日本のロック界のスターにして異端児! 忌野清志郎が遺した名言には成功のためのヒントが

エンタメ

公開日:2020/6/6

『使ってはいけない言葉』(忌野清志郎/百万年書房)

 2009年に逝去した国民的ロックスター・忌野清志郎は、何かと言うと物議を醸す“問題児”でもあった。例えば82年、生放送の音楽番組でトーク時にかみ続けていたガムをテレビカメラに向けて吐きつけた。清志郎が覆面で参加したタイマーズというバンド名だって、「タイマ」が違法薬物のことを指しているのは明白だ。そんな彼が生前に遺した名言を集めたのが、忌野清志郎『使ってはいけない言葉』(百万年書房)である。

 清志郎の本音がストレートに綴られている本書だが、まず印象的だったのは、清志郎がかなり早い段階で将来のヴィジョンをイメージしていたこと。高校時代から“ロックで独立”することを実直かつ具体的に信じ続けた彼は、こんなことを述べている。

「自分がはっきりとイメージできるものは、いつか必ず実現する」という大昔の偉人の言葉は、どうもウソではなかったらしい。きみも夢があるなら、一度きちんとマンガにでも書いておくといいだろう。ただし、はっきりと、だ。(P.32)

 言わんとしていることは殊更特別ではない。「思考は現実化する」という、様々な自己啓発書で頻繁に見られるライフハックであり、実践しているビジネス・パーソンも多い。功成り名を遂げた清志郎はこの法則を、ライフハックという言葉すら知らずに実践していたのだ。

advertisement

 さらに初志を貫徹するために、バンドで大活躍する姿を漫画に描いたという清志郎。その漫画は5人になってからのRCサクセションが活躍する姿だった、というから、彼のイメージ・トレーニングの徹底ぶりが分かる。

 また、冒頭で清志郎を問題児と述べたが、具体的には歌詞に原発問題や反戦、メディア批判を織り込んでいたことも、ザ・ブルーハーツなど後続に影響を与えた。清志郎の一貫してブレないスタンスは、こんな発言からも読み取れる。

反原発集会へのお誘いも多かったけど、そういうところへ行って歌えば受けるの当たり前だし。目にみえててつまらない。むしろ推進派の集まりに呼ばれてやりたかった。(P.75)

 そんな清志郎を聞き分けの悪い問題児と見るむきもあったが、実際本書で彼は、「まるで子供のようだと思われるかも知れませんが、夢を実現するには子供になるのが一番なんですよ」(P.15)と述べている。「小学生や幼稚園児たちはその辺の大人よりも、よっぽど本気で生きてます」という(P.15)。

 評者が覚えているのは、1999年、清志郎が「君が代」をロック調にアレンジした曲を作ったこと。その曲を収録した『冬の十字架』は、発売予定の2週間前にレコード会社の判断で発売中止となった。つまり、実際にその曲を聴いていない人々の間で大騒ぎになったのだ。この問題は新聞の社会面を賑わし、米国の『TIME』誌まで取材にくる始末。だが、いざリリースされると、「なんだ、フツーの歌じゃん」との反応が大半。その裏にはこんな名言もある。

問題になろうがどうしようがいいんだもん。それはまた対処していけば。だけど大人たちに相談しちゃうと「問題になりそうだからやめよう」ってことになっちゃうんだ。(P.194)

 清志郎の言葉は、アーティストらの薬物逮捕によるCD等の自主回収が行われている現在こそ、リアリティを持つだろう。清志郎の遺した音楽や言葉は決して古びることなく、生き残り、後発へと受け継がれてゆくはず。そんな事実を再確認させられるのが本書である。

文=土佐有明