小さなことで悩んでしまう自分がイヤ…というときは? 【連載】敏感すぎる自分を好きになれる本①
更新日:2020/6/16
ちょっとしたことで過敏に反応してしまう…それは性格ではなく、性質のせいかもしれません。何事にも敏感に反応しすぎてしまうのが「HSP(Highly Sensitive Person)」の性質。
神経質、傷つきやすい、引っ込み思案…そういったことで生きづらさを感じている方向けに、気持ちがラクになれるヒントを医師が紹介します。『「敏感すぎる自分」を好きになれる本』(長沼睦雄/青春出版社)からの全6回連載です。
はじめに――
些細(ささい)なことに敏感に反応してしまう……そんな自分に困っていませんか?
些細(ささい)なことに敏感に反応してしまう……そんな自分に困っていませんか?
世の中には細かいことを気にせず、好奇心が旺盛で怖さ知らずな人がいるいっぽうで、小さなことを気にしてしまい、ちょっとしたことに敏感に反応してしまう人たちがいます。
話し相手の口元がほんの少し曲がっただけで、相手の心の中にある小さな不快感をそこから感じ取って動揺してしまったり、ちょっとしたことにとてもびっくりしてしまったり……。
本書を手に取ってくださったあなたも、おそらく、些細なことによく気づく、繊細で、敏感な神経の持ち主なのだと思います。そして「小さなことに気がついてしまう過敏な神経」に振り回されてしまい、疲れ果てたり、自分を責めたりしているのではないでしょうか。
実は、このように「小さなことを気にしてしまう」のは、性格の問題ではなく、「HSP」という生まれ持った気質が原因となっているのです。気質と性格はよく混同されがちですが、異なります。気質とは、動物が先天的に持っている刺激などに反応する神経特性であり、性格は気質からつくられる行動や意欲の傾向のことを指します。
アメリカの心理学者、エレイン・N・アーロン博士もまた、とても繊細で、非常に敏感な神経の持ち主でした。そのアーロン博士が自身の性質を探り、そして、さまざまな調査や研究を重ねた結果、見い出したのがHSPという心理学的概念です。HSPとは、「Highly Sensitive Person」の略。日本語に訳せば「とても敏感な人」となります。
アーロン博士の研究から、国や人種を問わず、どの社会にも15〜20%の割合でHSPがいること、さらに、HSPは環境などによる後天的なものというよりは、生得的な気質だということ、そして、ひと口にHSPといっても、その敏感さの内容や程度には幅があり、人によって異なることがわかっています。
敏感さが人間関係などにおける共感性に対して発揮される人もいれば、敏感なセンサーで周囲の出来事や食事に関する変化を鋭敏に感じ取る人もいるのです。
HSPは、些細な刺激にも敏感に反応してしまうため、日々の生活のさまざまな場面で、非HSPであれば気にならないようなことにも過剰に反応してしまい、疲れやすさを感じることがあります。その敏感さゆえに、多くのストレスやトラウマを抱え、生きづらさを感じることが少なくないのです。
また、世の中には圧倒的に非HSPのほうが多いわけなので、HSPは「自分よりも鈍感な人たち」に取り囲まれ、そのルールの中で生きなければなりません。
しかも、その非HSPの中にはHSPを「神経質で、何事にも細かすぎて、気が小さくて、臆病」と思っている人もいるでしょうし、このような周囲の無言の批判を無意識に感じ取ってしまうのが、HSPの特徴です。そのため、多くのHSPは自分を「皆とは違うおかしな人」のように感じて、自分を肯定できずにいます。
けれど、HSPの敏感さは弱さでもなければ、異常でもなく、生まれ持った気質だったのです。「気にしない」でいられない自分を「ダメな人間だ」「もっと普通にならなければいけない」と、むやみに自己否定する必要はありません。
実はHSPという概念は、日本の医学界ではまだ知られていません。
それでも私はこれまで、診療時にHSPという概念を使ってきました。それは、この概念を使うことで、医学の病気や障害の概念では把握できなかった患者さんの本質を言い表すことができるようになったからです。
本書では、まだ十分に知られていないHSPについて、より詳しく知っていただきたいと思っています。「自分は敏感ではない」と思っている人の中にも、実はHSPであり、その性質に気づいていない人も多いのです。HSPは病気ではありません。
そして、その敏感さの程度や内容は人によってさまざまです。そのため、その性質をよく知り、うまくつき合うコツをつかむことで、ありのままにラクに生きていくことができるようになります。
第1章、第2章では、HSPの特徴や現れ方を、脳や自律神経の働きなどと絡めて詳しく見ていきます。
第3章、第4章では、敏感さゆえに反応しすぎて疲れてしまう「生きづらさ」をどのように軽減すればよいのか、さらには敏感すぎる自分の特徴を生かすにはどうすればよいのか、その方法についてじっくりご紹介します。
最後の第5章では、非HSPの方が、HSPとどうつき合えばよいのかを考えてみました。
とくに、HSPのお子さん(HSC= Highly Sensitive Child)を持った非HSPの親御さんや、HSCと触れ合う機会がある非HSPの先生方は、子どもにどう接したらよいのか困惑していらっしゃることでしょう。HSP/HSCとのつき合い方のヒントをまとめた第5章は、HSCを持った親御さんや先生の役にかならず立つはずです。
本書によってHSPへの理解が深まり、敏感さは煩(わずら)わしいものではなく、すばらしい才能であるということを認識していただけたら、そして、ちょっとした心がけやコツを知ることで、疲れやすさや生きづらさを解消していただけたら、著者としてとても有難く、うれしく思います。
十勝むつみのクリニック院長 長沼睦雄