「伝わる、わかりやすい、心に残る」短い文こそ名文! “文章を短くする”には…?/めんどくさがりなきみのための文章教室⑥
公開日:2020/6/3
めんどくさがりな人ほど、文章の才能がある――。著書累計510万部以上の作家はやみねかおる初の実用書。 だれでも文章が上達する方法を、ぽっちゃり猫が小説形式で楽しく教えます。作文、メール、レポートから小説まで、これ1冊で文章がみるみる上達するはず!
「表現力がある人」がこっそりやっていること
伝わる、わかりやすい、心に残る。短い文こそ、名文!
またまたまた、困った状況だ。
ぼくは、真っ白の便箋を前に、腕を組む。そろそろ1時間ほど、この姿勢で固まっている。
「また、ラブレターを頼まれたのかい?」
昼寝から目を覚ましたダナイが、話しかけてくる。
「田舎のおばさんから、図書カードをもらったんだ。そのお礼の手紙を書くように言われたんだけど、なんて書いていいかわからなくて……」
「ふむ」
のっそり起き上がったダナイが、爪の先にインクを塗って紙に『?』と書いた。
「フランスの小説家、ヴィクトル・ユーゴーは、自分の本の売れ行きを出版社に訊くのに手紙を書いた。その手紙には、『?』の1文字が書かれていたんだ。そして、出版社からの返信には『!』と書かれていた。つまり、『本は売れてますか?』『とても売れてますよ!』というやり取りだったわけだ」
ペラペラと話すダナイに向かって、ぼくは溜め息をつく。
「それが、お礼の手紙を書くのに困ってるぼくに、何の関係があるんだい?」
手紙に関して、もう1つ有名な話をしてあげよう
いや、それより、手紙の書き方のトレーニングをして欲しいんだけど……
この話は、今の健には必要な話だと思うよ。それは、『忙しいから短い手紙が書けない』と、手紙に書いた人の話だ。書いたのは、フランスの天才、ブレーズ・パスカルだ
パスカルって、『人間は考える足である』って言った人だろ?
大きく間違っている。本当は、『人間は考える葦である』だからね
でも、妙なことを言う人だね。『忙しいから長い手紙が書けない』を言い間違えたんじゃないのか?
パスカルが言いたいのは、短くてわかりやすい手紙を書くのには、時間がかかるといいたいんだよ。というわけで、今回のトレーニングは、短い文章の書き方だ
あの……手紙の書き方は?
短い文は、文章の基本。
この場合の“短い文”は、“1つの文が短い”ことと“文章全体が短い”ことをあわせて言っている。
短い文にしようと思うと、本当に書きたいことしか書けない。また、主語のあとにすぐ述語が来るので、意味が伝わりやすい。短い文を書くことを、意識しよう。
でもさ、短い文を書くなんて、簡単だろ?
それは、素人が、剣豪が刀を振るのを見て『自分にもできそうだ』と思うのと同じだよ。簡単そうに見えて、なかなか難しいんだ。試しに今日の日記を書いてみなよ
今日は、体育でバスケの試合をした。ぼくらのチームは、4試合して2勝1敗1わけだった。1試合目はバスケ部員のいるチームとの試合で、勝てなかった。2試合目はバスケ部員はいなかったけど、運動神経のいいやつらが集まっていて、引きわけだった。3試合目と4試合目に勝てたのは、敵のミスと、ぼくが打ったスリーポイントシュートが入ったからだ。みんなは、まぐれだと言うけど、ぼくが放課後にスリーポイントシュートの練習をしていたことを、みんなは知らない。そのあとの給食の鶏肉のチリソースは、とてもおいしかった。
ダメだ……。今まで、いろんなことを見つけて書くトレーニングを受けてるから、短い文で書くのができなくなってる
いろんなマズイところはあるけど、何を書くか決めきれていないのが最大のミスだね。健が書きたかったのは、バスケの試合で活躍したことかい? それとも、鶏肉のチリソースがおいしかったことか?
そりゃ、バスケの方だよ
だったら、最後の文『そのあとの給食の鶏肉のチリソースは、とてもおいしかった。』は、カットした方がいい。もしくは、『そのあとの給食は、とてもおいしかった。』だけでいい
なるほど
バスケでの活躍を中心に書くのなら、前半部分の構成をやり直さないといけないね
短い文は、何を中心に書くかを、しっかりつかまないといけない。
じゃあ、こんな風に書き直そう
今日は、体育でバスケの試合をした。1勝1敗1わけで迎えた第4試合。ぼくのスリーポイントシュートで勝つことができた。みんなは、まぐれという。でも、彼らは知らない。ぼくが、放課後にスリーポイントシュートの練習をしていたことを――。
そのあとの給食は、とてもおいしかった。
これなら、ぼくの努力で試合に勝ったってことが、とてもよくわかる。名文だ
ちなみに、放課後の練習は、何日ぐらいやったんだ?
2日だったかな
……やっぱり、まぐれだと思うよ
大切なのは、本当に書きたいことを丁寧にわかりやすく書くこと。
図書カード、ありがとうございました。
中学生になって勉強の量も増え、参考書や問題集も必要になってきます。
そのとき、いただいた図書カードを使わせてもらおうと思います。
うん、これなら、おばさんも『プレゼントしてよかった』と思ってくれるだろうね
文章を短くするだけで、読みやすい文章になる
わかりにくい文章は、短くするだけでも美しい文章になる。
長い文を短くちぎろう
長い文章を短くする
1つの文章が長くなると、何が言いたいのかわかりにくい
「、(読点)」を使うと長い文章が書けるけど、読みにくい。
「、」を「。(句点)」に変えて、文章の終わりを整えると、短い文に改造できる。