「わかってもらえない」と思ったら… “見えている景色が違う”ことを意識しよう!/『頑張りすぎない練習 無理せず、ほどよく、上手に休む――』④

暮らし

公開日:2020/4/23

「現役看護師」の女性僧侶・玉置妙憂さんが贈る人生の教科書。人づき合い、仕事、家族の介護…「頑張る」はいいけれど、「頑張りすぎ」はダメ。無理せず、ほどよく、上手に休む「頑張りすぎない考え方&実践法」満載の心がラクになる生き方をまとめた1冊です。

『頑張りすぎない練習 無理せず、ほどよく、上手に休む――』(玉置妙憂/マガジンハウス)

人はそれぞれ見ている「景色」がちがう
――この世は「仮想現実」!?

 人と接することが、こんなにもストレスに感じるようになってしまったのはいつからでしょう。

 子どものころは、家族や友だちともっと楽しく接することができたはず。なのに、大人になるにつれ、だんだんと人とのつき合い方がうまくいかなくなってきてはいませんか?

 職場の人たちとうまくコミュニケーションができず、距離を置いてしまう。

 ちいさなコミュニティでの、濃密な人間関係に疲弊している……。

 このような状況のなかで、日々を過ごしていくのはつらいことですね。

 人間関係でストレスを感じてしまうのは、相手のことが理解できないから。そして、相手に自分のことを理解してもらえないから、ではないでしょうか。

 でも、これって相当むずかしい問題です。なぜなら、私たちは、一人ひとりちがうからです。

 テーブルの上にパンがひとつ、直いてあるとします。テーブルのまわりには自分と、他に何人かいるとしましょう。

 おいしそうだとか固そうだとか、私たちは「自分が見ているのとまったく同じように、他の人にもそのパンが見えている」と思っています。

 でも、本当にそうでしょうか?

 私たちは、自分の目以外では、この世界を見たことはないはずです。

 つまり、私たちが見ているのは、自分だけしか見ていない、自分だけの世界です。流行りの言葉で言えば、「仮想現実」でしょうか――。

 そう、人はそれぞれ違う「景色」を見ているのです。

 私たちには“五感”というものがあります。「視覚」「聴覚」「触覚」「味覚」「嗅覚」で五惑です。

 私たちは五感をフルに使って、温度や色や匂いなどを感じ、認識します。その自分だけが感じたものを言葉で相手に伝えます。そうやって、それぞれに違う世界をすり合わせているのです。

 しかし、ほとんどの場合、すり合わせをしている意識はありません。暑い日にはお互いに「暑い」と思い、信号を見れば「赤、青、黄」と同じ色に見える。だから、「同じ景色を見ている」とお互いに錯覚してしまうのです。

 もう少し、掘り下げてお話ししますね。

 たとえば、いわゆる認知症の方と暮らしてみるとどうでしょう。人はそれぞれ違う景色を見ている、ということがよくわかってきます。

 ときに、認知症の方は、急に立ち上がって大騒ぎしてしまうことがあります。突然、衣服を脱ぎ始めてしまうかもしれません。私たちは「なぜ?」と思い、驚いたりしますが、その方には、世界がそう見えている、というだけのこと。

 でも、私たちは、自分が認識している世界が正しいと思っていますから、「どうしてこんなところで、そんなことをするの!? ダメじゃない!」と怒ったりしてしまいます。

 これは、自分の世界の押しつけにすぎません。相手の世界を認めないかぎり、どんなに叱っても無駄です。

 極端な例かと思われるかもしれませんが、これと同じようなことが私たちの日々の暮らしのなかでも起こっているのです。

 家庭や職場などで、「それはちがう!」と相手を否定したくなることってよくありますよね。

 でもそれは、「お互いの世界がちがう」ということを忘れてしまっているからです。そもそもちがうわけですから、意見がちがうのはあたりまえ。

 反対に、あなたを頭ごなしに否定してくる人がいるとすれば、その人は「何もわかっていない人」。ただ単に、自分の世界を押しつけてきているだけです。

 あなたが悪いわけではありませんから、何を言われても気にしないでください。

 まずは、あなた自身が「人はそれぞれ見ている景色がちがう」ということをしっかり腹に落としておきましょう。

「わかってもらえない」「合わない」「相性が悪い」というのは、当然のことなのです。それをなんとかしようとするのは無理な話。

 無理をなんとかしようとして、私たちは頑張りすぎてしまうのです。

<第5回に続く>