なぜ騙されてしまうのか!? フェイクニュースが世界史を作っていた
公開日:2020/6/13
「新型コロナウイルス」が世界中で猛威をふるい、誰もが先の見えない不安に襲われている2020年。SNSでは様々な憶測が飛び交い、「フェイクニュース」が凄まじいスピードで広がっている。いかにも情報社会の現代らしいが、実は世界史を繙くと、太古の昔からフェイクニュース=デマやプロパガンダ(政治的宣伝)は存在した。『世界史を動かしたフェイクニュース』(宮崎正勝/河出書房新社)では、古代ギリシャやナチス・ドイツの時代を参照し、施されたフェイクがどのように歴史を動かしたかわかりやすく説明されている。
デマの語源は古代ギリシャまで遡る! 2500年前から嘘は政治を変えていた
フェイクニュースとはつまりデマのこと。その語源は紀元前5~6世紀のギリシャのアテネに存在していた「デマゴーゴス」で、大衆政治家に由来する。元々はネガティブな意味を持たず、大衆政治家とは、特権階級であった貴族と対抗する存在だった。
貴族などのエリート層の「デマゴーゴス」に対する敵意が、「デマゴーゴス」はフェイクニュースを操り大衆を扇動する不埒な人間、というイメージを作り出していったのです。
財力を持たない大衆政治家の武器は、民衆を引きつける言論や演説。誇張や過激な表現を使うこともままあったようで、次第に「デマ」はマイナスなイメージを持つようになった。この頃からすでに、政敵を蹴落としたり戦争を仕掛けたりするさい、デマが活用されていたという。デマの持つ長い歴史に驚かされる。
ナポレオンはロバに乗った小さな男? イメージ戦略という名のデマ
「わたしの辞書に不可能という文字はない」などの名言を残し、今なお知名度の高いフランスの英雄・ナポレオン。元々はコルシカ島出身、下級貴族の4番目の子供という出生であり、背が低く冴えない男が、皇帝の座につくまでには、イメージ戦略という名のフェイクニュースが欠かせなかった。
当時はテレビも写真もないため、大事なのは人の噂と絵画。大活躍したのがお抱え画家・ダヴィッドだ。この本の表紙にもなっている、嵐の中、前脚を高くあげた馬を乗りこなした勇壮なナポレオンの絵(「サン・ベルナール峠を越えるナポレオン」)もダヴィッドの作品。誰もがどこかで目にしたことがあるのではないだろうか。
ダヴィッドは、実際とは関係なく凛々しいナポレオンを次々と描いて宣伝に務めたのですが、それはナポレオンの「肖像画は本人に似ている必要はまったくない。その人物の天才が出ていればよいのだ」という主張に基づくものでした。
もはや開き直っているのでは、とツッコミたくなる。実際にサン・ベルナール峠を越えたときは、真っ赤な軍衣を翻してなどおらず、完全防寒の装備で、ロバに乗っていたそうだ。
ナポレオンには3時間しか眠らないタフな人だったという伝説があるが、こちらもフェイクだという。実際には休養をたっぷりと取る健康志向。ここまで徹底しているとあっぱれだ。
逆に、フェイクによって立場を失い、処刑までされたのがマリー・アントワネット。「子供に食べさせるためのパンがない」という母親の切実な訴えに「それなら、ケーキを食べれば良いじゃない」と言い放ったという今も有名な話は、革命派によるでっち上げ。
「バカで贅沢三昧なオーストリア女」(つまりは外国人)として、民衆の憎悪の対象に仕立てられてしまったマリー・アントワネットは、最後はギロチンにかけられてしまった。
「大ウソ」で戦争は起きる。フェイクニュースにはご用心
誰もが教科書で学ぶ「ナチス・ドイツ」よるユダヤ人の迫害はプロパガンダによって引き起こされました。ヒトラーは自著の中で「デマゴギー」、大衆に対するウソによる政治的操作について、できるだけ大きなウソをつくべきだと述べている。
大衆は小さなウソは疑うけれども、そんな大きな、恥知らずなウソは存在しないだろう、だから事実なのだ、と思ってしまうのだと。実際にヒトラーや、ヒトラーのもとでプロパガンダを行う宣伝大臣を務めたゲッベルスは、メディアを使いフェイクニュースを繰り返し流すことで大衆を操作し、ユダヤ人を迫害、戦争にも踏み切った。
大ウソほど人は信じてしまう、何だか現代にも陰謀論やヘイトスピーチなど、思い当たることがたくさんある気がしないだろうか?
今はフィクションとして有名な「アトランティス王国」や「黄金の国ジパング」を大衆は実在すると思っていた。「ドラキュラ伯爵」のモデルの一人として知られるルーマニアのヴラド公は、創作がひとり歩きしてしまっているが、祖国では名君として今も尊敬される存在だ。
「これはフェイクニュースかもしれない」、と考え、情報を集め検証する能力は、今後益々必要とされそう。まずは歴史から学んでみてはどうだろうか?
文=宇野なおみ