魔力が価値基準である世界に、超能力で闘いを挑む少年――彼が目指すのは世界の破壊か、革新か?

文芸・カルチャー

公開日:2020/4/15

『本気になった天才の所業』(方丈陽田/一迅社)

 人間に魔法を使える能力が宿り、その強さでランク付けされる世界。魔術の大家の家に生まれながら、魔力なしと判定された少年・刹那は、猛獣たちの棲む危険な森に捨てられる。そこで10年間サバイバルし、魔力とは異なる力、超能力を身につける。世界を滅ぼしかねないほどの強大なその力を刹那はどのように使うのか……。

 国内最大級の小説投稿サイト「小説家になろう」で、累計560万PV超もの数字を叩きだした学園アクションファンタジー『本気になった天才の所業』が、このたび一迅社ノベルスより書籍化した。

 タイトルの〈本気になった天才〉とは、もちろん主人公・雷裂刹那のこと。『ガラスの仮面』の北島マヤ然り、『ブラック・ジャック』のブラック・ジャック然り、物語における天才には往々にしてドラマチックな背景がつきものだ。刹那もまた天才の例に洩れず、その生い立ちは非常にハードだ。

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 魔力がないために一族内で軟禁、虐待、虐めを受けた末に森に遺棄され、しかし運命の皮肉かそれとも神の恩寵か、魔力以上の大いなる力を覚醒させる。

 魔法の名家・雷裂家に養子となって引き取られた後は、その卓越した能力だけでなく明晰な頭脳も活かし、雷裂家が保有する研究所に研究員として勤務。ちなみにこの時点で弱冠15歳である。天才は生き急ぐのだ。

 物語は刹那が、魔術師育成の名門校・高天原神霊魔導学園に入学するところから始動する。実技試験で試験官を完膚なきまでに打ち倒し、鮮やかすぎる高校デビューを飾った彼は、たちまち学園中の生徒から決闘を申し込まれる身の上に。というのも、学園には決闘システムというランキング制度があり、上位の者ほど進学や就職が有利になるからだ。

 決闘に明け暮れる刹那を見守る義姉・美雲と、刹那を恋い慕う義妹の美影。ルームメイトであり初めての友人となった俊哉。かつて刹那を捨てた一族の次期当主であり、実の姉でもある久遠。その妹、つまり刹那にとっても妹にあたりながら、彼を激しく憎悪する永久。

 刹那を中心として、キャラの立った人物たちが次々に登場し、バトル、友情、ラブコメ、愛憎……と、様々なドラマが軽妙かつテンポよく繰り広げられる。

 学園ものの楽しさにあふれた前半部とは一転し、後半部では、地球存亡を懸けた壮大な闘いが展開してゆく。敵は、テログループを駒として使うこの世界の始祖。魅惑的な女性の姿をしたこの強敵に、刹那たちは力を合わせ、帝や合衆国大統領も巻き込んで立ち向かう。

 一章分をまるまる始祖との対決に費やした第三章「終焉序曲」は、格闘シーンだけでも約70ページに亘る。俊哉、美影、美雲と、各自の見せ場をたっぷりと盛り込んだのちに、いよいよ真打ちの刹那と始祖が一騎打ちする。超能力と魔力、似ているようで異なる力を極限まで振り絞り、激突するクライマックスは読んでいてページが汗で湿るほど、迫力に満ち満ちている。

 本気になった天才、刹那が目指す先はどこにあるのか。血のつながりのない姉と妹、美雲と美影との関係と、血のつながりのある姉と妹、久遠と永久との関係は、それぞれどうなっていくのか。あらゆる面で常人離れした主人公・雷裂刹那の所業から目が離せない!

文=皆川ちか