戸塚純貴「“介護”というものがまとう現状をこの映画で打破していきたい」
公開日:2020/4/12
介護、介護人にフォーカスを当て、国内はもとより海外でも大絶賛を浴びる映画シリーズ、待望の第2弾『ケアニン~こころに咲く花~』で主演を務める戸塚純貴さん。毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある1冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』に登場してくれました。戸塚さんが介護福祉士・大森圭を演じて、自分のなかに生まれてきた想いとは――。
「介護や介護職のことって、当事者にならなければわからない。その現場には、現代社会を生きるうえで、伝えたいメッセージがたくさん詰まっているんです。“こういう作品は続けていきたいね”というのが、プロデューサー、監督をはじめ、つくり手みんなの熱い思いでした。だから第2弾を制作できると伺ったときは本当にうれしかったですね。そして、それが実現したのは、第1弾『ケアニン~あなたでよかった~』を観てくださった方の多くの声や支えがあったからこそ。その期待を裏切ってはいけないと、身の引き締まるような思いで撮影に臨みました」
認知症ケアや介護施設、介護職……高齢化社会に突入しているにも関わらず、そこにフォーカスを当てた映画はあまり多くない。その現実をわかりやすく、そして、“ケア”される人々と“ケア”する人々との愛情の交流をこまやかに描き出した『『ケアニン~あなたでよかった~』は、2013年の公開より大反響を呼び、国内はもちろん、海外でも自主上映の輪が広がった。これまでの上映会数1300回、延べ観客数は10万人を超えた作品の、第2弾として制作された『ケアニン~こころに咲く花~』は、第1弾で小規模施設にいた戸塚さん演じる新人介護福祉士・大森圭が大型の特別養護老人ホームに転職したところからストーリーが始まる。
「撮影前には、小規模、大規模と、どちらの施設にも伺わせていただきました。“特養”は今、全国的に一番多い形態ですが、数多くの利用者の方がいらっしゃるなか、比率的にみると、スタッフの方の数が少ないんです。利用者の方々は、決められた時間に食事を摂られるのですが、自分でうまくできない方も多くいらっしゃって。そういう方たちは、介助の順番を待つしかなくて。それは実情にあわせると、仕方のないことなのですが、介助を待っていらっしゃるその姿はすごく印象に残りました。第2弾では、そうした部分もリアルに描かれています」
“多くの利用者に対応するため”という目的の元に、優先される効率やリスク管理。その運営方法に、小規模施設で働いていた圭は大きな戸惑いを隠せないでいる。
「現状を破ることが正しい選択ではないと思うんです。今あるなかで何ができるか、というのを考えるのが大切なことなんじゃないか、というのが、施設を見学させていただいて実感したこと。その気持ちが、大森圭という役のなかには流れています。でも、悩んじゃうんですよね、真っ直ぐで、人と向き合う本気度の強い圭は。彼の芯のぶれなさというのはいいところでもあるんですけど、それは人とぶつかってしまう部分でもある」
食事のサポートも決められた以上に時間を割き、利用者のために友人の美容師を呼んで、美容サロンを開催するなど、利用者の笑顔が見たくて奔走する圭。だが、その行動も職場のチームワークを乱していると、上司たちから叱責を受けてしまう。
「けれど、圭を叱る上司たちも、スタッフも思っていることはみんな一緒。理想をうまくかみ砕きながら、やっていかなければというところが一番難しいんですよね。本作では、その部分を圭は学んでいきます」
そんな圭が担当することになったのが、認知症の老婦人・美重子(島かおり)。彼女を自宅でずっと介護してきた夫の達郎(綿引勝彦)は、施設を信用できず、担当の圭にも厳しくあたる。
「本作では、施設を利用する家族の方々にもフォーカスを当てているので、そういった部分で、どの年代でも、どの目線でも、共感できるポイントがたくさん集まっていると思います」
夫、娘、孫、家族のことすらわからなくなってしまった美重子。彼女へのこまやかなケア、そして雲間の光のように、ときおり訪れる心の交流。その瞬間や表情には、芝居という枠を超えたかのような何かが垣間見えてくる。
「島さん演じる美重子さんは、言葉を話すことができない役なので、細かい表情や手や目の動きで、その機微を掬いとって会話していくほかない。そのためのスイッチを探していました。美重子さんが反応するワードとは何だろう、何に一番、心が動くのか、と心を砕きながら。それは実際、現場の方々がされていることでもあるんですね。美重子さんは返事をしないので、僕が何も喋らなくなったら、沈黙が訪れる。撮影中は、その沈黙に恐怖を感じ、喋り続けていました。その部分は台本にないものも多くあって。そうしたシーンのなか、役者として、セリフがあるということが、すごく無力であると感じ続けていました」
共演したベテラン俳優たちの芝居にも、圧倒され続けていたという。
「綿引さん、島さんをはじめとした大先輩の方々と、これほど密に芝居をさせていただけた時間は、自分にとってかけがえのない幸せな時間でした。皆さんが芝居のなかに持っているもの、僕から引き出そうとしているもの……そのすべてに集中し、それらを自分のものにしていきたいと強く思いました」
監督を務めた鈴木浩介は、WOWOW版ドラマ『沈まぬ太陽』をはじめ、社会派ドラマを多く手掛けている。その手腕によって、ひとつの介護施設という小さな舞台から、社会を広く、深く映す、それも本作の魅力だ。
「街を歩くと、介護施設を多く目にするようになってきたのに、介護というものを知らない人が多い、というのが、僕の実感で。知らないことは、怖いことでもあって、そうなると、さらに触れらなくなってくるんですよね。そういう現状を打破していきたいという思いが強くあります。実際に介護の現場を見せていただき、そして大森圭を演じ、僕も介護に対するイメージが一変しました。こんなにふれあいがあって、思いやりのある、そして人と正面からぶつかっていく仕事って、他にないのではないかなと。本作が、介護職=ケアニンというものを皆さんに知っていただくきっかけになってくれたらいいなと思います。そして、“ケアニン”って実は、資格がなくても、どこにいてもなれるものだと僕は思っているんです。そうした心優しきケアニンが、この映画を観て、ひとりでも多く生まれてくれたらうれしいなと思います」
(取材・文:河村道子 写真:鈴木慶子)
映画『ケアニン~こころに咲く花〜』
監督:鈴木浩介 出演:戸塚純貴、島かおり、綿引勝彦、赤間麻里子、渡邉 蒼、秋月三佳、中島ひろ子、浜田 学、小野寺昭、松本若菜、小市慢太郎ほか 配給:ユナイテッドエンタテインメント 4月3日(金)公開 ●小規模施設から大型の特別養護老人ホームに転職した介護福祉士・大森圭。だが施設の性格上、効率やリスク管理を優先する運営方法に戸惑いを隠せない。そんな中、認知症の老婦人・美重子が入所してくる。夫の達郎は、施設を信用できず、担当の圭にも厳しくあたり……。そんな折、圭は達郎のある「願い」を知ることになる。 (c)2020「ケアニン2」製作委員会