アニメ、BL、ジャニーズ…「推しへの愛は世界共通!」海外のオタ女子事情が熱くて激しくておもしろすぎる

文芸・カルチャー

公開日:2020/6/25

『海外オタ女子事情』(劇団雌猫/KADOKAWA)

 昨年、痛ましい京都アニメーション放火殺人事件のあと、ツイッターには世界中のファンの追悼メッセージが溢れ、「Help KyoAni Heal」という支援の輪には最終的に237万ドル(日本円にして2億5800万円)が寄せられた。「日本のアニメは世界で人気」とは聞いていたが、これほどだったのかと驚いた方もいるのではないかと思う(そんな方はYouTubeで「世界のハレ晴レユカイ」を見てほしい。京アニ作品『涼宮ハルヒの憂鬱』のエンディングテーマにあわせ、世界のあちこちでコスプレをしたファンたちが楽しそうに踊っている)。

 1970年代前半から輸出されるようになった日本のアニメは、いまやしっかりカルチャーとして根付き多くのファンをひきつけている。またアニメ以外にもコミックやゲーム、アイドルなどさまざまな日本のポップカルチャーが人気を集め、世界各地で日本のコミケのようなフェスも開催されているし、もはや「OTAKU」も世界の共通語になっているのだ。

 そんな世界のリアルなOTAKUとはどんな人たちなのか。それを知るためには、このほど登場した『海外オタ女子事情』(劇団雌猫/KADOKAWA)が格好の1冊となるだろう。オタ女子を中心に世界のオタ最新事情を垣間見せてくれる本書には、アジア、アメリカ、ヨーロッパのオタ女子のインタビューのほか、事情通であるアニメイトバンコク初代店長の大谷章太朗さんやカリスマロリータモデルの青木美沙子さんのインタビュー、世界各地のオタ事情リポートなどが盛りだくさん。著者は『浪費図鑑 ―悪友たちのないしょ話―』で知られる劇団雌猫さんであり、同じオタ女子として「大いなる共感」を持ってリポートする目線にも好感が持てる。

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 とにかくその最前線の盛り上がりには、非オタの一般人もかなり驚くことだろう。本書でインタビューに答えるのは、声優オタになり日本でアニメ関連の仕事も経験し、現在は仕事とは無関係の別ジャンルでファンサイト運営を手がけるカリフォルニア出身のミケネコさん(33)、幼少期にゲームの二次元美少女にはまり、オックスフォード大学で卒論テーマに「BL同人誌」を選び、現在日本でノベルゲームの翻訳会社を経営するイギリス出身のフォックスさん(35)、アニオタからジャニーズ沼に目覚め、関ジャニ∞の大倉担でジャニオタライフを満喫する上海出身のチャボさん(24)ほか、「新撰組オタ」「V系オタ」「ヘタリアオタ」などあらゆる沼にはまった女子たち。作品を通じて日本語は自然に覚え、ネットを駆使して最新情報をゲットし、お金をためて来日してはオタ活にいそしむ彼女たちのリアルは、とにかく熱くて激しくておもしろいのだ。

 ちなみにこうした内容は安易に「日本スゴイ!」的な文脈に絡められてしまいがちだが、この本が伝えるツボはさにあらず。とにかく伝わってくるのは「『推し』へのほとばしる愛は世界共通!」という圧倒的な事実だ。実は私も欧州各地のオタがパリに集結する「Japan Expo」(来場者は24万人超!)に3回参加したことがあるが、そこで出会う方々の気配が日本のコミケで出会う方々とまるで同じで驚いたことがある。なかなかそうしたリアルな感覚は共有しにくいと感じていたが、この本はまさにその「同志」としての「世界のオタク」の力を認識させてくれて興味深い。規制の目をかいくぐってきっちり腐ったり、同人活動に勤しんだり、聖地巡礼したり…愛し方のお作法だって世界共通なのだ。

 なお、こうしたオタク力は「世界平和」にも一役買っている。イスラエルの日本大使館員も「中東でユダヤ系とアラブ系が一緒に楽しめる貴重な場がアニメイベント」と話していたというのだから驚きだ。

 このコロナ騒ぎでしばらくは来日してのオタ活は難しくなってしまった海外オタ女子たちだが、この本を読む限り、きっとめげることなく新たな楽しみ方を模索するに違いない。そして彼女たちの姿を秋葉原や池袋で再び見かけるようになったとき、私たちも「平和」を実感することになるのだろう。

文=荒井理恵