男女がひとつ屋根の下で“プレ夫婦生活”。40歳以上限定の結婚情報サービス会社が仕掛ける新企画ははたして…
公開日:2020/6/13
新型コロナウイルス感染拡大防止のため、多くの人が自宅にこもって過ごしたこの春。孤独や不安を感じる人が多かったのだろうか、婚活に乗り出す独身者が増えているという。ソーシャルディスタンスの確保が求められる中、パートナーを探す人々には、「オンラインお見合い」という新たな出会いの場も受け入れられつつあるようだ。
『結婚させる家』(桂望実/光文社)に登場する婚活プランも、男女の新しい出会いの場のひとつと言えるだろう。
主人公の桐生恭子は、40歳以上限定の中堅結婚情報サービス会社「ブルーパール」で働くカリスマ相談員。テレビや雑誌でも取り上げられ、婚活界のレジェンドとして崇められる彼女は、新企画をあたためていた。「ブルーパール」の社長・浩子の夫が経営する不動産会社は、都心に長く売れ残る大邸宅を抱えている。その邸宅に、交際中の会員を宿泊させようというのだ。
通常、「ブルーパール」の会員は、好感を持った相手と「交際」をする。たがいの性格や相性を見るための期間だから、「交際」は同時に複数の相手とすすめられる。そのうちの誰かをパートナーにしようと気持ちが定まれば、その相手との「真剣交際」に移ってもらう。「真剣交際」に入るときが「ブルーパール」を退会するときなのだが、このタイミングで会員はおおいに迷う。「もっといい人がいるのでは」と思うからだ。恭子の新企画は、「真剣交際」に踏み出せずにいる会員を1週間ほどその邸宅に住まわせ、プレ夫婦生活を経験してもらおうというもの。多くは半年ほどかかる「真剣交際」への移行期間が、1週間に短縮できるのではないかと考えた。
ところが、浩子社長は心配性だ。「知り合っていく過程を、ショートカットしちゃっていいものなの?」。負けじと恭子も反論する。「うちの会員は四十歳以上なんですよ。親の介護だの、健康面だので、会員の生活環境がガラッと変わる可能性があります。急いで決めちゃった方がいいですよ」。それでも納得しない浩子社長は、あるデータを恭子の前に差し出した。恭子が担当したカップルの退会後破局率が、他のスタッフより圧倒的に高いのだという。
なぜ自分の担当カップルだけが? ショックを受ける恭子だが、彼女は「私の言うことをちゃんと聞いて、その通りにすれば結婚させてあげるわ」と自信を持って、会員たちを強力にサポートしている。「真剣交際」に入る会員が多いから、破局率も高いだけ──自分は人を幸せにする仕事をしてきたはずだ。私のせいじゃない。そう自分に言い聞かせながら、恭子は新企画をスタートさせるのだが…。
“結婚”とは、相手のみならず、自分の価値観、考え方までもが浮き彫りになるイベントだ。まして恭子の新企画に参加するのは、いずれも中高年の男女。重たい過去や家族のしがらみ、体調の不安など、さまざまな「これまでの人生」を抱える彼らの“幸せ”は、ひとつだけには定義できない。
はたして会員たちと恭子は、彼らの“幸せ”にたどり着けるのか?
パートナーを求める中高年の男女はもちろん、リアルな描写で綴られる婚活の現場を覗いてみたいという読者も、しみじみとした勇気を得られる1冊だ。
文=三田ゆき