近場の意外な博物館! 本を見ているだけも楽しい身近な「企業ミュージアム」
公開日:2020/10/11
小生は暇があると横浜駅東口にある「日産自動車(株)グローバル本社」に併設のギャラリーへ向かう。日産が販売している数々の自動車に触れられるし、懐かしい旧車たちの姿も拝めるからだ。PRのために開いているので、入場無料なのだから財布を気にしなくても良い。世の中には、こんなに趣味と教養を深められる場所が他にもまだまだ沢山あるのだ。
『行きたい!企業ミュージアム』(イカロス出版)は日本全国にある企業ミュージアムを106か所厳選し紹介。全国に名の知れた馴染みの企業や、地域に根差した企業など個性がどれも光る。また、現地でしか買えないお土産を特集したコーナーも掲載。ユニークな逸品が揃い、ミュージアムの楽しさを具現化しているかのようだ。
個人的に注目なのは、本書では2番目に紹介される神奈川県川崎市の「東芝未来科学館」。その名の通り大手家電メーカーである東芝のミュージアムで、そのモノづくりの歴史と最先端技術を子供たちにも分かりやすく伝える展示だ。中でも1978年に発表された世界初の日本語ワードプロセッサ「JW-10」に小生は惹かれている。事務机にディスプレイが乗りキーボードとプリンタと8インチフロッピーディスクドライブが組み込まれている姿は実に圧巻。
小生が初めてワープロに触れたのは90年代初めで、既に家庭用ワープロはコンパクトになり、小生が文章を書き始めた愛機はデスクトップ型だが、市場にはラップトップ型も多かった。もう30年ほど前の話であるが、それが無ければこうして物書きをしていなかっただろう。悪筆な人間も、家庭で人様に読ませるように印字でき、且つ自在に編集できるマシンは、自分の可能性を広げてくれたと思っている。その始祖を拝めるのは、やはり興奮するものだ。
かつて「モノづくり大国」と言われた日本を象徴するように、大手メーカーはその歴史と最新技術を誇るべくミュージアムを開設しているが、製造業以外でもPRのために開設している企業も少なくない。その一つが東京都中央区にある「東証Arrows」だ。経済ニュースでお馴染み「株式会社東京証券取引所」の施設で、その2階から巨大なガラスシリンダー内で行われる証券取引の最前線も見学できる。
ただ実際、現在の取引の様子はディスプレイとの睨めっこのように思え、イマイチ盛り上がらないかもしれない。だが他にも過去のあらゆる株券や証券、明治から大正にかけて使用された取引開始を告げるハンドベル、また立会場で使われた専用電話などが展示されており、日本の経済を取引で支えてきた証券会社の歴史を感じられるだろう。さらに対戦ゲーム形式で株式売買を体験できるコーナーもあり白熱だ。
本書はミュージアムだけでなく、それを持つに至る企業の創業者もピックアップして紹介。現在も飲み継がれている「カルピス」の生みの親「三島海雲」や朝ドラで脚光を浴びた「ニッカウヰスキー」の「竹鶴政孝」らの偉業を知ってほしい。更に視点を変えて大学ミュージアムも紹介。企業だけでなく、大学も自前で開設しているのだ。中でも明治大学の「明治大学博物館」が有名か。内部は「商品」「刑事」「考古」の3部門に分かれ、特に「刑事」では犯罪に関する資料は勿論、拷問器具の展示が話題だとか。
なお「東芝未来科学館」「東証Arrows」では現在、新型コロナウイルス感染防止の観点から、見学を一時中止している。「明治大学博物館」は臨時休館していたが、10月12日より、明治大学の学生及び教職員を対象に公開を再開。他のミュージアムでも同様の措置が取られている場合があるので、見学前に一度公式サイトなどで確認してほしい。
また今年、横浜には新しい企業ミュージアムが誕生した。「京浜急行電鉄」本社1階に設けられた「京急ミュージアム」である。昭和初期の実物車両が展示され、ジオラマや運転シミュレーターも盛況だ。各地にある企業ミュージアムは、地元に根差した展示も多い。読んでいるだけでも見学の醍醐味が味わえる本書だが、見学の受け入れをしているミュージアムや休館があけた折には、各施設のガイドラインに気を付けつつ、我が街を盛り上げる存在でもあるミュージアムに足を運んでみてはいかがだろうか。
文=犬山しんのすけ