バブルの裏仕事を請け負って跳梁跋扈した金満ヤクザも! 平成の30年間で「天国と地獄」を味わった山口組の趨勢
公開日:2020/6/10
現在、ヤクザという存在は風前の灯となっている。平成3年には構成員、準構成員合わせて9万1000人いたヤクザが、平成30年には約3分の1の3万500人にまで激減。その最大の原因は、ヤクザでは食っていけなくなったことだ。平成3年に制定され、その後何度も改正された暴力団対策法(暴対法)によって、ヤクザはシノギ(生計を立てる手段)の多くを次々と失ったのである。
さらに平成21年以降、ヤクザに少しでも益する行為をした一般市民を罰することができる、暴力団排除条例が全国の都道府県で制定されると、ヤクザは普通の社会生活を送ることすら困難になった。ヤクザのままではマンションも借りられない、銀行口座も持てない、車も買えない、ホテルにも泊まれない、携帯電話も買えない、宅配業者も荷物を受けつけてくれない――といった状態にまでなってしまったのだ。
だが、バブル全盛期の平成初期には地上げなどの収益により、ヤクザの羽振りはかなり良かった。平成元年のヤクザ全体の収益は1兆3000億円ともいわれており、これを当時のヤクザ人口8万6000人で割ると、単純計算で1人あたりの年収は約1500万円にもなる。もちろん、末端の構成員はそれほどの高収入ではなかっただろうが、大組織の組長クラスになると高級クラブをはしごしながら一晩で2000万円以上使うことも珍しくなかったという。
このように、ヤクザは平成の30年間で天国と地獄の両方を味わったわけだが、そのヤクザのなかでも最大の組織である山口組の平成30年間の浮き沈みを克明に記録し、異色の平成史となっているのが『山口組の平成史』(山之内幸夫/筑摩書房)だ。
著者は、長年山口組の顧問弁護士を務め、最終的には建造物損壊教唆罪で弁護士資格を失ったという経歴の持ち主である。小説『悲しきヒットマン』(徳間書店)や、ノンフィクションの『山口組顧問弁護士』(KADOKAWA)、『日本ヤクザ「絶滅の日」』(徳間書店)などヤクザ関連の著作も多い。山口組6代目体制の確立にも深く関わっており、はては暴力団の忘年会で「寺箱の守り」(博打の金銭の出入りの管理)をしたこともあるというから、もしあなたが判別しろと言われてもヤクザと区別がつかないかもしれない。本書では、そういったインサイドにいた人間ならではの貴重な証言が数多く記載されている。
ヤクザも存分に味わったバブルがはじけた後は…
山口組にとっての平成は、昭和末期に起きた山一抗争(山口組と一和会の抗争)に勝利したことで華々しく始まった。そこに空前のバブル景気が重なって山口組は拡大し、「山口組にあらずばヤクザにあらず」とまで言われる状態となる。しかし、平成3年にバブルが崩壊し、日本が「失われた20年」と呼ばれる下降期に入るとしだいに経営は苦しくなり、その苦境に暴対法が追い打ちをかける。
その後は、平成9年の5代目山口組・宅見勝若頭暗殺事件、平成16年には前代未聞の組長の「休養宣言」、そして創立100年目の平成27年に起きた山口組分裂騒動と、日本最大の暴力団は激震に見舞われ続けることになる。そのすべてを著者は顧問弁護士として間近でつぶさに見てきただけでなく、ときには当事者として関与してきているのだ。
現在、山口組は3派に分裂しており、当局の締め付けも厳しくなるいっぽうだ。令和時代の山口組、およびヤクザ全体の未来について、ますます困難な状況は強まるだろうと著者は見ている。だが同時に、賭博にしろ、麻薬にしろ、売春にしろ、需要がある限り、それを提供する仕事がなくなるわけではない(そして、その需要はけっしてなくならないだろう)。その仕事を、長い間、半ば社会に公然と存在を認知・許容されてきたヤクザが今後も担い続けるのか、それとも警察などが管理・把握しきれない半グレや、海外のマフィアのような完全な地下組織が担うようになるのかという違いだけだと著者は語る。
ヤクザを締め付けるのは直接的には警察だが、それを支えているのは市民感情だ。結局、一般市民がヤクザをどう考えるかで、令和の時代にヤクザ組織が残るのか、消滅するのかは決まるだろう。ただ、江戸時代に「白河の清きに魚もすみかねて もとの濁りの田沼恋しき」(※)という狂歌が詠まれたことは最後に記しておきたい。
文=奈落一騎/バーネット
※狂歌のおおよその意「元白河藩主・松平定信のクリーンな政治が息苦しい。以前老中だった田沼意次の(不正蓄財があったとしても)自由で景気が良かった時代が懐かしい」
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