感染症による混乱がまるでデジャヴ!? イタリアの名作『いいなづけ』が大量重版「今日の新聞を読んでいるような気に」
公開日:2020/4/4
新型コロナウイルス感染症の流行によってさまざまなイベントが中止となり、首都圏では外出自粛要請も相次ぐ事態に。社会に未曾有の混乱が生じている中、伝染病の脅威を描いた作品としてイタリア文学の古典『いいなづけ』(A・マンゾーニ:著、平川祐弘:訳/河出書房新社)に注目が集まっているようだ。
同作は19世紀イタリアの国民的作家、アレッサンドロ・マンゾーニが1827年に発表した長編小説。イタリアでは世界的に有名なダンテ『神曲』と並ぶほど高い評価を受けているが、今まで日本ではあまり知られておらず“隠れた名作”という扱いを受けてきた。
物語はレンツォという若者が、許嫁のルチーアと結婚式を挙げようとするところからスタート。美しいルチーアに横恋慕した領主によって結婚式を妨害された2人は村を脱出し、苦難に満ちた逃避行を繰り広げていく。作品の舞台となった時代の風俗や社会状況を生き生きと描き出しているのが特徴で、作中ではミラノにペストが蔓延し、恐怖や狂気によって激しい混乱が生じる様が映し出されている。
同作が脚光を浴びるきっかけとなったのは、イタリア・ミラノにある高校のドメニコ・スキラーチェ校長が発表したとあるメッセージだった。今年2月、スキラーチェ校長は学校のウェブサイトに掲載された文章の中で、『いいなづけ』が伝染病に対するヒステリックな反応やデマ、外国人への恐怖心などを克明に描いていたと指摘。現実でも同じ混乱が生じていると語り、合理的な考え方によって行動することを推奨していた。
このメッセージはさまざまな国のメディアやSNSによって拡散され、大きな話題を呼ぶことに。日本では『いいなづけ』の復刊リクエストが殺到したことを受け、河出書房新社が同書を大量重版。新たに発売された文庫本の帯には、「ペストが大流行した17世紀の混乱の様子はマンゾーニの小説を読んでいるというより、今日の新聞を読んでいるような気にさせられます」というスキラーチェ校長の言葉が引用されている。
実際に小説を手に取った人からは、「ペストに関する描写は、まさに今の世界を彷彿とさせる。この1冊の中に人生の教訓すべてが詰め込まれているようだった」「ここで語られる混乱は、現在起きているパニックとそっくりだ」「ペスト蔓延の史実を踏まえて、さまざまな階級の人たちがパニックに陥る群集心理を描いている。自己流で解釈することの危険や無知の恐ろしさを感じた」といった感想が上がっている。
この機会に一躍話題作となった古典的名作に触れて、人類の“知恵”を学んでみてはいかがだろう。