「頑張って働かせていただきます」を司馬遼太郎の言葉で言い換えると…/文豪のすごい言葉づかい辞典④

文芸・カルチャー

公開日:2020/6/2

夏目漱石、太宰治、三島由紀夫など、文豪の語彙を解説。手紙、メールで使えば、より気持ちが伝わりやすくなる“すごい言葉づかい”が身につきます。文豪ならではの深い教養とあわせて、絶妙な言い回しを学びましょう。

『文豪のすごい言葉づかい辞典』(山口謠司:監修/宝島社)

画/ハコ

昭和の歴史小説の第一人者である司馬遼太郎。引用は新選組の土方歳三を描いた『燃えよ剣』から。映画やTVドラマにもなっている、司馬遼太郎の代表作。

爪牙となる

意味:忠実な臣下。攻撃のための武器。

よくある言い方:「頑張って働かせていただきます」

絶妙な言いまわし:「爪牙となって働く所存です」

司馬遼太郎『燃えよ剣』より
新選組のそもそもの結盟趣旨は攘夷にあった。ところが世上のうわさには、幕府の爪牙に堕しているという。爪どころか、幕臣に取りたてられるといううわさがある。

自分の忠誠心を存分に表す言葉

 企業の面接などで、「会社の爪牙となって働く所存です」といえば、相手はその決意のほどと教養に驚くことでしょう。「爪牙」とは、主のために勇猛に戦う忠実な臣下のことです。

 爪と牙といえば、攻撃のための武器で、獰猛さを表す印象がありますが、本来は臣下という意味でのみ使われるものでした。

 今から1900年ほど前に編纂された『漢書』には、「将軍は、国の爪牙である」とあります。国の手足となり働く、忠実な家臣ということです。一方、明治に入ると、獰猛さを表す言葉として使われるようになります。尾崎紅葉の『金色夜叉』にも、「彼は忽ち爪牙を露し」とあります。言葉の意味は、時代につれて変わっていくものなのです。

 また、自分のことを「爪牙」というのはいいのですが、他人に「会社の爪牙ですね」とはいわないようにしましょう。「あなたは会社の道具にすぎない」という侮蔑の意味を含んでしまう可能性があります。

<第5回に続く>