【ステイホーム週間】薬剤師からも絶賛の『アンサングシンデレラ』ほか知られざるお仕事マンガ3選!

マンガ

更新日:2024/12/2

新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛が続く中、ダ・ヴィンチニュースがおすすめする「おうち時間充実!」のための読書・エンタメをお届けします。STAY HOME週間も本・エンタメで楽しく充実させましょう!
《以下の記事は(2019年1月)の再配信記事です。掲載している情報は2019年1月時点のものとなります》

 自分の半径5メートル内には存在していない、あまり知らない世界。その一端に触れることができるのが、マンガを読む楽しみのひとつだ。その描写がリアルであればあるほど、読者は未知の世界に引きずり込まれ、追体験することができる。そして、こう思うのだ。こんな世界があるなんて知らなかった、と。

 なんだか大仰な言い方をしてしまったが、要するに、知られざるニッチな世界を垣間見るのは面白いということ。それができるマンガって、素敵だよねってことだ。

 そこで今回紹介したいのは、これまであまりマンガで取り上げられることのなかった“職業”をテーマにしている作品。どれも職業自体は知っているとは思うが、そこで働く人たちの苦悩や葛藤、喜びについて深く知る機会は少ないのではないか。ここから紹介する作品を手に取って、知られざる世界に触れてみてもらいたい。

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■常に時間に追われる「印刷所」で働く人々の日常

『新刊、刷り上がりました!』(藤峰式/KADOKAWA)

 出版業界を舞台にした作品は数多くある。編集者や作家、デザイナーなど、そこで活躍するのは華々しいイメージを持たれがちな人たち。しかし、彼らと並んで非常に大事な存在がいる。それが「印刷所」で働く人たちだ。この『新刊、刷り上がりました!』(藤峰式/KADOKAWA)は、そんな印刷所の営業マンを主人公に据えた作品である。

 新人の子撫川は、幼い頃の職場見学を機に、憧れの印刷業界へと足を踏み入れた新人営業マン。その仕事ぶりは、まだまだスムーズとは言えない。けれど、そんな子撫川に大きなチャンスが舞い込む。それが「月刊ジェンガ」の担当異動だ。子どもの頃から大ファンだったマンガ誌の担当に着任し、大喜びする子撫川。ただし、そこから印刷所の過酷さを痛感していくことになるのだが……。

 印刷所は、言わば最後の砦だ。ぼくらが雑誌やマンガを読むことができているのも、彼らが刷ってくれているおかげ。けれど、その舞台裏は非常にドタバタ。常に〆切ギリギリの進行スケジュール、徹底的に色味にこだわる作家の存在。彼らはそういったものと闘い、調整を重ね、なんとか紙媒体を世に送り出してくれているのである。彼らにはもう足を向けて寝られない……!

■有資格者の著者が描く、トリマーの世界とは?

『あたしとハサミは使いよう』(みやうち沙矢/講談社)

 ペットを飼っている人にとっては身近かもしれないが、そうでない人からすればなかなか接点を持ちづらい職業「トリマー」。“犬の毛先をカットする人たち”なんて雑なイメージを抱いている人も少なくないだろう。『あたしとハサミは使いよう』(みやうち沙矢/講談社)は、そんなトリマー業界を描いた少女マンガだ。

 主人公の海夏は、女子高生でありながらも史上最年少でA級トリマーライセンスを取得した凄腕。かわいらしい見た目も相まって、日々雑誌やテレビの取材で取り上げられている人気のトリマーである。そんな海夏の自宅サロンに突然やってきたのが、幼馴染の大学生・浩ちゃん。そして、彼が「トリマー修行のために一緒に暮らす」と言い出したことで、海夏の日常は大きく変わっていく。

 本作はラブコメなので、海夏と浩ちゃんの恋模様がテンション高めに描かれていく。その一方で特筆すべきなのが、トリマーとして働く海夏の描写。カットトラブルの回避法や暴れだした犬の対処法などは、実にリアル。それもそのはず。著者であるみやうちさんは、トリマーの資格を持っている作家なのだ。現在は「コミックウォーカー」にてドッグトレーナーを主人公にした『DOG SIGNAL』(KADOKAWA)を連載していることからも、その犬への知識量が本物であることがわかるだろう。

■医師や看護師の陰に隠れた、薬剤師たちの葛藤

『アンサングシンデレラ 病院薬剤師 葵みどり』(荒井ママレ:著、富野浩充:医療原案/徳間書店)

 最後に紹介するのは、「薬剤師」を主人公に据えた作品、『アンサングシンデレラ 病院薬剤師 葵みどり』(荒井ママレ:著、富野浩充:医療原案/徳間書店)だ。

 誰だって、一度は薬剤師と接したことはあるはず。けれど、どこかその存在を軽視していないだろうか。医師や看護師に対しては敬意を払い深い感謝の念を覚えるのに、薬剤師に対してはそこまでしない、という人が多いと思う。

 本作の主人公である新米薬剤師の葵みどりも、自身の存在に疑問を抱いている。医師のように頼られるわけでもなく、看護師のように親しまれることもない。自分の存在は、本当に重要なのか……。みどりはそんな苦しい想いを抱きながらも、生命の現場の最前線に立っている。

 ただし、本作はそういった葛藤を描くだけで終わってはいない。みどりはちょっと猪突猛進なところがあり、患者の様子を見て気がついたことがあれば、物怖じせず医師に意見を述べたりもする(それゆえに、疎まれてしまいがちなのだが)。そして、それが患者を救うきっかけになっていくのだ。

 本作は“薬剤師の目線”が存分に活かされた、一話完結の医療モノ。みどりがメスを握ることはないが、頭に叩き込まれた薬の知識をフル活用して、患者に起こった異変を解決していくさまはまるでヒーローのよう。それと同時に、あらためてぼくらに「薬剤師の存在の重要性」を訴えかけてくれる。

 また、みどりが抱く葛藤は、社会人の誰もが抱く悩みにも通ずるところがある。会社における自分の立ち位置、存在意義、やるべきこととそうでないこと。ぼくらは日々、そういった小さな迷いにぶち当たり、一進一退をくり返している。けれど、みどりは現在地に留まろうとはしていない。ときには否定され、上から押さえつけられながらも、どこまでも真っ直ぐに突き進もうとする。その姿は、まさに悩める現代人の背中を押してくれるはずだ。

 今回ピックアップした作品はほんの一部。マンガのなかには、まだまだ知られざる世界を描いた作品がたくさん存在する。人知れず苦悩し、頑張り続けている彼らの姿からは勇気がもらえるだろう。そしてやはり、ニッチな世界を垣間見るのはとても有意義な読書体験だ。

文=五十嵐 大

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