「自分探し」で迷走しないために。澤村伊智×大木亜希子が語る「自分の仕事の探し方」

文芸・カルチャー

公開日:2020/4/26

――澤村さんは今年の10月でデビュー作刊行から5年を迎えます。こういった地点までたどり着こうといった目算はあったのでしょうか?

澤村:ぼんやりと「5年は生き残ろう」と思っていたくらいで、確固たる目標はなかったんですよ。デビュー作の授賞式で作家界の先輩方から「ぜひ続けてください」と言われました。「作家の世界では半数が2作目以降を出せない。5年で9割がいなくなるし、10年後には…」と生き残る厳しさを教えていただいたんですよね。


 やはり続けるのが一番難しいし、続けていなければ傑作も生まれない世界なので、この先まで決めるというのはなかなか…。でも、自分なりに書きたい作品があるし、来た仕事を受けているうちに固まってくるかもしれないから。

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大木:やはり、常に「次はどうする?」と考えてしまいますよね。私はまだキャリアが浅いので、下手でもやり続けようと。実は今日も頭をかきむしりながらプロットをまとめてから、やっとこの場に来たほどなので(笑)。でも、「物語を作れなければ作家とは名乗れないかも」と葛藤を覚えつつも、ライターとしてインタビューなど別の手法で作品をまとめる方法もあるとも思っているんです。


 それってある種の逃げなんじゃないかと頭をよぎる瞬間もありますが、自分なりにどん底からここまで這い上がったつもりではあるし、かつてのようにバイトを張り切ったりとか、食い繋ぐ手段はいくらでもあるから…生きる上での不安はありません。

――大木さんのおっしゃった「バイト」のように、澤村さんが万が一、作家のお仕事が途切れた場合のセーフティネットはあるのでしょうか?

澤村:いや、ぜんぜん考えてないですね。もはや「退路を断ちまくり」だし、とにかくやるしかないの一心でいます。ただ、以前フリーランスのライターだった頃と比べれば、今の方が未来に希望を持っているかもしれません。

 ライター時代も楽しかったし、締め切りや書かなければいけないボリュームのしんどさはあったけど、「もっと頑張ればもっと稼げる」と考えれば気楽だったんです。今は、“楽しむ質”が変わってきた。

 作家は読者から「おもしろい」と思ってもらえるような作品を提供するのが仕事です。でもその正解は誰にも分からない。小説を作り上げるうえで編集者も展開についてのアドバイスはしてくれるけど、最終的な答えを持っているわけではないので、どれほど作品数を出していても、迷う場面は多々あります。それ自体が醍醐味なのかもしれません。