【宇垣美里・愛しのショコラ】ボンボンショコラで未来を占う/第4回

小説・エッセイ

公開日:2020/5/1

 泣いてしまいそうになるのをぐっとこらえて、閉店間近の百貨店に駆け込んだ。向かうは洋菓子コーナー。可愛く高級感あふれる箱に入っているのは、ガナッシュやキャラメル、コンフィチュール……さまざまな風味のセンターを含んだボンボンショコラ。洗練されたシンプルな立方体が、まるで食べる宝石のような美しさを醸し出すフランス式に、ひとつひとつ個性的な形でまるでおもちゃみたいにユニークなベルギー式、どちらも絶対に外せない。よし、違うブランドでひとつずつ買っちゃおう。間違いなく美味しいものが入っているこのボックス、私にとっては宝箱に等しい。

宇垣美里・愛しのショコラ

 ボンボンショコラのお供にイギリス土産でもらった薫り高い紅茶を丁寧に淹れる。もちろんティーカップから温める。疲れてるけど、もう寝っ転がって食べたいけど、もうひと踏ん張り最高の空間を作ることが、後の満足につながるから。

 専門店で買った由緒正しいボンボンショコラには丁寧な説明書がついているけど、こんな時はあえて読まない。どうせ全部食べるんだもの。フォーチューンクッキーみたいに、食べるまで中身はお愉しみにとっておこう。紅茶で一服したら、一口サイズの宝石をぱくり。口に含むと外側のチョコレートがぱりりと溶けて、中身がとろけだす。これはきっとピスタチオ、次はミルクチョコレート……ああ、至福の時。体の芯で凝り固まった不機嫌の元がふわりと成仏していくのを感じる。全部美味しいってことは、全部当たりだ。私はどうやら引きがいい。

 今日は嫌なこともあったけど、働くことは辛くないわけじゃないけれど、こんな素敵なチョコレートを自分で、買うことができる。それは何よりも幸せなことのように思うのだ。美味しいボンボンショコラと温かい紅茶でこんなに丁寧な時間を過ごせる私はきっと大丈夫。明日からもヒールをならして戦いに行ける。
 ただひとつ、宝石のようなボンボンショコラが食べると溶けてなくなってしまうことだけが、不満。

【筆者プロフィール】
宇垣美里(うがき・みさと)
兵庫県出身。2019年3月にTBSテレビを退社し、4月からフリーのアナウンサーとして活躍中。チョコレートのほか、無類の旅好き、コスメ好きとしても知られる。週刊誌、WEBサイトでコラムやエッセイなど多数連載中。19年にはファーストフォトエッセイ「風をたべる」を刊行。

撮影=中村和孝(まきうらオフィス)/ヘアメイク=AYA(LA DONNA)/スタイリスト=小川未久(宇垣さん衣装)、片野坂圭子(雑貨)/編集協力=千葉由知(ribelo visualworks)