13年前の火事の真相を求め、前妻の娘が家政婦として舞い戻り…予想を裏切る展開の連続にハマる!

マンガ

更新日:2020/4/19

『御手洗家、炎上する』(藤沢もやし/講談社)

 自宅の火事から13年、私は名前を変え戻ってきた。父と後妻がいるこの家に…。復讐のホームサスペンス『御手洗家、炎上する』(藤沢もやし/講談社)が、いま話題だ。

 娘“だった”杏子(あんず)が御手洗(みたらい)家の火事をめぐる謎と真相に迫ってゆく物語である。本稿のライターは予想を裏切られる展開の連続にぐいぐいと引きこまれ、気が付けば御手洗ワールドにどっぷりハマっていた。単行本は既に6巻まで発売されている。ここではストーリーの序盤をレビューしていく。

「私がすべて取り返す」炎上する御手洗家から追われた少女の復讐劇

 物語は御手洗家が全焼したところから始まる。原因は妻・皐月(さつき)による火の不始末とされた。彼女は燃えさかる炎の前で、医師の夫・御手洗治に土下座して謝罪し…。それから13年。治は皐月と離婚。御手洗家には、当時、ふたりの子供のシングルマザーだった真希子が後妻としておさまっていた。

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 ある日御手洗家に、家事代行サービスから山内しずかと名乗る女性がやって来る。表向きはデキる主婦を装っていた真希子だったが、実は家事を外注していたのだ。丁寧な家事能力を気に入られて契約が決まった家政婦、彼女の本名は村田杏子。御手洗家の前妻、皐月の娘だった。

 杏子は御手洗家に戻ってきた。13年前の真相を明らかにし“復讐”するために。彼女は火事に真希子がかかわっていると確信していた。家が炎に包まれたあの日、子供の頃の杏子は野次馬の中に興奮したような真希子の表情をみていたからだ。

 かつて皐月は「渡(真希子)さんとは親友」と言うほど仲が良かった。たびたび御手洗家を訪れ、皐月のしぐさや持ち物を真似するような真希子に、杏子は言い知れぬ不安を覚えていた。その不安が現実になったときはすべてが手遅れになっていた…。

 杏子は周到な計画を練り、行動していく。家事代行として家の中を調べ、証拠をみつけ、少しずつ真実に近づいていく。

 本作のポイントは、真希子側の視点でも描かれていることだ。打算的で強欲であることは明示され、息子とのやりとりからは、火事にかかわっていたことも明らかだ。しかし彼女はどうやって家を燃やし、どうやって治と結婚し、家を手に入れたのか。本当に真希子が真犯人なのだろうか。

 1巻、2巻はまだまだプロローグ。謎がひとつ解かれる。新たな謎が生まれる。予想は裏切られる。登場人物たちも味方になり敵にもなる。エピソードのラストには衝撃的なヒキも用意されている。読む手が止まらなくなること間違いなしなのだ。

もうひとつのテーマは炎上を恐れる女たちのリアル

 13年前に起こった火事の真相、その鍵を握っているであろう真希子。彼女は雑誌で読者モデルの仕事をしていた。セレブな暮らし、円満で順風満帆な家庭、これらをSNSで発信し“いいね”を集め、取材を受け、カリスマ主婦として登りつめていく。

 ただ真希子のデキる主婦感は虚構である。家事に時間を使えないため、家政婦を雇わなければならなかったほどだ。料理センスも並みかそれ以下である。自分に余裕がなく教養がない、そのことを自覚している。さらに夫とはすれ違いで、息子たちも問題を抱えていた。

 世間に事実が知られれば、間違いなくSNSの炎上は避けられない。そんなリスクを抱えつつも、真希子は自己顕示欲と承認欲求を満たしていく。せっかくシングルマザーから、医者の妻へと成り上がったのだから…!

 マウンティング合戦、中傷一歩手前のコメント、それを“ウォッチ”し陰口を発信するフォロワーたち。みんな、いつぼろが出て炎上するかを待ち望んでいる…。まさに地獄であり、実際のSNS上でもみられる光景だ。恐ろしい話だが、そんな地獄の業火の中で、他人に認められたい真希子のような人間たちは星の数ほどいる。

 野望に燃えつつ炎上を恐れる真希子と、彼女への復讐に燃える杏子。めまぐるしく変わるふたりの視点と心理戦に、思わず手に汗握ってしまう。多くの謎に満ちた、ふたりの対決から目が離せない。

文=古林恭