娼妓と遊びまくり、生きたままアルコール漬け…スキャンダルだらけの私生活が暴かれる文壇事件簿
公開日:2020/7/3
素晴らしい作品を生む人間が必ずしも素晴らしい人間とは限らない。特に文豪と呼ばれた人たちは、ネジがいくつか外れたような退廃的な人間ばかりだ。私生活ではワイドショー顔負けのとんでもない事件を起こしていた人たちも多いのだ。
そんな文豪たちのエピソードを教えてくれるのが、『文豪春秋』(文藝春秋)。文藝春秋創業者・菊池寛が文豪の秘密をこっそり教えてくれるというスタイルで繰り広げられるマンガ版文壇事件簿だ。作者は、『有名すぎる文学作品をだいたい10ページくらいのマンガで読む。』シリーズで知られるドリヤス工場さん。端的にわかりやすく文豪たちの面白エピソードをまとめてくれるから、どんどんページが進む。
お笑い芸人で、芥川賞作家の又吉直樹も「常識を超えた変態性を知ると、その作家の作品に触れたくなるのが不思議。楽しみながら、読書欲を掻き立ててくれる漫画です」と本書を絶賛。実際にこの本をもとにほんの少し文豪たちの私生活を覗いてみるとしよう。
「芥川賞を下さい」…選考委員にお願いし続けた太宰治
太宰治といえば、誰もが知る文豪だが、芥川賞を受賞することができずにかなり悔しい思いをしたようだ。元々、太宰は芥川龍之介の大ファン。後年、ひたすら「芥川龍之介」の名前を書き連ねた恥ずかしいメモまで発見されているほど、芥川に強い憧れを抱いていたようだから、その名を冠した賞が相当欲しかったのだろう。とはいえ、選考委員の川端康成に「大悪党め! 刺してやる」とたてついたり、別の選考委員の佐藤春夫には芥川賞受賞を懇願する長さ約4メートルにも及ぶ手紙を送りつけたりしたというから、かなり迷惑だ。
石川啄木が貧乏だったのは、娼妓と遊びまくっていたため!?
「はたらけど はたらけど猶わが生活楽にならざり ぢっと手を見る」。石川啄木といえば、『一握の砂』のこの歌が有名だから、「貧乏な苦労人」というイメージを持っている人も多いだろう。だが、実際は、「借金の天才」だったらしい。コーヒー1杯3銭、大卒初任給30円の時代、啄木は中学の先輩である金田一京助など計63人から総額1372円50銭を借金。借金しては、妻にお金を渡すことなく、娼妓と遊びまくっていたというのだから呆れる…。石川啄木は、作品のイメージで作者を見てはいけない好例といえるかもしれない。
生きたままアルコール漬けになった!? 文豪たちの酒豪伝説
文豪には酒好きが多いようだ。たとえば、若山牧水は大の酒好きで1日1升もの酒を飲んでいたといい、そのため肝硬変で亡くなったのだが、暑い時期に亡くなったのに腐臭がせず、医者から「生きたままアルコール漬けになったのでは」とまで言われたのだという。また、梶井基次郎は京都の三高時代、友人たちとお酒を飲んだ後、突然「俺に童貞を捨てさせろ!」と叫んだそうだ。だが、いざ遊郭に連れて行くと、吐くなどして散々手こずらせたというのだから、酒癖が悪いのにも程がある。
一方で、酒を飲めない作家もいる。一番有名なのは、夏目漱石。胃が悪く酒は飲めず、その代わりかなりの甘党だったという。また、川端康成は、酒は飲めないが酒席は好んだそうだ。1971年の都知事選挙の応援演説をしていた頃は毎晩赤坂のディスコに銀座のホステスを呼び、ミニスカートで踊る彼女たちの脚を長椅子に寝そべって眺めていたのだとか…。飲める文豪も飲めない文豪も呆れさせられるエピソードばかりだ。
その他にも、この本では、中原中也と小林秀雄の三角関係、谷崎潤一郎と佐藤春夫の「細君譲渡事件」、坂口安吾の「カレーライス事件」など、文豪たちの驚くべき姿が明らかにされる。あなたもこの本を読んで文豪の意外な姿を垣間見てはいかがだろう。文豪たちの私生活での姿を知ると、改めて彼らの作品を読み直したくなる。彼らの作品をまた違った視点から楽しめそうな気がする。読書欲がむくむくと湧き上がってくる一冊だ。
文=アサトーミナミ