ネガティブな感情が膨らんだら… 「感情の数値化メモ」で不安をコントロール/1分自己肯定感⑧
公開日:2020/7/7
成功者は日々、自己肯定感のメンテナンスを行い、試行錯誤しながら失敗を成功につなげるサイクルをつくっているもの。毎日1分、自己肯定感を高めるメソッドを実践すれば、あなたもきっと「なりたい自分」に近づけます!
「自分の弱点」を把握する
パート1で解説したように私たちは、ネガティブとポジティブのあいだを行ったり来たりしながら生きています。そして、うまくいっている人は自分をフラットな状態に持っていき、感情を上手にコントロールする術を知っているとも書きました。
その術の1つは、「自分の弱さ」を理解することです。
ネガティブな感情がふくらんでしまっているとき、その不快度数を客観的に把握することはとても重要なスキルです。「怒り・不満・憂うつ・くやしさ・悲しさ」などのネガティブな感情によってイライラしていても、それを周囲にぶつけるようなことは極端に少なくなります。
これは自分の中に「弱い自分」がいるけれども、それがいつも優位に立つことばかりではないことも知っているからです。
私のクライアントに、学生時代、バスケットボールで国体に出場した経験のある40代の女性Kさんがいました。
彼女は忍耐強い営業スタイルによって生命保険業界で活躍し、2人のお子さんを育てるシングルマザーでもありました。公私ともに忙しいながらもうまくいっていた彼女でしたが、私のメンタルコーチングを受けたころは壁にぶつかっていました。
子どもたちが高校生になり、子育てが一段落。急に仕事がうまくいかなくなり、営業成績が落ちてしまったのです。話を聞くと、彼女の中には「成果を出せない自分は許せない」「負けるのはダメだ」という完璧主義的な考え方がありました。
これまでは、それがプラスに作用してがんばれたようですが、営業成績が落ちるというつまずきによって「焦り」や「とまどい」といったネガティブな感情がふくらみ、強みが弱みに変化。完璧主義を追い求めれば求めるほどうまくいかず、空回り。
これが、彼女の人生のスキーマ(心のクセ)。お話を聞いていくと、仕事以外でも、人間関係でも、完璧主義というスキーマからくる不本意な人間関係のこじれもありました。
1分コーチング テクニック②
不安をコントロールする「感情の数値化メモ」
そこで実践してもらったのが、「感情の数値化」。
自分は今、イライラしてしまっているけれど、過去一番の怒りの爆発に比べたら、いったいどのくらいのイライラなのだろう? 今、自分は将来への不安を抱えているけれど、今までで最高潮の不安と比べれば、いったいどれくらいの不安なのだろう?
正確なメタ認知はとても難しいことですが、あえて感情という定性的なものを、定量的にとらえようという試みでもあり、感情を見える化してコントロールするテクニックです。
最初に紙とペンを用意します。
そして、「自分がこれまでの人生で経験した、最悪にネガティブな感情」を原因となった出来事とともに思い出します。そのときのネガティブな感情が10点満点の10点となり、あなたの最大数値=モノサシの長さとなります。
次に、「今、自分が感じているネガティブな感情」の種類(不安、とまどい、焦りなど)を書き出し、10点満点中何点と採点します。
ネガティブな感情がふくらんでいるとき、脳内では扁桃体と呼ばれる部位が過剰に活性化。それが怒りや不安といった感覚を呼び起こし、決断力や判断力を低下させます。
ところが、ネガティブな感情を視える化、客観視すると、扁桃体の過剰な働きが治まっていくことが脳科学の研究で明らかになっています。
先述のクライアントのKさんは学生時代、自分のミスで大切な試合に負けた出来事を思い出し、そのときに感じた後悔をネガティブな感情の10点としました。そして、その点数を基準に、今、抱えている感情を採点していきました。
ネガティブな感情と少し距離を置きながら理解することで、その感情を上手にコントロールできるようになります。
たとえば、あなたが8点、9点をつけるような強い不快の感情を抱いてしまったら、原因となっている事柄から1時間だけでもいいので離れてみましょう。
仕事は完璧にこなさなければいけないという強い思い込みが原因ならば、むしろ逆に、思いきって休みをとり、サボってしまいましょう。ネガティブな感情の原因が職場の人間関係にあるなら、休むことで対象となっている人と物理的に離れることができます。
そして、緑の多い場所に出かけましょう。木々を見ながら歩くだけで心が落ち着きます。これは脳内でセロトニンと呼ばれるホルモンが分泌されるからです。
心が落ち着いたら、ふたたび「感情の数値化」を行ってみてください。抱えていたネガティブな感情は3、4点くらいまで下がっているはずです。
「感情の数値化」には、過去のよりネガティブな感情を思い出し、「あの最悪のときを乗り越えてきたんだから……」と考えることで冷静さを取り戻す効果があります。また、定期的に自分の感情を数値化することで、ネガティブな感情を手放すきっかけをつかむこともできるのです。
前述のKさんは「感情の数値化」を通じて、自分の弱みが「負けを認められない完璧主義」にあると気づきました。
それからのKさんは、仕事のことでストレスがたまると、「あ、また過剰な完璧主義が顔を出したな」と察知して、「感情の数値化」を行い、感情を数字で可視化する習慣がつきました。
そのことによって、「でも、この仕事ってそこまで完璧さを求められている?」などと自問自答することで、冷静さを取り戻し、この「完璧主義のスキーマ」を他の方法でもっと活かせないかと論理的に考えるようになりました。そうすると、仕事も人生全般も飛躍的にうまくいくようになったのです。
1分コーチング テクニック③
「弱み」を「強み」に変換するアクション
じつは脳科学でいうと、強みと弱みというのは「隣り合わせ」だといわれています。完璧主義なKさんの性格が仕事のモチベーションを上げるのに役立っていたように、状況や環境によって、その人の弱点だと認識されているものは、いとも簡単に「強み」に変貌を遂げるからです。
たとえば、営業トークが苦手で思い悩んでいたBさん。クライアントの前で自社のプロダクトの説明をする際に話を盛り上げることができず、いつも苦労していました。
Bさんは実直で、人あたりがソフトな性格です。友人の輪の中に入るといつのまにか人の聞き役に回るタイプ。
彼はそういう消極的な性格を治したいのです、と私のところにメンタル・コーチングを受けに来られました。
そんなBさんに私はひとこと「治さなくて、いいですよ」とお伝えしました。
その代わり、徹底的に「聞き役」に回ってください、と。
「プロダクトの説明を上手にしようとやっきになるよりも、相手が困っていること、問題に思っていることを質問をしてとにかく徹底的に聞くことに集中しましょう。そして、こんなバカな質問をしてもいいのだろうか? と思う必要はありません」
根がマジメなBさんですから、それからというものの、営業トークのかわりに、クライアントに質問をして、徹底的に聞き役に回るようにしました。それがBさんにとっても心地よかったのです。
すると不思議なことに、クライアントの引き合いもどんどんよくなっていきました。
人は話を聞くより、しゃべりたい生き物です。Bさんの「聞く力」によって、クライアントは気持ちよく話すことができ、満足度が上がったというわけ。多くの人がわれ先にとしゃべりたい世の中にあって、「おだやかに人の話を聞けるBさんの力」というのは貴重なのです。
これは、弱点だと思っていた部分がじつは大きな強みだったという端的な例でしょう。