「繊細さんがもっと生きやすい社会がやってくる」HSP専門カウンセラー・武田友紀さん『「繊細さん」の幸せリスト』インタビュー

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更新日:2020/12/12

 繊細な“気質”として知られるHSP(Highly Sensitive Person)。周りの環境や誰かの声に影響を受けやすく、疲れやすいために、「生きづらい」と思われることが多い。だが、繊細だからこそ味わえる幸せがたくさんあることをご存じだろうか。

 そんな新たな概念を広めるために刊行されたのが、HSP専門カウンセラーの武田友紀さんによる新刊『今日も明日も「いいこと」がみつかる 「繊細さん」の幸せリスト』(ダイヤモンド社)である。

『今日も明日も「いいこと」がみつかる 「繊細さん」の幸せリスト』(武田友紀/ダイヤモンド社)

 自身もHSPであり、HSPを「繊細さん」と呼んで親しむ武田さん。この本には、繊細さんの有り余る可能性が優しい目線で綴られている。今よりもっと自分を知るため、もっと温かな人間関係を築くため、繊細さんは何から始めたらいいのだろうか。本書の魅力と活用法について聞いた。

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直感、表現、良心…自分にあてはまらない要素こそ、これから花開く

 もしあなたが自分の繊細さに悩んでいるなら、まずは武田さんの書籍の中でも悩みの解消にフォーカスした『「気がつきすぎて疲れる」が驚くほどなくなる 「繊細さん」の本』(飛鳥新社)をおすすめする。自分の繊細さとうまく向き合えるようになってきたら、次のステップとして本書『「繊細さん」の幸せリスト』を手に取ってみてほしい。「『繊細さん」の幸せリスト』には、「悩みの先にある繊細さを活かした世界を知ってほしい」という思いから、繊細さんの幸せを見つけるための53のコツが紹介されている。

 本書を読んでいると、心の壁に長年くっついていた「我慢しなきゃ」「誰かのために」といった気持ちがすこしずつ剥がれはじめ、そのかわりに「前からやりたかった」「本当はやりたい」という本音が溢れ出すような感覚を覚えるかもしれない。もしくは、自分の心の奥にはじめて手が届いたような不思議な感じを味わえるかもしれない。本の制作時のこだわりを武田さんに伺ったところ、次の答えが返ってきた。

「じつはこの本には、悩みの解消についてはほとんど書いていません。『不安』『疲れる』といった言葉もできる限り出していません。たとえ『不安にならなくていいですよ』と否定して書いたとしても、繊細さんはその字面から暗い雰囲気を感じ取るからです。そういった言葉はきっぱりやめて、幸せのふやしかたや、繊細さんのステキなところを全力でお伝えできるように心がけました」

 では、繊細さんのステキなところとは? 本書では「感じる幸せ」「直感の幸せ」「深く考える幸せ」「表現の幸せ」「良心の幸せ」「共感の幸せ」という6つの項目を、繊細さんの幸せのヒントとして提案している。

「6つのうち、どれが一番しっくりくるのかは人それぞれですが、繊細さんはどの要素も持っていらっしゃる印象です。もしかしたら、まだ気づいていない幸せがあるかもしれません。たとえば『表現の幸せ』は、高感度カメラのように『いいもの』をきめ細かく受け取って味わえる繊細さんの性質を生かした、豊かに表現する幸せ。文章、詩、絵、音楽、ハンドメイドなど、表現にはさまざまな形があります。今はまだ経験がない方も、自分らしく生きるにつれてブログやnoteを始めたりと、表現が始まっていくことがあります。6つの幸せのうち『自分にはあてはまらない』要素こそ、これから花開くかもしれない、という視点で読んでいただけたら」

愛をくれない人はくれない。自分がホッとできることを大事に

 本書では「アウトプット」の大切さについて、たびたび語られている。感じやすくて刺激を受けやすい繊細さんは、インプットするものが多い分、アウトプットすることで心が整うからだ。しかし、周りの気持ちを考えすぎることで、自分らしいアウトプットが押し込められてしまうことがある。

 本書には、会社員をしながら趣味で切り絵を楽しむKさんの例が紹介されている。自分の作品を人と比べて落ち込んでいたKさん。武田さんのカウンセリングで分かったのは、人からの評価に縛られていたことだった。必要とされるためには仕事でも趣味でも優秀でなければ、と健気にがんばってきた自分に気づいて涙を流したという。

「成果を出さねばという気持ちは、往々にして、愛されたい気持ちの表れです。『必要とされたい』『愛されるために、自分はこうでなければ』と思うのは誰しもが通る道ですが、そこで得られるのはじつは愛ではなく、ギブアンドテイクの取引。そこでいくら求めても、愛をくれない人はくれないんです。『役に立とう』という気持ちより、自分が楽しむことやホッとできることを大事にしてほしい。自分の本音や体調を大切にすることは、『自分を愛する』ということなんです。誰かから愛されることを求めるのではなく、自分で自分を愛するようになると、人生は変わっていきます」

 その後、Kさんは「能力がないといけない」と思うのでなく、「楽しいから、自分が見たいから作る」というスタンスになり、初の個展を開催。会社をやめてフリーランスになり、ますます作品作りを大切にした生き方をしている。興味深いのは、カウンセリングで自身の気持ちに気づいたKさんの体の感覚が変わっていったことだ。

「Kさんは色に強みを持つ方。カウンセリングの帰り道に電車に乗った時、中吊り広告の色がいつもより鮮やかに見えたそうです。『自分は自分でいい』と気づいたことで体の感覚が変わり、より繊細な力を発揮できるようになったのだと思います。自分がとらわれている価値観から自由になった時、繊細さんは本当に生きたい人生を求めるようになり、それを実行するパワーも強まっていきます」

「わかりあいたい」を手放せば、温かい人間関係を結んでいける

 人間関係に悩む人は、「共感の幸せ」に注目してほしい。相手の気持ちを大切に受け取り、深く共感できるのは繊細さんの長所だが、温かい人間関係を結ぶには「わかりあいたい」という思いを手放すことが大切だという。

「『わかってほしい』と相手に求めているうちは、まだ心が傷ついている状態。分かってくれる人はいるかもしれませんが、本当にほしいのは『私は私でいいんだ』という心からの『安心感』です。安心感は人から与えられるものではなく、自身の中に育てるほかありません。そうでないと、安心感を自分の外に求め続けることになります。」

 温かい人間関係を育てるには、「自分を大事にすること」が大切な土台となる。

「自分を大事にできないまま人に心を開こうとすると、自分に合わない場所に行ってしまったり、批判されるかもしれないと恐々と接してしまったりして、傷つくことが多いです。自分の好きなことや体調を大事にできるようになってから人に出会うと、思っていることがちゃんと言えて、相手の言葉も怖がらずに受け取れるようになります。『自分は自分でいい』という安心感が育つにつれて、相手の言葉に込められた優しさにも気づけるようになります。自分を大切にした状態で、心を開く。その時にはじめて、人と心が通じる感覚がわかるようになるんです。それが、人と関わる時に繊細さんが本当の意味でほしかったものです」

 1人でも心が通うと、「心を通わせられる」という認識になり、2人、3人と見つかっていくのだとか。ちなみに、非・繊細さん(HSPではない人)とも心を通わせることは可能だろうか。

「もちろん可能です。たとえばカップルでも、繊細さんと、非・繊細さんの組み合わせは少なくありません。繊細さんが『きつい言い方をしちゃったかな』と思うようなことも、非・繊細さんは全く気づいていないことがありますし、繊細さんにとってはいい意味で気を使わなくても安心できる相手。繊細さんがワーッと慌てるようなときも、非・繊細さんは動じない、という良さもあります。細やかじゃなくても、あったかい人っていますよね。相手が繊細さんかどうかより、自分にとって心地いい人かどうかのほうが大切だと思います」

会話をすれば「繊細さん」が見分けられる? ロンブー田村淳さんはやっぱり繊細さん

 昨年、ロンドンブーツ1号2号の田村淳さんがHSPであることを公表した。そのきっかけとなったのが、武田さんとのラジオ対談だ。多くの繊細さんに出会っている武田さんは、田村さんにどのような印象を抱いたのだろうか。

※どちらがいい悪いではなく、違いがあるという意味です

「繊細さんだな、と思いましたね。お話の間合いがとても細やかなのが印象的でした。私が話し終えたのか、それとも言葉をまとめている最中なのか、細かく見ていらっしゃるように感じました。コミュニケーションの細やかさは繊細さんによく見られるもので、言葉も間合いもざっくりしている非・繊細さんに対して、繊細さんは気づくポイントが多くて細かい。淳さんの場合は長年のお仕事で培われたものが大きいと思いますが、私の言葉をギリギリまで待ってくださる印象があり、テンポが他の人よりもほんのわずかにゆっくりだったように思います」

 相手の様子を受け止めながら会話するため、間合いがゆっくりである傾向は、繊細さん全般に言えること。他にも、「この人は繊細さんだ」と気づくような、わかりやすい特徴があるそうだ。

「繊細さんと話していると、非言語のやりとりが格段に多いです。相手の表情を読み取る精度が高く、自分から出すちょっとした微笑みなど表情のコントロールも細かいです。深く考える性質があるから、こちらが一言言った時に、繊細さんのなかでパーっと10ぐらい考えが広がっていく。うなずきひとつにも実感がこもっていますね。繊細さんどうしがリラックスした状態で話すと、この感覚がわかりやすいと思います」

コロナ禍で感じたことを覚えておこう

 環境の変化に敏感な繊細さん。現在のコロナ禍の中で何を感じているのだろうか。武田さんのもとには連日繊細さんたちからのお便りが届くほか、先日、この状況下で感じたことを語り合うオンライン交流会を開催し、繊細さんたちの声を聞いたという。

「大変な状況ですが、コロナ自体への不安はそれほどでもなく、在宅勤務やテレワークで人との距離を取り、自分のペースで過ごせるようになった今の環境は歓迎されているようです。今までオーバーワークで無理をしていたことに気づいたという声や、在宅勤務になることでまわりにアンテナを張って疲れることが減り、仕事の効率が上がったという声もありました」

 繊細さんにとっては、今の状況よりも、自粛や在宅勤務があけて会社通勤に戻ることや、ふたたび苦手な人と顔を合わせる不安のほうが大きいようだ。

「対処法は、今の状況で何が心地いいのかを覚えておくことです。元の環境に戻った時に、『人と会うのはいいな』と思えたらそれはOKですし、『やっぱりイヤだ』と思ったらその環境は合っていないかもしれません。いい感覚だけでなく、イヤな感覚も『自分の正直な気持ち』として大切にしてください。何がイヤなのかが分かれば、より自分に合った環境を探していけます」

アウトプットに時間をかけてもいい、そんな社会に変わっていく

 いい感覚も、悪い感覚も自分の中に置いておくことで、今後もし環境にズレを感じても柔軟に変わっていける。むしろ、今がいいからといって安泰ではなく、その時々の感情を大切にしながら自分を変化させていくことも大事だという。

「自分の感情に素直でいると、今はできても、いずれはできなくなることが出てきます。私の例をあげると、最初に悩みを解消するノウハウ本を書き、その後に生き方を見直すための本を書くなど、やりたいことが変化しました。だからこそ、これから書きたい本が決まっていますし、もう以前のような本は書けないだろうと思います。人間は変化していきますから、新しくやりたいことがでてきて、これまでと同じことができなくなるのは自然なことだと思います。」

 また、現代のめまぐるしい社会の変化は、もしかしたら繊細さんにとって幸せを感じやすい方向に向かっているかもしれない、と武田さんは指摘する。

「『手早く成果を出す』やり方に限界が来ているように思います。変化が激しい中で大事にされているのは、頭でパッとひねり出されたものではなく、経験をもとにきちんと考えて大事に生み出されたもの。SNSでも、そういったオピニオンは多くの人に読まれています。本来、繊細さんは深く考えて答えを導き出すことが得意ですから、変化の中できちんと考えて、考えを深めていける。社会もまた、アウトプットに時間をかけてもいいんだという風潮に変わっていくといいなと思っています」

 武田さんの話を聞いていると、繊細さんはもっともっとワガママでいいのだなと思えてくる。まずは、ほんの小さなことでもいいから、自分のあるがままの気持ちを受け止めて行動してみることだ。

「めまぐるしい社会の変化に伴って悩みは変わっていきますが、やりたいことをやる幸せやパートナーと他愛のない話をするあたたかさなど、幸せの軸は変わりません。自分の幸せを大事にすることが、社会の変化や悩みに流されない船のイカリのような役割になると思います。幸せって、たとえば、便利とかラクではなく、自分がうれしくなるものを身の回りに置いてみるとか、小さなことからでもいいんです。繊細さんは、外がお天気で嬉しいとか、お日様に干してふかふかになった枕が幸せなど、毎日の小さないいことにもたくさん気づけます。毎日の嬉しいことに目を向けて、大切にしてもらえたらと思います」

 最後に、繊細さんの豊かな感受性にもじんわりと染みてきそうな、おすすめ本を教えてもらった。

「石田ゆり子さんの『Lily ――日々のカケラ――』(文藝春秋)がおすすめ。宮崎駿さんの『もののけ姫』でヒロインのサンを演じられているのですが、『サンの気持ちが水彩画のように層になっていると感じた』といったことを書かれていて、感性を大事にしながらお仕事をされているんだなと。『感性を大事にすること』と『現実を生きること』は相反するようですが、そうではないことが伝わってきます」

取材・文=麻布たぬ 写真=武田友紀さん提供
※取材は、5月上旬、リモートで実施しました。