もしも江戸時代の春画師が現代の漫画を学んだら? 武士が漫画家に弟子入りする、新感覚の「まんが道」!
公開日:2020/4/21
過去から見て、現在はどう映るのか──。例えば「コロナショック」でトイレットペーパーなどの日用品が品切れになる状況を、「オイルショック」時代の人は「いつの時代も変わらないな」と嗤うかもしれない。では表現という部分で見ると、どうだろうか。もしも江戸時代の春画師が、現代の日本を見たとしたら…。『武士スタント逢坂くん!(1)』(ヨコヤマノブオ/小学館)は、江戸時代の春画師と現代の漫画家が時を越えて出会ってしまうコメディ作品である。
時は江戸時代、主人公である逢坂総司郎は武士の家に生まれたが、幼い頃に「龍の贄となる巫女」の画と出合う。その画に魅入られた逢坂は、いつか画の龍から巫女を救い出したいと思うように。そして彼はついに家を捨て、「春画」というアダルト絵画を描きながら「龍を倒す画」を描くための技術を身につけようとした。しかし彼の生きる時代は春画が禁止されており、破れば死罪。逢坂は役人に捕縛され、まさに死を迎える寸前に。その瞬間、彼の身体は処刑場から消えてなくなる。そして気づけば、逢坂は見知らぬ部屋の片隅に座していたのであった。
逢坂が現れたのは、とある漫画家の部屋だった。漫画家の名は宮上裕樹。突然、逢坂が現れたことに混乱する宮上とアシスタントたちに、逢坂は必死に身の潔白を訴える。そんなとき、体勢を崩して転倒した逢坂が見たのは、宮上が描いた漫画の原稿であった。紙の上で生き生きと動くキャラクターたちを見て、彼はこれこそが自分の探していた表現だと直感する。さらに宮上に勧められて手に取った一冊の「エロ漫画」が簡単に手に入ることを知り、ここが「江戸」ではなく「令和」の時代だと理解するのであった。
逢坂の生きた江戸時代は、大名たちの意思で「禁令」が出された時代である。逢坂の場合も大名・鶯谷寛喜によって出された「春画禁止令」のため、人目を忍んで活動するほかなかったのだ。自由に春画が手に入る太平の時代に、彼はあふれ出る涙を止めることができなかった。そして逢坂の目的である「龍を倒す画」の表現を身につけるため、彼は宮上に弟子入りを申し出ることに。
弟子入りを志願されたものの、宮上は悩んでいた。ハッキリいって、メンドくさいのである。漫画の技術どころか、現代の常識から教えなければならないのだ。しかし逢坂には、試しにやらせてみた「消しゴムがけ」が異常に早いという特技があり、宮上の心は揺れる。そんな宮上を師と仰ぐチーフアシスタントの緋村清人は、師の心を乱す逢坂を排除しようと動くことに。曲折あり、なぜか逢坂の弟子入りを賭け、逢坂と緋村の相撲対決が行なわれる。熱き男たちの「肉のぶつかり合い」の結果、逢坂は見事、住み込みで弟子入りを果たすのだった。ここから、いよいよ逢坂の漫画修業がスタートする。しかし運命は、逢坂にさらなる試練を課してくることに──。
本作は、単行本のオビに「磯部磯兵衛氏(『磯部磯兵衛物語』の主人公)も激賞!!」とあるように、ノリと勢いがスゴいギャグ漫画である。しかし逢坂の「画」に対する熱き想いは、笑いを超えた深い感動を読者に与えてくれるだろう。これから逢坂が漫画から何を学んでいくのか興味は尽きないが、元が春画師なので結局は一流のエロ漫画家に成長……なんてオチも普通にありそうな気がしなくもない。
文=木谷誠