メガネを替えただけで彼女ができる!? 「世界一の眼鏡屋」が提案する、プライベート、仕事、旅行で使い分ける“眼鏡道”
公開日:2020/6/14
私が苦手な本のジャンルに、「自己啓発」と「ファッション」がある。前者は若い頃、友人に誘われて行ったところが自己啓発セミナーの集会で、目を輝かせた人たちに囲まれ軟禁状態の中、延々と説教されるのに辟易としたから。後者は、身なりにお金をかけるより好きな漫画やアニメに没頭したかったからである。そのため本の好みで云えば、その両方を兼ね備えている『取り替えるだけ! メガネが人生を変える』(星野 誠/株式会社コスミック出版)なんて本は、絶対に手に取るはずが無いのだけれど、「一点突破、全面展開」のようなタイトルに、つい惹かれてしまった。
なぜメガネも着替えないのか
著者は、「自称『世界一の眼鏡屋』」だそうで、「これまで手に入れたメガネは、総数五万本以上」という人物。本書にも、フレームの横幅が全長213mmある1世紀以上前のヴィンテージメガネや、フランスの展示会で審査員特別賞を受賞した6つ目のサングラスなどをかけている著者の写真が掲載されているかと思えば、個性的かつ落ち着きのあるデザインのメガネも多く紹介されていた。メガネをフォーマルとカジュアルとで使い分けている人はいるかもしれないが、著者は出勤するとき、接客するとき、夜に打ち合わせをするときの「一日に最低三回は、違うメガネにかけ替えます」と述べており、「なんでみんなずっと同じメガネで平気なのだろう」といぶかるくらい、メガネへのこだわりと愛着ぶりを示している。ピーク時には、個人用のメガネを1000本以上所有していたそうだ。
メガネを替えただけで彼女ができた
もう、このフレーズが出た段階で、いぶかしさ全開。このまま読み進めて良いものかと、不安になった。しかし、読みすすめる中で悪徳詐欺の被害に遭って多額の借金を背負ってしまい、裁判に出廷することになったお客に二つのメガネを勧めたという話に感心してしまった。一つは裁判に出廷するときのために、「嘘がつけない性格」を表し、真面目そうなメタルフレームと透きとおったレンズの組み合わせ。もう一つは、お客自身の落ち込んだ心を浮かび上がらせて、家にいる奥さんを心配させないために、華やかなデザインでカラフルなフレームに少しだけオレンジがかったカラーレンズを組み合わせたという。そのお客は無事に裁判に勝ったそうで、それがすべてメガネのおかげではないにしても、気持ちの面で良い影響があったであろうことは想像に難くない。そうした効果を考えれば、彼女ができるというのも確かにうなずける。
メガネは自分で選んではいけない
テーマがメガネなだけに、誰もが自分自身を「これまでの自分」という「色眼鏡で見ている」と指摘する著者が唱えるメガネ選びの鉄則は、「絶対に自分で選んではいけない」だ。自分が選ぶメガネの大半は、「自分が似合う」と錯覚している見慣れた姿にすぎない。それなら家族や友人に選んでもらうのはどうかというと、慣れ親しんだ印象とセットで選ばれてしまうだろうし、なにより「あなたが変わることなど望んではいない」と考えられ、やはりやめたほうが良い。だから著者は、「なりたい自分」をメガネに託し、「メガネ屋さんの店員さんと、とことん議論してください」と勧めており、そのためのお店の選び方についてもアドバイスしている。
一方、自分の枠をカンタンに破る方法として、「流行の真ん中に、思い切って飛び乗っていく」というのも提示しているのだが、その乗り方には二つある。一つはメガネのお店ではなく、ユニクロやZARAのようなファストファッションのお店のメガネコーナーで選ぶ。比較的ロープライスで、最も流行っているメガネを見つけることができるとしている。もう一つは、同じく服飾系のハイブランドショップに行ってみること。流行の最先端のメガネやサングラスがあり、それがやがて量販店に落ちてくるから、それを一足先に手に入れるのは「自分の未開拓の可能性を大きく広げる」ことになるのだとか。
メガネなら限られたスペースでもオシャレできる
個人的に、なるほどそうかと膝を叩いたのは「病気のひとをメガネで幸せにする」というくだり。病院に持ち込める物は必要最小限だし、一日中パジャマで過ごすことになる。そんな環境でも、メガネなら引き出しに何本か仕舞っておけるし、「車椅子で散歩や外出するときに、サングラスでオシャレするのも、きっと楽しいことではないでしょうか」と著者が述べているように、患者自身の気持ちを支えるのに役立つかもしれない。
実は私自身は斜視のうえ乱視も入っているため、若い頃に一度はメガネを作ったものの、煩わしく感じてあまり使わないまま放置してしまった。それから30年余、そろそろ加齢による視力の低下も起こってきたようだから、改めてメガネを作ろうかと思った。それどころか、奥さんの誕生日に新しいメガネをプレゼントしようかとさえ思ってしまい、まんまとハメられた形だ。だが好みの本ばかり読んでいてはツマラナイ、と教えられた気がする。
文=清水銀嶺