にあてはめる前に、なんとなくストーリーを決めていったほうが言葉が出てきやすいのかな、と最近思っていて。それこそ、20代の頃に書いた歌詞は、なんとなくメロディーに載せたものがそのまま連なって出来上がっていく、という経験もあったんですけど、最近はそれだけではちょっと強度が弱い気がしていて。他の曲とのつながり、これまでの流れ、アルバムだったらアルバムの中におけるその曲の位置づけを考えた上で、そこから書き込んでいくほうが、結果的には近道かな、と思います。
towana:紙に書くんですか?
林:スマホなんですよ。スマホのアプリのみです。そこに書いたものをコピペして、LINEで送る。
towana:わたしは、紙とペンで書いてます。Aメロ、Bメロ、サビって書いて、視覚でとらえていないとわからなくなっちゃうので。位置で把握していたい、という感じがあって、ずっと紙とペンで書いてるんですけど、林さんはスマホかあ。
林:紙とペンでも、常に懐にあればそれでいいと思う。スマホだと、だんだん姿勢も横になったり……。(椅子からずり落ちながら)どんどんこういう感じになる(笑)。
towana:(笑)どんな姿勢でも書けますよね。
林:そう、だからスマホでやりますね。最終的には、真っ暗な部屋の中で、スマホの明かりだけがあって……目を血走らせながら。
towana:(笑)それは、集中するためのメソッドでもあるんですか?
林:傍から見たら「ほんとに大丈夫か」みたいな感じだけど。絵になる感じではないです(笑)。
佐藤:創作って、地味で泥臭いものだし、そんなにカッコいいものではなかったりしますよね。おしゃれな書斎や机とはほど遠い。僕も、作曲するときは最初にちゃんとデカい電子ピアノに向かって弾き始めるんですけど、だんだん疲れてくるので、まずその場で姿勢が乱れていくんですよ、ペダルとか踏むのもめんどくさいからペダルも踏まず、最終的にはちっちゃいキーボードをソファで寝っ転がりながら触って、「メロディーがああ~~」みたいになります。
林:なります。徐々に、肉体は弛緩していく。
towana:弛緩(笑)。
林:ゆるく溶けていく。そのほうが、たぶん脳の意識や感性が反比例して、こう……。
佐藤:(笑)。
towana:余分な力を使わないんですね。
――椅子の上で弛緩しながら、本質待ちをしていると(笑)。
towana:ははは!
林:すべてを受け入れる姿勢ですね(笑)。「なんか降ってこないかな」と。
――fhánaは素敵な歌詞を書く書き手がふたりいて、素晴らしいですね。
佐藤:素晴らしいですね。根底がちょっと近い部分もありつつ、ふたりはやっぱりタイプが違うので、そこもいいと思います。僕の感覚ですけど、towanaの歌詞は風のようにさらさらっとしていて、それでいてちゃんと本質に触れている。僕が読むと、towanaの人間性というか、感情がすごく見えてくるんですね。感情のざわつきみたいなものが風を起こしていて、それによっていろんなものが動かされていく感じ。林くんの歌詞は、もっと探求者というか、深いところに潜っていく感じ。あとは、関係性にもよるのかもしれないですけど、林くんのほうがいろいろ言いやすい(笑)。
――(笑)作詞の先輩として、林さんからtowanaさんにメッセージはありますか?
林:そのままでいてください(笑)。たくさん書いていくと、壁にぶつかったりすることもあると思うんですけど、自分を痛めつけて、ボロボロになりながらひねり出したものは、それはそれで自分の本質を表していたりすると思います。
towana:はい。
林:苦しんでも続けてください。
佐藤:深いですね。
林:深いですか(笑)。
――そして、仕事を取り合わないように。
林:そこはちょっと、よろしくお願いします(笑)。
取材・文=清水大輔
fhána 劇場版『SHIROBAKO』主題歌「星をあつめて」リリース記念番組「ふぁなばこ」
がついに公開スタート!
#1~「星をあつめて」制作秘話編~
2月26日リリース 劇場版『SHIROBAKO』主題歌「星をあつめて」の発売を記念した特別番組「ふぁなばこ」。fhánaメンバーによる様々なコーナーや企画をお届けしていきます。
第1回はfhánaメンバーが4人揃って制作秘話についてお話します!