【宇垣美里・愛しのショコラ】ボンボンショコラで未来を占う/第4回

小説・エッセイ

公開日:2020/5/1

宇垣美里・愛しのショコラ

 ああ、疲れた。今日はことごとくついてなかった。

「お茶淹れてもらってもいい?」
 自分の飲み物くらい自分で淹れろ。いつから水回りが私の仕事になったんだ。令和だぞ。私が眉間にしわ寄せて必死に貴方の雑な数字の尻ぬぐいしてるの見て分かりませんか。頼むならせめて目をみて頼め。

「女の子には少し難しいかな?」
 ご存じですか私の得意科目は数学だということを。その女の子は数字に弱いみたいな固定概念を捨ててくれ。はあ?って顔したら怖い~とかきゃっきゃいうのもやめてくれ。私はもう無駄なことで怒って気力を消耗したくないんだ。

「まあ、次頑張ればいいから」
 じゃないよ頭撫でるな。プライベートゾーンに入ってくるんじゃない。少し顔が整ってるからって調子に乗るな。イケメンだろうがなんだろうが、人様の体を触れるときは相手の了解を取ってから。小学校で習わなかったのか。

「私を舐めているのか!」
 あ~も~、自分の言ってることが間違ってるって気づいて引っ込みつかなくなったのは分かったから、一番弱そうに思える相手に当たらないで。私はあなたのサンドバックじゃない。ものすごく理不尽なことを言っているって気づいて。あなたこそ私を舐めているのか。

 もう十分だ。くったくたに疲れた。せめて栄養を取ろうとふらふら入ったコンビニ。どしんと何かにぶつかって「すみません!」と大声で謝ったらペットボトルのケースだった。あんまりだ。目を上げた先、壁面の鏡に映る情けない顔は青白い光をうけてまるでゾンビみたい。もう耐えられない。