中東の子どもの日常をマンガで! シリアの小学校に入学した6歳児を迎えた衝撃的な生活とは?

マンガ

公開日:2020/4/21

『未来のアラブ人2 中東の子ども時代(1984-1985)』(リアド・サトゥフ:作、鵜野孝紀:訳/花伝社)

 第23回文化庁メディア芸術祭(2020年3月発表)のマンガ部門優秀賞を受賞した『未来のアラブ人』(花伝社)は、フランスで発行され、23か国語に翻訳されシリーズ200万部のベストセラーとなったバンド・デシネ(マンガ)だ。

 フランスで生まれ育ち、6歳でリビアを経てシリアに渡ったリアド・サトゥフさんの子ども時代がテーマで、その描写には一切の忖度がない。だから「えっ?」と思うシーンも多いものの、水木しげると吾妻ひでおに影響を受けたというだけに、その内容はとにかくシニカルかつコミカルだ。日本版は2019年7月に発行されたが、好評につき2020年4月に続巻『未来のアラブ人2 中東の子ども時代(1984-1985)』(リアド・サトゥフ:作、鵜野孝紀:訳/花伝社)が発売された。

 主人公のリアド少年は、プラチナブロンドのロングヘアにすまして優雅な佇まいから、2歳にして「完璧」だった。そんな彼はシリア人である父の都合で、カダフィ政権下のリビアと、ハーフィズ・アル=アサド政権下のシリアに移り住むことになる。

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 リビアでは入居するはずの家を他人が占拠していたり、シリアではイスラム教徒のいとこから「ヤフディ(ユダヤ人の意味)」と呼ばれてボコボコに殴られたりと、ハッピーな生活とは程遠い。そして時には「イスラムの伝統で不浄な生き物とされる」犬を、子どもたちがなぶり殺すのを見てしまうなど、日本に住んでいたら考えられないようなことが起こる。

 そんな6歳までのエクストリームな日常を1巻では描いていた。一方、2巻では7歳になり学校に通う日々を描いているのだが、これもまた容赦がない。たとえばヒジャブをまとう一方で、ミニスカートからムチムチの足をさらけ出す女教師は子どもたちを殴りまくり、親戚の未亡人の女性は義弟の子を身ごもったことで、父と兄に殺されてしまう…。シリアではいわゆる「名誉殺人」が、とても身近な場所にあるのだ。

 漫画家のヤマザキマリさんをして「この巻を読んだ後であれば、どんな星の宇宙人と遭遇しても私は決して驚かない」(本書帯より)と言わしめてしまうほど、エクストリームさに磨きがかかっている。

 しかし、本書の内容はただ恐ろしいとか、驚くとかばかりではない。リアド少年はやられっぱなしではないし、シリアでの日々には時に笑いもある。また彼が出会うイスラム圏の人たちは表情も行動もとても豊かで、戒律に縛られた窮屈なことばかりの世界ではないとよくわかる。中でも子どもたちは皆、1人1人の個性が際立っている。

 リアドさんに以前インタビューした際、なぜ子どもの目線で周りの人を描くのかを聞いたことがある。その際彼はこう答えてくれた。

“私は日本が大好きです。フランスにはない集団意識を感じることができます。来日した際は、子どもが好きなように遊んでいるのを見るのが好きでした。日本では、子どもの想像力やありあまるエネルギー、言わば「子どもらしさ」を大切にしていると感じます。それが、日本人が大人になると規則正しく振る舞えるようになる理由のひとつのように思います。世界を子どもの目線で見ることは重要です。学ぶことが多い。どの大人もかつては子どもだったわけで、子どもの背丈から見える世界を提示することは、その世界をより身近に感じさせ、時に忘れていたものを思い出させてくれるのです。幼年期とは、自分は何でもできると思える、人生の中でも貴重な時期です。外の世界を知り、さまざまな感情を覚えていく頃、そんな子どもの目線で世界観を構成することで、大人の世界の不条理や矛盾を純粋な形で見せることができるのです”

 そしてシリアでは犬を虐待するのはよくあることなのかと聞いたら、

“シリアでも動物好きはいると思います。ただ、田舎の人間が粗暴なことも確かです。続巻ではフランスの田舎もそれほど変わらないことを描いています。『未来のアラブ人』はまだまだ続きます。6巻まで描くつもりです!”

 とも語っていた。
 そんな日本大好きなリアドさんは自身のSNSに、新型コロナウィルスの終息を願ってアマビエのイラストをアップしている。

https://twitter.com/RiadSattouf/status/1243116388874584064

 水木しげるにインスパイアされたそれは、かわいらしくもちょっとだけセクシーだ。日本とフランスを自由に行き来できる日が、1日も早く戻ることを願いつつ、それまでは同書でリビアとシリア、そしてフランスのリアルな生活史を学んでおきたいと思う。

文=朴順梨