【ステイホーム週間】“最恐イヤミス小説”5選

文芸・カルチャー

更新日:2020/4/30

新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛が続く中、ダ・ヴィンチニュースがおすすめする「おうち時間充実!」のための読書・エンタメをお届けします。STAY HOME週間も本・エンタメで楽しく充実させましょう!
《以下の記事は(2019年4月)の再配信記事です。掲載している情報は2019年4月時点のものとなります》

 読後に余韻が残る小説を知りたい…。そう思っている方におすすめなのが、人間の心の奥にあるドロドロとした感情を巧みに描いたイヤミス小説。イヤミスとは、読んでいて嫌な気分になったり嫌な結末を迎えたりするミステリー小説のこと。そこには綺麗ごとゼロな人間の本質が詰まっている。本稿では時間をかけてじっくり読みたい、おすすめのイヤミス小説をいくつかご紹介! あなたもきっと、ページをめくる手が止まらなくなるはずだ。

■「東電OL殺人事件」をモチーフに! 女の孤独と見栄が詰まったイヤミス小説

『グロテスク』(桐野夏生/文藝春秋)

『グロテスク』(桐野夏生/文藝春秋)は1997年に起きた「東電OL殺人事件」をモチーフにしており、女性が抱く“美への執着心”を巧みに表現した作品だ。主人公の「わたし」は日本人の母とスイス人の父の間に生まれた、平凡な女性。だからこそ、おぞましいほど美しい妹・平田百合子を徹底的に忌み嫌う。そんな百合子は悪魔的な美貌を持つニンフォマニア。やがて売春をするようになり、中国人の男に殺されてしまう。姉妹間の確執や女同士ならではの嫉み、見栄を圧倒的な表現力で描いた本作には、恐ろしくて切ない女の孤独が詰め込まれている。

■衝撃のラストに驚愕! 「娘はこのクラスの生徒に殺されたのです」

『告白』(湊かなえ/双葉社)

 デビュー作でありながら、「週刊文春ミステリーベスト10」1位、本屋大賞1位を受賞した『告白』(湊かなえ/双葉社)は、2010年に松たか子主演で映画化もされた王道イヤミス小説。「愛美は死にました。しかし事故ではありません。このクラスの生徒に殺されたのです」――物語は、一人娘を校内で亡くした女性教師のこの告白から、幕を開ける。そこから語り手が「級友」「犯人」「犯人の家族」と変わり、次第に事件の全体像が明らかになっていくのだ。衝撃的なラストにたどり着いた時、読者は言いようのない後味の悪さを噛みしめることになるだろう。

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■一家惨殺事件を生き延びた少女が伝説の殺人鬼に…

『殺人鬼フジコの衝動』(真梨幸子/徳間書店)

 50万部を超えるベストセラーとなった『殺人鬼フジコの衝動』(真梨幸子/徳間書店)は、ラストの一行にゾクっとさせられるサイコサスペンス。主人公は、十数人を殺害した伝説の殺人鬼・フジコ。彼女は10歳のときに起こった一家惨殺事件のただひとりの生き残り。事件後、フジコは新たな道を歩み始めようとしたが、いつしか人生が狂い始め、伝説の殺人鬼と呼ばれるまでになってしまった。本作ではフジコが殺人鬼になってしまった理由があとがきにまで、緻密にちりばめられている。あなたは著者が仕掛けた最恐なたくらみに、いくつ気づけるだろうか。

■イヤミスの域を越えた! 人間の恐ろしさが分かるオゾミス小説

『スイート・マイホーム』(神津凛子/講談社)

 第13回小説現代長編新人賞を受賞した『スイート・マイホーム』(神津凛子/講談社)は、イヤミスの域を超えたオゾミスなストーリー展開がたまらない1冊。主人公の賢二は寒がりな妻と愛娘のために、1台のエアコンで家中を暖められる「まほうの家」を購入。しかし、その家に引っ越した直後から奇妙な現象が…。我が家を凝視したまま動かない友人の子どもや赤ん坊の瞳に映るおぞましい影、住宅関係者の不可解な死。それらが起こるのは、“この家に何かがいる”から。一番怖いのは幽霊ではなく、人間。そう訴えかける本作のラストページは必見だ。

■「おとうさんはおかあさんが殺しました」生き残った娘が語る“鬼畜の家の実態”

『鬼畜の家』(深木章子/単行本:原書房、文庫:講談社)

「我が家の鬼畜は、母でした」――そんな告白に惹きつけられる『鬼畜の家』(深木章子/単行本:原書房、文庫:講談社)は元弁護士である著者だからこそ書けた、リアリティのあるイヤミス小説。唯一生き残った末娘の口から語られる、保険金目当てに次々と家族を手にかけていく母親の残酷さは圧巻。母親が行った巧妙な殺人計画や殺人教唆、資産収奪といった異常犯罪に読者は思わずたじろいでしまう。しかし、ストーリーが進むと意外な真実も見えてくる。なお、本作は『衣更月家の一族』、『殺意の構図』といったシリーズ続編も刊行されているので、そちらも要チェックだ。

 人間は誰しも、心に闇を抱えている。その闇を巧みに表現しているイヤミス小説は、人間くささが存分に楽しめるジャンルでもある。人間の芯が露わになっているイヤミス小説に触れれば、この世で一番ズルい“ヒト”という生き物が、どうしようもなく愛おしくも思えてしまうだろう。

文=古川諭香