人の体内はウイルスにとって“とても恵まれた環境” 人類とウイルスの軍拡競争はどちらに軍配が?
更新日:2020/4/10
全世界的に猛威をふるう新型コロナウイルスの影響拡大は、まだまだ収まる気配がない。平穏な日常を過ごしていたのが遠い昔に思えるほど、刻一刻と状況が変化していることは、おそらく誰もが味わっているだろう。
人類は古くから「医学の発達によって感染症はいずれ制圧されるはず」と願い続けてきた。しかし、それが実現することはなく、生存競争の上で人類とウイルスとの「軍拡競争」はこの先も続くだろうと見通すのが、『感染症の世界史』(石弘之/KADOKAWA)である。
本書を読むと、私たちが今まさに直面している世界的なパンデミックが、ちがった角度から見えてくるはずだ。
ウイルスの総数は「1億種を超える」との指摘も
人類は有史上、さまざまな感染症と対峙してきた。病原体となりうるウイルスは過去に約5400種類が発見されているものの、その数字はごく一部だという。地球上のあらゆる生物を宿主にするウイルスは、未知のものまで含めれば「1億種を超えるかもしれない」と本書は指摘する。
地球上の生物たちは常にウイルスと共存している状態なのだが、なかには、突如として病原性を身につける種類がある。そして、彼らウイルスにとって、私たち人類を含む哺乳動物の体内は温度が一定で、栄養分も豊富な“恵まれた環境”であるため、その体内へ忍び込み、繁殖しようと時機をうかがっているのだ。
一方で、宿主となる私たちも体内で相応の「免疫」を身につけ、ワクチンや抗生物質などの薬剤で対処するといった対抗策を打ち出してきた。しかし、ウイルスたちも生き延びるために、進化を続けながら突破する機会を狙っている。そのため、互いの戦いは“いたちごっこ”のように、延々と続くことになるのだ。
シルクロードの歴史からたどる人類の移動と感染拡大
歴史をたどれば、人類の“移動”が感染症を拡げてきた大きな要因であることも分かる。はるか昔、中国から地中海沿岸を結んだ「シルクロード」は、絹や漆器、宝石などの交易に長く役立てられてきたが、それと共に、東西にさまざまな病気を運ぶ温床にもなっていた。
その理由のひとつは、当時、世界を二分する大帝国だった漢と古代ローマが東西それぞれの拠点になっていたことだ。
シルクロードでの交易がさかんになってきた2~3世紀には、漢で天然痘やハシカが流行した。漢は国家として最盛期には6000万もの人口を数えていたといわれるが、やがて6世紀末頃には感染症の影響で4500万人ほどまでに減少し、それが衰退の一因になったという見方もある。
一方西の古代ローマでも、同時期にペストが流行して300万人以上が死亡した。病原体はやがてユーラシア大陸を横断して勢力を拡げていったが、その原因となったのは、げっ歯類の生物・ネズミといわれている。諸説あるものの、イスラム諸国から聖地・エルサレムを奪還しようとした十字軍が戦利品を運ぶ船にまぎれこんだクマネズミが、欧州都市部でペストをばらまいたという話もあるという。
ペストの感染拡大により残されたアイザック・ニュートンの功績
新型コロナウイルスの感染拡大により、経済や社会の仕組みにさまざまな変化のきざしが見えはじめている現在。かつての歴史をたどると、感染症の蔓延が文化などに大きな影響を与えた事例もある。
例えば、物理学者として知られるアイザック・ニュートンは、ペストが流行した時期に後世へと繋がる偉大な業績を残した。
感染症の流行を受けて、ロンドンのケンブリッジ大学が閉鎖された期間に、ニュートンは故郷であるウールスソープに戻った。そして、大学での雑事から離れた自由な時間を利用して、万有引力の法則などの研究へ没頭。この時期は今もなお「ニュートンの驚異の年」と呼ばれているが、現代に伝わる彼の業績はほぼその時期に集約されていたといわれている。
感染症拡大を受け、社会そのもののパラダイム・シフトを願う声は大きくなりつつある。新型コロナウイルスによる騒動が続く現在、私たちは自分たちの生活や将来をどうとらえるべきか? 本書には、それを探すためのヒントが大いに詰め込まれている。
文=カネコシュウヘイ