欠けた刃物をリンチで使う“理由”が恐ろしい。元ヤクザYouTuberが赤裸々に語る極道事情
公開日:2020/6/22
「前科三犯、893番、懲役太郎です」この冒頭あいさつがおなじみの懲役太郎氏は、「元ヤクザ」という経歴を活かし、キャラクターを用いたバーチャルYouTuberとして大活躍中。日々リアルな裏社会の話を視聴者に届けている。
そんな彼が手掛けた『塀の中の元極道YouTuberが明かす ヤクザの裏知識』(懲役太郎/宝島社)には、貪り読みたくなるような中毒性が。頭にこびりつくほど生々しい、46の“タブー”が綴られている。
「戦慄×爆笑」のヤクザ業界の実情
東京と関西の間にある片田舎で生まれたという懲役太郎氏は、親に愛されながら育った。人生に転機が訪れたのは18歳の頃。当時交際していた彼女の姉がヤクザの親分の姐さんだったことを機に、関わり合いをもち、ヤクザとしての人生を歩み始める。組織内では“中の上”まで上り詰めたというから、手腕は相当なものだっただろう。
しかしやがて、ヤクザには破滅の道しか残されていないのではと気づき、組織から逃亡する。カタギに戻り、バーチャル刑務所に服役中という設定で裏社会の知識をYouTubeで配信するようになった。
本書に掲載されているエピソードは、どれも刺激的だ。なかでも背筋が寒くなったのは、懲役太郎氏が怖いと思いながらも当時憧れていた、あるヤクザの話。そのヤクザは事務所にあえて“切れない錆だらけのナタ”を置き、それでリンチを行っていた。理由は、刃が欠けて切れないナタであれば殺す気がなかったとみなされ、殺人罪には至らないだろうと考えたから。
また、自分の女に手を出した一般男性には、死よりも苦しいリンチを決行。素手で引きちぎった相手の睾丸を口の中に入れ家に帰したそうだ…。
“「こうしたら、チンコロ(密告)されんから。殺すと事件になるし、処理もめんどくさいからな。殺すのは簡単よ。でも、生かしておかないといけない」”
凄みがあるこの台詞は、裏社会を知り尽くした者にしかいえない言葉だ。
この人は60代で殺されたそうだが、今でも懲役太郎氏にとって特別な存在。現在の自身の話し方は実はこの人のマネなのだそう。絶対に敵わない相手がいたという事実は、彼の貴重な体験になったのかもしれない。
一方で、本書には思わず笑ってしまうようなヤクザのエピソードも。ある親分に孫娘が生まれた時のこと。その組は事務所に親分の自宅が併設されていたが、親分家族と組員の交流は一線が引かれていた。だが、孫の誕生で状況は一変。親分は孫にお姫様のような恰好をさせ、若い衆は馬になって遊び相手をするように…。
そんなある日、小さな女の子が困難を乗り越えて一人前のプリンセスになる海外のアニメに孫娘がドはまり。大きなテレビやたくさんのモニターがある事務所でアニメを見たがったため、事務所では朝から晩までアニメが流された。
すると、組員たちの間にさざ波のように変化が起こる。小さな女の子の健気な姿に涙し、作品に感情移入するようになってしまったというのだ。人間味のあるヤクザの姿がユーモラスに記されているのも、本書の魅力だろう。
本書には、指詰めや入れ墨の起源といったヤクザにまつわるコアな歴史話や、塀の中で出会ったというユニークな受刑者の話も。映画やVシネマとは比べものにならない生々しい実情にあなたもきっとド肝を抜かれるはずだ。
元ヤクザがYouTuberであり続ける理由とは?
現代社会におけるヤクザの生きづらさを踏まえ、過去や業界の実情を美化することなく語る懲役太郎氏。彼がこうした活動をするのは、恩義と贖罪の気持ちが両方心にあるからなのかもしれない。
懲役太郎氏は若い衆がいなくなり、超高齢化が進むヤクザ組織を「老人会」と比喩。裏社会でしか生きていけない存在をYouTubeの収益で救いたいと願う。
“もう、老人会の人たちは行き場がないことはわかっているんです。この人たちのついのすみかをどれだけ用意してあげられるか。行政や一般の企業がやりたがらない部分で、私ができるとしたら住居に関する支援じゃないかと考えています。それが懲役太郎の今後の目標のひとつになっています。”
彼には、「裏社会でしか生きられない人を見捨てたくない」というぶれない芯がある。本当の意味でのクリーンな社会の実現は、法や条例による規制だけでなく、こうした人の想いがあってこそ成り立つのかもしれない。前代未聞のYouTuber、懲役太郎氏。彼にはその特異な経歴だけではない、人気を支える理由がある。
文=古川諭香
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