どうしてスカラベは、ふんの玉を転がすの?/ファーブル先生の昆虫教室②

スポーツ・科学

更新日:2020/7/7

朝日小学生新聞の人気連載「ファーブル先生の昆虫教室」が、1冊の本になりました! たのしいイラストとやさしい文章で、ファーブル先生が昆虫たちのおもしろい生態を教えてくれます。昆虫たちの奥深い世界に、大人も好奇心をくすぐられる児童書です。

『ファーブル先生の昆虫教室』(奥本大三郎:文、やましたこうへい:絵/ポプラ社)

スカラベ③ いっぺんにたくさん運ぶ方法

 スカラベは、ふんの玉を転がして行ってしまった。

 さて、ここで私からきみたちに問題。スカラベはなぜ玉を転がすのだろうね? どうせ食べてしまうのに、わざわざこんな玉を作ったりするのはめんどくさいと思わないか。

 じゃあね、こう考えてみよう。

 ここにとびきり大きな、チョコレートの山があるとする。スカラベにとって牛のふんの山は、人間にあてはめると、家ぐらいの大きさのチョコレートのかたまりみたいなものさ。

 でも、ほしがっている仲間が大勢いるから、早く持ってかえらないと、チョコレートはすぐになくなってしまうよ。さあ、きみならどうやって運ぶ? できるだけ速く、たくさん運ばないといけないんだよ。

 わかったかな。運ぶ方法は、三つあるよ。

 ①抱えて歩いていく。
 ②抱えたまま、ブーンと飛ぶ。(スカラベには羽があるからね。人間じゃこんなことできないね)
 ③転がしていく。

 ②は運ぶスピードは速いけれど、一度にたくさんは運べない。

「これじゃたりないなあ。もう1回もらってこよう」と思って、チョコレートの山にもどってきたときには、仲間がもう全部持っていってしまってる。それに飛ぶとすぐにつかれるよ。

 とすると、やっぱりいいのは③の方法だね。持ちあげたりしないから、少しぐらい重くても平気。

 それに、転がすためには、丸い玉の形になっているのが一番いい。どの方向にも転がしていけるから。四角かったら転がせないだろう。

 人間だったら、もちろん立ったまま手で転がすけど、スカラベは、前あしより、後ろあしのほうが長いので、こんなふうに、さかだちして転がしたほうが楽なんだね。

 つまり、スカラベは一番うまい方法を選んでいることになるんだ。体もそうできているし。すごいだろう。

text : Daisaburo Okumoto

スカラベ④ 体が道具になる

 ここで、きみたちに私からまた問題だ。

 スカラベの玉は運びやすいようにまん丸に作られているよね。だけど、どうやってこんな形にしたと、きみたちは思う?

 いや、いや、まず私からその問題に答えよう。私は最初こう考えたんだ。

 スカラベははじめ、ふんのかたまりを適当な形に作っておいて、あとから材料をつけ加えて少しずつ丸い形にした。それを転がしていくうちに、もっと形が整って丸くなっていくんだ、と。

 ところが、実際にスカラベがどんなふうにやっていくか、牧場で観察してみるとちがっていたね。

 スカラベはなんと、はじめから玉の形になるように、ふんの山からまるーく切りだしていったんだ。

 思いこみはいけないんだね。自分の目でよく確かめないと。科学の世界では正確な観察が何より大切なんだ。

 それにしてもスカラベの体は、ふんの玉を作るためにとてもよくできていることがわかるね。

 スカラベの体をもう一度よく見てみよう。

 頭のへりと前あしにはぎざぎざがついていて、ふんを切るためにのこぎりのような形になっている。そして後ろあしは長く、軽くカーブしていて、つめの先はとがっているだろう。スカラベはこの後ろあしで玉を両側からおさえながら、前あしを、いちに、いちに、と交互にふんで後ろ向きに玉を転がしていくんだね。

 さて、ふんの山から玉を切りだすと、今度は前あしで、玉の表面をたたくようにして整えていく。それから転がしはじめるんだ。

 転がすと土がつくよね。ふんの玉がよごれると思うだろ。でも本当はこれがいいんだよ。

 土はふん玉の表面をコーティングして、ハエなんかが卵を産みつけるのを防ぐ役目をするんだ。だって、ハエに卵を産みつけられて、その幼虫にふんの玉を食いあらされたら困ってしまう。

 だからスカラベがこうやって玉を転がしていくことは、ふんの玉を守ることになるのさ。

text : Daisaburo Okumoto

<第3回に続く>